Citron Wedding(ホワにょクラ前提サンにょロザSSS

その話を聞いたとき、ローザ・ブルーはその男に対して心底吐き気を覚えた。
『クラシックを婚約者として我が国に迎えたい』
没落しかけているローザ・ブルーの家とは違い、その男の家は隣国の王家だった。
普通であれば願ってもいない話だ。
・・・そう、普通であれば。
「・・・クラを、あんな男に取られてたまるか」
ローザ・ブルーが呟く。
彼女の双子の姉、クラシックはいつも家のために我慢を強いられてきた。
行きたかった学校も、趣味も、・・・好きな男性も。
クラシックには今好きな人がいる。
ローザ・ブルーはその人に会ったことはなかったけれど、その人の事を話すクラシックは幸せそうで。
嗚呼、クラシックはその人の事が好きなのだな、と言わなくても分かってしまった。
クラシックには幸せになって欲しい。
その人の事を、家の所為であきらめてほしくはなかった。
「・・・クラの幸せは、私の幸せだよ」
独り呟いて、ローザ・ブルーは彼女の服に腕を通す。
仮面をつけてリビングへと向かった。
「・・・?ローザ?お前何を」
「クラ。・・・私、あの男の元に行くよ」
「・・・っ!何を、言って」
「ねえ、クラ。・・・幸せになって」
驚いた表情のクラシックの手を取って告げた言葉は少女が幼少から抱いていた想い。
「・・・ローザ」
「クラはずっと家のため・・・ううん、私のために我慢してきただろう?だから今度は私の番」
仮面越しにそう言って表情を和らげる。
でも、と言いよどむクラシックに大丈夫だと笑った。
彼女には幸せになって欲しいから。
だから今度は自分が彼女に代わって不幸になる番。
「クラが幸せなら私も幸せだから。だから大丈夫」
クラシックに囁くそれは、どこか自分に言い聞かせてるようだと、ローザ・ブルーは自嘲した。



「・・・嫌味な、家」
ちらりと見たローザ・ブルーはぽつりと溢す。
彼女は、クラシックとしてこの家に来ていた。
一卵性双生児で、よく似ているとはいってもいつかはばれるだろう。
もしそうなればどうなるのだろうか、と思いかけて考えるのをやめた。
家の体裁など、くだらない、と思う。
あんな崩れかけた家、どうだっていいのに。
「我が国へようこそ、愛しの硝煙姫」
通されたリビングの先のソファに腰掛けていた男・・・サンドリオンがにこりと笑う。
思わず嫌な顔になった。
「おや、甘い言葉はお嫌いですか?硝煙姫」
「・・・。・・・貴様が言うと余計に虫唾が走る」
「ふふ、手厳しいですね」
くすくすと笑いながらサンドリオンが近づいてくる。
思わずギュッと自分の身体を抱きしめた。
「・・・っ、私に、近づくな」
「何故?貴女は僕の婚約者でしょう」
目を眇めるサンドリオンに本能的な恐怖を感じ、無意識に足を引く。
初めて出会ったはずの男に何故ここまで怯えなければならないのかとローザ・ブルーはサンドリオンを睨みつけた。
「仮面を外していただけませんか?硝煙姫」
「断る」
「おや冷たい」
笑う、その表情が怖い。
「・・・っ!」
近づいてくるサンドリオンから距離を取ろうとし、何かに足を取られた。
思わず踏鞴を踏む。
よろめいたローザ・ブルーの手を取って、サンドリオンが嗤った。
「漸く手に入りましたね、硝煙姫。・・・いえ」

ローザ・ブルー

囁かれた一言に思わず目を見開いた。
何故、と思う。
彼はクラシックと結婚すると宣言したはずで・・・。
「クラシックさんを大切にしている貴女なら、彼女の代わりにこちらに来ると思っていた。予想通りです」
サンドリオンが嗤う。
「僕からクラシックさんを守ったおつもりだったのでしょう?・・・残念。僕は元々貴女を手に入れたかったのですよ」
嗤う彼に対して、卑怯者、と罵ったローザ・ブルーの声はサンドリオンに塞がれて消えた。

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