「…彰人。今日は俺の生誕祭だな」
「…はぁ、まあ…そうスね」
唐突なそれに、彰人は頷いた。
碧の国の第三王子である冬弥、それを守護するのが護衛騎士の彰人の仕事である。
そうして今日は彼が17歳の誕生日だ。
内部分裂を起こしたばかりで、大々的な祭りが行われている訳ではないが…城は普段より明るく賑やかだった。
まるで、平和な時代が戻った時のように。
「…それで…城下町では祭りが行われているのだろう?」
「んぐっ。…誰に聞いたんスか、それ」
ワクワクしている冬弥に、彰人は思わず詰まる。
内部分裂なんて国民にとっては何の関係もない事象だ。
だからこそ、冬弥王子の生誕祭、と称して城下町ではささやかな祭りが行われている。
今まで行っていた花祭りより規模は小さいが…今の所問題なく執り行われている、と報告も受けていた。
いい事だ。
とても…良い事なのに。
「とある人の伝でな。…それで、俺の生誕を祝う祭りに俺が参加しないというのもいかがなものだろう」
「…いや……さっき参加してきたでしょう。パレードに」
「…。…馬車から手を振るのは参加とは言わない」
彰人のそれに冬弥は不貞腐れる。
彼は行きたいのだ、城下町に…一般参加者として。
ただそれはあまりにも危険ではないだろうか。
そう言おうとする彰人に冬弥が「駄目だろうか?」と問うた。
目を潤ませる冬弥に再び詰まる。
どうも彰人はその目に弱いのだ…昔から。
はぁ、と盛大にため息を吐き出す。
「…とりあえず…団長から許可が貰えりゃ…良いッスよ」
結果から言えば、団長から許可が取れた。
…取れてしまった。
団長の司曰く、「彰人が護ってくれるならば構わないぞ?」とのことで。
…内部分裂したばかりというのに軽すぎないだろうか。
まあそこまで信頼してくれている、ということなのだろうけれど。
「彰人!」
きらきらした表情で、変装した冬弥が呼ぶ。
「見てくれ!珍しい食べ物が置いてる!」
「…城下町じゃポピュラースよ、それ」
彰人のそれに冬弥は目を見開いた。
知らなかった、というから思わず笑ってしまう。
「食ってみますか?」
「!良いのか?」
「その為に来たんスよね?」
まるで子どもみたいな冬弥に苦笑しながら、彼が欲しがったそれを2つ買った。
「ほいよ、兄ちゃん!デートかい?」
「デっ…!ちげぇよ」
店の女主人から朗らかに聞かれ、彰人は否定してしまう。
「?違うのか?彰人」
いつの間にか隣に来ていた冬弥が首を傾げた。
まさか本人に違うともそうとも言えないから、ぶっきらぼうに買ったそれを渡す。
「おい、兄ちゃん!デートなら装飾品も見てってくれ!」
「あぁ?!!」
別の露天商が声をかけてきて、思わず過剰に反応してしまった。
隣では冬弥がくすくすと笑っている。
最近ではあまり見なくなったそれにまあいいかと彰人は息を吐いた。
「彰人!音楽がかかっている!」
「あー…。…踊りますか?」
「良いのか?!!」
「…ま、誕生日であるアンタの願いですからね」
目を輝かせる冬弥に手を差し出す。
乗せられた手をぐいとつかみ、彰人はステップを踏んだ。
春の空、まるでセカイに二人きり
いつまでもそれが続きますようにと…彰人は信じてもいない神に祈った
『楽しいデートで良かったですね、冬弥王子』
「ああ。君がアドバイスをくれたおかげだ。ありがとう、水の歌姫・遥」
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