マメンタイン!(ボカロで崎本家・SSS

ダダダダダッ!!!!
二人分の廊下を走る音が響く。
下の部屋からメイコの、「廊下は静かに!!」という声がするが二人は止まらなかった。
「「マスター?!」」
激しい音と共に現れた二人の、緑の髪と黄色の髪が踊る。
「おう、来たな」
二人・・・ミクとレンの姿を認めたマスター、崎本裕保は大人気なく勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


場所を移動したリビングにはミクとレン、そして裕保を迎えたのはリン、そしてカイトとルカである。
メイコは台所で晩御飯の準備をしているらしい、普段はカイトかルカの仕事なので珍しいことだった。
それもそのはず、カイトとルカは今から別の仕事があるからで・・・。
「・・・なんで兄さんとルカ姉ぇが鬼役なんだよ?!!」
裕保に向かってレンが声を荒げる。
レンが指を向けた先には黒のタートルネックに虎柄のベストとハーフパンツ、レッグウォーマーを黒いレギンスと合わせた、所謂『鬼』の格好をしたカイトとルカがいた。
「去年メイコとリンにやらせたら子ども泣いたろ」
「・・・う」
裕保にあっさりそう言われてレンが詰まる。
今日は節分、この地区では子ども会に入っている家を鬼の格好をして廻るのが恒例で、崎本家もこれに参加していた。
去年は妙に張り切ったリンとメイコの所為で号泣する子どもが続出し、後で怒られたのだという。
その為、穏和なカイトとルカに白羽の矢が立ったのだろう。
・・・それは分かる、が。
「だからって、なんでこのカッコなのぉ?!!」
ミクがルカの身体を引き寄せながら言う。
「知らんわ。俺に言うなよなー・・・」
その抗議に裕保は憮然とした表情を浮かべた。
「どういうこと?マスター」
「これ、マスターが作ったんじゃねぇの?」
「アホか、そこまで器用でもねぇよ。後、姉貴が作ったんでも無いからな」
首を傾げるリンとレンに裕保は軽く笑いながら説明しだす。
それによると、裕保が実習に行っている保育園の節分で使う鬼の衣装が前日派手に破れてしまったらしく、それを裕保が修繕してくると言って持って帰ってきたのがこの衣装の様だ。
見本がいるから、と言ってわざわざもう一着借りてきたらしい。
「んだよ、それー」
「まああれだ、俺の日頃の行いがいいからだな」
むくれるレンに、裕保は「信用されてんだよ、俺は」と笑った。
「別に恥ずかしい格好でもないし・・・レン?」
「おれが、ヤなんだよ」
困ったように微笑みながら言うカイトに、レンは溜め息を吐きつつ膝掛けの毛布を肩からふわりとかける。
家族でも、見せたくは無い兄の姿だった。
それなのに全くの他人にこの姿を見せるなど。
「・・・やっぱり変かな?これ」
「変とかそういうんじゃないよ、寧ろ似合ってるけど!だからこそ嫌なんだって!」
分かってないなぁ!と声を荒げるレンに、カイトがきょとんとする。
「可愛いルカちゃんの姿を誰かに見られるのが嫌なの!!」
「み、ミク姉様?」
隣から、似たようなことを言うミクと戸惑った様子のルカの声が聞こえた。
どうやらあちらでも同じループに陥ったらしい。
「ふふ、しっかり頑張りなさい二人とも」
「カイトもルカも鈍感だからねぇ」
面白がっているようなメイコと裕保の姉、優亜の声が振ってきた。
何かを言おうとレンとミクが同時に振り返る。
そんな二人の目に飛び込んできたのは・・・先程メイコが作っていたらしい・・・恵方巻だ。
「カイト、ルカ、時間無いからその格好のまま食事しろよー」
「あ、はい」
「分かりましたわ、マスター」
裕保の声にカイトとルカがそれぞれ返事をする。
それに抗議の声を上げたのは勿論レンとミクだ。
二人の顔を見ればどうな想像をしたかは明らかで。
「レンもミク姉ぇもうるさいー」
コタツで暖を取りながらリンが言う。
関わる気はない、という事か。
見れば、裕保、優亜、メイコの3人がにやにやと二人を窺っていた。
倒すべき『鬼』は身近にいる。
悪い大人の構図を見た二人は確信的にそう思った・・・。

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