箱庭系ホワにょクラ

ふわふわとしたベッドの中、クラシックは目を覚ました。
さて今日は何日だろうか。
確かめようにもカレンダーがないのでわからない。
ころりと寝返りを打てば、鎖が擦れる音が耳についた。
『それ』から逃げる様にクラシックは起き上がり、窓を開ける。
窓の外には白い薔薇が広がっていた。
かたりと言う音に振り返ればこの家の模型が目に入る。
幼い彼が作っていたそれは箱庭療法の一環で。
思えばその頃から壊れていたのかもしれないな、と小さく笑った。
ならばこれは宿命なのかもしれない。
あの頃からずっと分かっていたことだ。
『ここは僕の家。ここには僕とクラシック姉様が住んでるの』
『この塀の向こうにいるのはだあれ?』
『こっちのお人形はお父様。しんじゃった。こっちにいるのはローザ・ブルー。お兄様の家にいるんだよ。閉じ込められてるの。かわいそう。この二人はノーブル君とビアン君。二人ともいい子なんだけどね、お姉様を狙うからよそのお国に行っちゃったの。それからこの金髪のお人形は・・・』
恐ろしいことをにこにこと話す記憶の中の幼い少年と、今の彼が重なる。
幼い彼が作り上げた箱庭に咲いた、小さな薔薇にクラシックは手を伸ばした。
此処から飛び降りてしまえば彼から・・・クラシックをここに閉じ込めたホワイトブレザーから逃げられるだろうか。
一瞬だけ思い浮かんだそれを首を振って打ち消す。
有り得ない、そんなこと。
自嘲気味に笑ったクラシックはふらりと窓から離れて再びベッドへと身を沈めた。
一度、此処に閉じ込められてただ一度だけ逃げ出そうと試みた事がある。
必死に探して、ようやっと見つけた出口には冷たい表情の彼がいた。
その後の事はよく覚えていない。
三日三晩、嫌と言うほど犯されたのは薄ぼんやり思い出せるがその時彼が何を言って、自分が何を感じたのかはもう思い出せなかった。
もうどうにでもなれと意識を手放した所為かもしれない。
よく子どもが出来たりしないものだと笑って、天井に手を伸ばした。
この期に及んで子どもが欲しいのだろうか。
そんなこと、赦される筈もないのに。
彼が作った箱庭に禁足されている限り、クラシックにそれは赦されない。
幸せを享受することも、人並みの愛を望むことも。
ホワイトブレザーの、歪んだ好意を浴びせ続けられるのを耐えるしかないのだ。



「あれ。起きてたの、クラシック」
がちゃりとドアが開いて、白い彼が顔を出した。
嗚呼、今日が始まってしまう。
「おはよう。愛してる」
微笑んだ彼は見えない仮面を張り付ける彼女に口付けた。
服が肌蹴させられる。
拒絶するのも諦めてしまった。
彼女の大きな胸に与えられる刺激とは別の、ちくりとしたそれを、クラシックは気付かないふりをして目を閉じる。


願わくば、双子の妹が幸せでありますように。

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