あまり世間からは注目されないけど
私にとって今日は……。
「あれ、志歩ちゃん?」
「…あ、絵名さん」
少し向こうに見知った顔があって、絵名は走り寄る。
「こんにちは」
「久しぶり!お買い物?」
「はい、絵名さんは…」
ふわりと微笑む志歩に、絵名は問いかけた。
それに答えた志歩が首を傾げたところで、誰かの声がする。
「日野森さん、良いの見つか…あ、東雲さん!」
「あれ、草薙さんも一緒だったんだ」
「はい。東雲さんもお買い物ですか?」
寧々の髪が揺れる。
何だかよく見る組み合わせだなぁなんて思いながら絵名は笑った。
「まあね。瑞希に振られたから一人で来たとこ」
「…瑞希さんに?」
少し意外そうな顔で志歩が言う。
「そー。なんか用事があるんだって言ってさぁ」
「…そろそろ愛想が尽きたんじゃねぇの?」
「はぁっ?!!…って」
よく知る声が上から振ってきて反射的に睨み仰いだ。
その先にはニヤニヤしている弟がいて。
「彰人?!」
「…東雲くん……」
素っ頓狂な声を出す絵名に、寧々が困ったような声を出した。
「何でアンタがここに?!」
「はぁ?頼まれたんだっつー…」
「あ、えっと、わたしがお願いして、来てもらったんです!」
詰め寄れば彰人は嫌そうな顔をする。
それに焦ったように言うのは寧々だ。
「…草薙さんが?」
「はい。東雲くんとは、クラスが一緒で……」
「え、うそ、うちのバカが迷惑かけてない??」
思わず寧々の手を握る。
彰人が眉を顰め、志歩が苦笑する。
「今迷惑かけてんのはお前だろ…」
「…仲良しだねぇ…」
小さなそれに二人いっぺんに志歩を見た。
「はぁ?仲良くねぇよ」
「志歩ちゃん、その感想はおかしいでしょ」
「…ま、まあまあ……」
寧々が止めに入り、「…東雲くんにはお世話になってるんです」と言う。
「えー?彰人にー?」
「…はい。今日も、バレンタインに白石さんからチョコを貰ったから、お返し考えるのに着いてきて貰っちゃって」
信じられない、と言わんばかりの絵名にクスクスと寧々が笑った。
「…私も、アドバイス貰って、助かってます」
「え?志歩ちゃんも?」
「…桐谷からチョコ貰ったっつーから、お返しになるようなもん考えただけだ」
志歩の言葉に驚く絵名に、彰人が頭を掻きながら言う。
「ま、オレも冬弥に贈るお返し考えるの手伝ってもらったしな」
「ああ、毎年律儀だよねぇ、冬弥くん」
彰人のそれに、あはは、と絵名が笑った。
とても真面目で良い子だから、彰人も大切にしたくなるのだろう、きっと。
彼女たちが言う、杏や遥もそうだ。
深く知っている訳ではないが、良い子たちだから、大事に、こうやってお返しまで考えて……。
「…あ」
「あ?」
「絵名さん?」
「どうかしたんですか?」
ぴたりと固まった絵名に、三人が首を傾げる。
なんでもない、と取り繕い、「ちょっと用事を思い出しちゃった」と手を振った。
きっと、こんな風に真剣に悩んでくれているだろう、【あの子】に思いを馳せる。
願わくば、三人が想い人と素敵なホワイトデーを過ごせますように。
そんなことを、思いながら。
(私も楽しみに待ってようかな、なんてね!)
「くしゅんっ!」
「瑞希ちゃん、大丈夫?!」
「あら、風邪かしらー?」
「…良かったらティッシュ、使ってね」
「あはは、大丈夫だよ、みのりちゃん、雫ちゃん!奏も、ありがと!」
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