聖誕祭剣舞曲 (天使物語・レイロナ

「なあ、ロナード」
「どうした、レイナス」
しんしんと雪が降り積もる夜。
柔らかな光が零れる小さな家の中で。
先程から何度も繰り返されている押し問答が再び始まった。
「今日はクリスマスだな」
「ああ、そうだな」
「今日こそは二人きりで過ごせると思ったんだよ、俺は」
「・・・そうか」
「で、お前は何処に行くって?!」
バン、とレイナス・シルバーロードが机を叩く。
「・・・。・・・何度も言っているだろう」
「俺がお前に何かしたか?!」
「・・・だから」
はあ、とロナード・ナイトスターが溜め息を吐いた。
「少しの間里帰りするだけだ。だから心配するな、と何度・・・」
「フロンティア(天界)に帰るって言うのか?!!」
「そうじゃない」
「じゃあ何処に帰る?!!ロナードの家は此処だろ!!」
「・・・あのな、レイナス」
「・・・煩いクズが。いい加減ロナードから離れろ」
諦めを含みながらも諭そうとするそれに被さって頭上から降ってきたのは怒気が含まれた声。
ともすれば目の前にいる彼と間違えてしまいそうなその人をレイナスは引きつった笑顔を浮かべて振り返った。
「・・・セイリオス」
レイナスが声をかける前に、たしなめる様にロナードが言う。
白いコートに身を包んだ・・・ロナードの双子の弟、セイリオス・ナイトスターがいつも以上に不機嫌そうな表情で立っていた。
剣を突きつけいられていないだけでもマシであろう。
「迎えに来なくてもよかったのだが」
「ロナードが遅いから心配になった」
「・・・すまない」
くす、とロナードが微笑んだ。
「え、もしかして里帰りって・・・」
「・・・。・・・ナイトスターの実家に帰る。・・・そう何度も言っていたが」
「・・・実家ってフロンティアではなく?」
「馬鹿か。ナイトスターは此処バルディアにある」
「・・・まさかの?!エルディアじゃなくて?!!」
「ああ。そうだが」
二人から話されるそれにレイナスは驚愕の声をあげる。
天使と人間の混合街であるエルディアではなく、人間しか住んでいないバルディアに戦天使である彼らの家があるとは・・・。
ちなみにエルディアとバルディアの総称をクラウディア(空界)と呼ぶ。
・・・まあそれは置いておくとして。
「で?クリスマスは恋人ではなく家族と過ごすのが決まりなのか?」
「別にそうではないが」
「後、レイナスはロナードの恋人としては認めていない」
黒いコートを着込むロナードが小さく笑い、セイリオスがそっぽを向いた。
どうもセイリオスはレイナスのことが嫌いらしい。
「クリスマスに俺たちはやることがある。・・・レイナスも来い」
小さくロナードが笑う。
開け放ったドアの外では雪がちらついていた。



「・・・よし」
先を歩いていた双子が立ち止まる。
連れて来られたのは教会の裏手にある森だった。
行く道で教えられた事によれば、彼らの家系は代々『舞い』を披露するのだそうだ。
舞いと言っても大きくは二つに分けられる。
新年をそして人々を祝う、祝福の舞い。
そして、今日は。
「我らが神を祝う・・・終焉の舞い、だ」
綺麗にロナードが笑う。
おかしなことだ。
祝う為に舞うそれが銘打たれる文言が「終焉」とは。
戦天使は破滅しか生まない、と言われる彼らの、人々には秘密裏に行われるそれはともすれば神への冒涜とさえも取れる。
それでもそれは代々受け継がれてきた。
人々の平和と・・・神への信仰と共に。

二人が光に包まれる。
髪が靡き、それぞれ剣が生み出された。
レイナスはこの瞬間がとても好きだ。
・・・もう彼に・・・ロナードにその力が残されていないにしても。
「・・・剣が短い」
「仕方がないだろう」
むくれるセイリオスにロナードが困ったように笑う。
「短くても変わらん」
「それは・・・そう、だが」
きっぱりと言われ、セイリオスは黙り込んでしまった。
イオメティスと名付けられた二対のそれは元々は同じ長さだった。
・・・あの時・・・レイナスがロナードの長い髪を切ってしまうまでは。
彼らの武器には各々の髪の長さと同等の魔力が込められている。
その時を思い出すのはレイナスにとっても辛かった。
「レイナス。この舞はナイトスター家にのみ伝えられていると言われていてな。昔はライにしごかれたものだ」
「ライは厳しそうだしなぁ」
ロナードのそれにレイナスも笑う。
彼らの従姉であるライは確かに真面目で分け隔てなく厳しい女性だ。
そういう事に関してはなおさらだろう。
「そういえばこの踊りを見ることが出来た者は幸せになれるらしいな」
剣を弄んでいたセイリオスがふとそう言った。
「?何故」
ロナードがそれに首を傾げる。
「新年祭の時とは違って公にはしてないから・・・とかなんとかってアルが言ってた」
「アル?・・・ああ」
聞き覚えのないそれに首を傾げたがすぐに軍の同期、アルバート・レインの事だと分かった。
どうやら彼にだけは懐いているらしい。
もう少し自分にもなついてくれればいいのに、とレイナスは無茶な事を思った。
「レイナス」
「うん?」
「特別に見せてやる」
珍しくセイリオスが笑う。
ロナードに似た笑みを見せる彼はとても綺麗だと思った。
「さて始めようか」
「ああ、そうだな」
ふわりと二人が舞う。
長い剣と短い剣が互いに交わり音を立てた。
セイリオスの長い髪が舞い、ロナードの短い髪が揺れる。
くるりひらりと頭上で繰り広げられるそれは幸せの象徴たるといわれる意味がよく分かった。
優雅でいて可憐、神聖でいて背徳さえ感じる戦天使の遊戯。
彼らにしか許されない・・・それ。
馬鹿みたいに口を開け、レイナスは食い入るように彼らを見つめた。
しなやかにロナードが空を飛ぶ。
セイリオスの長い髪が美しい銀の刀に絡みつく。
音のない空間に彼らだけが取り残され・・・まるでそれを祝福しているような、そんな。
ふと二人の剣から青い光が生み出されているのにレイナスは気付いた。
次々と生み出される光は音もなく白い雪に吸い込まれて行く。
その光を人々は呼ぶのだろう。

”天使からの贈り物”と。


雪降る街に光が降りる


神の生誕を祝い、悲嘆の終焉を願うそれは


戦天使が届ける幸せの舞

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