あけおめ小説!(鳩彼・レオ坂SSS

「はい・・・え?はい」
書類を捲りながら受話器を耳に押し付ける。
「あの鳥って3年前に引っ越したんじゃなかったでしたっけ?」
『引っ越したからと言って変わるわけはあるまい?』
「では引き続き調査するという事で」
『ああ』
電話の向こうの声はJ.Bだった。
「で?そっちはどうです?」
『ふむ。しばらくはこっちにいなければならないだろうな』
苦笑したJ.Bの声が耳に届く。
年末という忙しい時期にフランスの本部から呼び出しがかかったJ.Bは、一羽フランスにいた。
「大変ですねぇ、J.Bも」
『もう慣れたがね』
くすくすと笑いながら書類を閉じる。
俺の声に軽く笑うJ.Bは随分機嫌がよさそうだった。
本部の彼女とは随分長い付き合いだからだろうか。
なんだか楽しそうだ。
『そういえば・・・』
「はい?」
『そちらは、もう年は明けたのか』
「え?ああ・・・」
J.Bのそれに時計を見る。
気付かなかったがいつの間にか年が明けていたらしい。
そういえばさっきJ.Bが電話の向こうで誰かをあしらっていたのが聞こえたっけ。
・・・そうか、もう1年が過ぎたのか。
エージェントに盆も暮もない。
1年無事に過ごせるだけでも奇跡だ。
それでも。
・・・いや、だからこそ。
「明けましておめでとうございます、J.B」
『ああ』
立ち上がって窓を開ける。
遠い空の向こう、今は離れている貴方へ。
「今年も宜しくお願いします」
『・・・今年こそ調査が終わるといいな』
「ふふ。俺は例年通り、セクシー&ラグジュアリーに頑張りますよ」
『期待しているぞ』
J.Bとの静かな会話が空にとける。
冷たい風が頬を撫ぜた。

『・・・坂咲優夜』
「?はい?」


唐突に名前を呼ばれて、俺は受話器を持ち替える。
異国の言葉を奏でる心地よい声が耳をくすぐった。


『Un Bonne Année je l'aime』
「!!」
低い声で囁かれるそれ。

・・・ああ、もう。
J.Bには敵わない。


ずるずると座り込んだ俺の耳には、通話が途切れたことを伝える音が響いていた。

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