類冬ワンドロ・笑顔/涙

「嗚呼、冬弥くん!君に涙は似合わない。僕の前では笑顔でいられるよう、僕は尽力するよ」

図書室の、開かれようとしていた扉がカタン、と音を立てて閉まる。
パタパタと廊下を走る音に類は小さく息を吐いた。
これで少しは図書室に来る輩が減るだろうか。
「…神代先輩」
「…ん?」
顎を指で持ち上げられた、目に涙を溜めた冬弥が名を呼びかけてくる。
首を傾げれば彼は珍しくムッとした顔をしていた。
「…。…ただの目薬、ですよね」
「そうだねぇ」
じぃっと見つめる冬弥に、類はにこりと笑ってみせる。
実は、昨日から目が痛いという彼が病院から貰ってきていた目薬を「上手く差せなくて」という冬弥の代わりに差してやっていただけなのだ。
それに何の他意もない。 
…だったのに。
「今のタイミングでお芝居は誤解されます。それに、エイプリルフールは昨日で…」
「…ふむ。冬弥くんは、僕の言葉が嘘で芝居だと?」
少しむくれた冬弥がそんなことを言うから、類は思わず笑顔のまま固まってしまった。
え、と言葉を漏らす冬弥に、にっこりと笑う。
…貼り付けた、嘘の笑顔で。
「冬弥くんには分かってもらう必要があるようだねぇ?」
「…えと、あの」
「笑顔を見せてほしいのは僕の本心だよ?」
「…か、神代せんぱ…!」
とさ、と図書室のカウンターに押し倒す。
確かに芝居がかってはいたが、よもや嘘だと言われるなんて心外だ。
彼にはきちんと分かってもらわないと。

真っ赤な顔の冬弥にキスをする。
可愛く微笑む彼が…好きだから。


「…神代先輩は意地悪です」
ふにゃふにゃとろとろの、快楽の涙を流しながらそんな事を言う冬弥に、笑顔になってしまったのは…ここだけの秘密、だ。

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