眼帯で着物なカイトさん(レンカイ・ボカロSSS

障子戸を開けると海斗が机に突っ伏して眠っていた。
廉はそっと近づいてしげしげと眺める。
なるほど凛が好きになるのも無理はないほどに綺麗な顔立ちをしていた。
瑠華に・・・自分が好きな彼女に似ている気がして廉が顔を顰める。
この恋はお互いに叶う事はない。
そう、叶う事はないのだ。
・・・瑠華と海斗は駆け落ちしてしまうのだから。

凛が着ていた着物を引き摺って海斗の傍に座り込んだ。
眼帯で半分隠された顔を見ながら勿体無い、と思う。
瑠華は海斗の凡てを知っているのかという疑問が頭をもたげ、廉は自嘲的な笑みを浮かべた。
いつか自分も隠された彼の半分を見てみたいと新たに芽生えた僅かな希望を抱き、廉は彼が今だけは安らかに眠っていられるよう願って眼帯に唇を寄せる。
着物の袂から覗く短刀が鈍く光った。




薄くその目が開く。
涙にぬれた碧い瞳がぼんやりと俺を映した。
「兄さんおはよー」
「・・・あれ?レン?」
身体を起こした兄さんに笑いかけると不思議そうな顔をする。
「あれ、なんで・・・?」
「兄さん、PV撮影中に本気寝したんだよ」
「・・・いつのまに」
驚いた表情の兄さんが可愛い。
っつかなんで気付かないの、兄さん・・・。
「今回はどんなコンセプトだっけ?リンとレンの曲だよね?」
「うん。確か和風だよ。男装リンと女装レンの入れ替わり新感覚PV?ってマスターが張り切ってたけど」
「・・・マスター・・・」
俺のそれに兄さんが苦笑する。
録音も撮影も終わって今俺は休憩中。
今は俺に扮するリンと花魁の格好したルカ姉ぇが隣のスタジオで撮影してるはずだ。
てか・・・。
「・・・兄さん、綺麗だね」
「そう?」
きょとん、と兄さんが俺を見る。
「レンに言われたくはなかったなぁ」
「いや、俺のは着物が綺麗ってだけでしょ。兄さんは兄さん自体が綺麗だから」
「・・・レン、恥ずかしい」
むう、と兄さんがむくれる。
着物を着た兄さんはやっぱりいつもと雰囲気が違った。
さっきまで寝てたからか、襟元が緩んでてそれがエロ・・・違う、いやらし・・・じゃない、えっと、色っぽい。
「兄さん、乱れてるよ」
「え、あ、有り難う、レン」
何となく目を逸らしながら兄さんの着物の襟元を合わせた。
このままだと俺がヤバイ。
主に理性が。
それにしても、なんで眼帯なんだろ?
マスターが言うには、兄さんが扮する『海斗』は元名高い将校で、戦いの最中に目に傷を負った設定だって言ってたけど。
盛り込みすぎだよなぁ、明らか。
兄さんの綺麗な顔が半分しか見れねぇじゃん。
それに兄さんと見る景色が共有出来ないって言うのも不便だ。
うん、やっぱり勿体無い。
「・・・眼帯さぁ」
「え?うん」
兄さんがふと呟くそれにはっと顔を見る。
隠されていない目元を緩ませて兄さんが笑った。
「視界が遮られちゃうから不便だよね。半分しか見えないんだから」
「兄さん?」
「・・・それに、レンが見てる景色の半分しか見れないなんて、ちょっと、やだな」


柔らかく微笑む兄さんはいつも以上に綺麗だ。


それから、この笑みが半分しか見れないのは、やっぱりちょっと勿体無いなって思った。

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