誕生日小説で若レオネ×ちび優夜(鳩彼・SSS

そういえば今日が誕生日だったか。


ふと、カレンダーを見上げた私はぼんやりとそう思った。
分厚いファイルの中から一枚の紙を引っ張りだす。
その個鳥表には確かに彼の・・・坂咲優夜の誕生日が印されていた。
しかし確認したところで何をすべきか。
「・・・ふむ」
ファイルを元の場所に戻して私は立ち上がった。
・・・駅前にケーキ屋が出来たらしい。
少し立ち寄るのも悪くないだろう。




「おかえりなさい」
ドアを開けた瞬間、可愛らしい足音と共に坂咲優夜が顔を出した。
「ああ」
そう返して部屋に入る私の後ろを彼がついてくる。
いつもの光景だ。
帰るまで何をしていたかと聞くと本を読んでいたという。
好きな事をして遊べばいいだろうに、この少鳥は真面目だった。
「土産だ」
「え・・・?」
白い箱を手渡すと坂咲優夜は不思議そうに箱と私を見比べる。
「誕生日だろう」
きょとんとしている小さな子どもにそう言えば、大きく目を見開いた。
「何が良いか分からんから適当に選んできた」
屈んで箱を開けてやると色とりどりのケーキが姿を現す。
結局質より量を選んでしまった。
ある女性・・・坂咲優夜を溺愛する彼女が見れば、バカじゃないの普通誕生日はホールケーキでしょうよ!と怒られそうだが。
「・・・あの、・・・あの」
「どうした」
「ありがとう・・・ございます」
小さな声でそう言った坂咲優夜がぎこちなく笑みを浮かべる。
「・・・うれしい、です・・・すごく」
「そうか」
ケーキが嫌いなのかと思った、と苦笑混じりに言うとぶんぶん首を振った。
「・・・まさか、おぼえていてくれてると、おもわなかった、から」
「普通は覚えているものだろう。こと、お前の誕生日だ。忘れる訳がなかろう」
そういう私に照れたように坂咲優夜が笑む。
「すまないな、こんなもので」
「・・・そんな事!ない、です」
私の言葉に坂咲優夜が必死にそう答えた。
家の方が豪華で盛大だろうと言えば彼は少し困惑したような笑みを浮かべる。
「・・・パーティーは、にがてで」
「そうか」
返答に驚きながら私はそう答えた。
貴族のパーティーは堅苦しいものが多い。
形式的で確かに子どもには窮屈だ、まして成鳥に慣れていない彼なら当然だった。
それ故の言葉かと思っていたところに坂咲優夜がそれに、と続ける。
「・・・いえでいわってもらったことはありません。それをさみしいとおもったこともありません」
自虐的に微笑む様子は子どもとは到底思えなかった。
ぎゅっと己の腕で体を抱いて何かを覚悟しているように呟く。
「おとうとがしあわせなら、それで」
にこりと私に向ける笑顔はどこか無理をしているように見えた。
「・・・。今日はお前の誕生日だろう。お前自身の幸せを願っても良いはずだ」
「・・・」
俯いてしまった彼の頭に手を置く。
変なところで真面目なのだ、坂咲優夜は。
「後で買い物に行くか」
「・・・え・・・あ、あの!そんな、あの・・・」
「気にするな」
慌てふためく子どもの髪をくしゃりと撫でる。
驚いたように身体を竦めて私を見上げる坂咲優夜に小さく笑いかけた。
「誕生日だ。違うか」
だから気にするな、と言外に示す。
私は言葉で伝えるのは苦手だった。
それでも私の言いたいことが伝わったのか、坂咲優夜が嬉しそうに笑う。
はい、と答えた彼は確かに幸せそうだった。

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