「神代先輩」
「…おや、青柳くん」
下校途中、冬弥が声をかけてきて、類は振り向いて微笑みかける。
「…お疲れ様です。それから、その」
少し言い淀んだ彼は、ふわりと微笑んだ。
「…お誕生日おめでとうございます」
「…ああ、ありがとう」
冬弥からの真っ直ぐなお祝いの言葉に類も表情を緩ませる。
「ふふ、さっきもお祝いしてくれたのに」
「…直接伝えたかったので」
「そうかい。とても嬉しかったよ。どうもありがとう」
「いえ。…先輩に直接言葉を届けることができて俺も嬉しいです」
冬弥がはにかんだ。
少し前ではなかなか考えられないほどに穏やかな表情を浮かべる彼に、類は目を細める。
「?神代先輩?」
「いや?…青柳くんが楽しそうだな、と思ってね」
「…そう、でしょうか?」
彼が首を傾げた。
綺麗な髪がさらりと揺れた。
「…。…もしかしたら…」
「?もしかしたら?」
少し考える冬弥が僅かに微笑む。
それにどきりと胸を高鳴らせつつ、類も首を傾けた。
「…神代先輩、少し付き合っていただいても良いでしょうか」
「勿論」
手を差し出す冬弥のそれを取る。
何やら何処かに連れて行ってくれるようだ。
楽しみだな、と類は笑う。
そこから他愛もない…最近行ったイベントの話、ショーの話、仲間の話など…をし、たまにはこんな穏やかな時間も悪くないな、と思いながら手を引かれるがまま歩いていた。
…その時。
「先輩」
冬弥がふっと指をさす。
その先には夕方と夜を混ぜたような色が広がっていた。
「…これ、は」
「先輩と同じ色だなと、思いまして」
綺麗な笑みを、冬弥が浮かべる。
「お誕生日の神代先輩に、どうしても見せたかったんです」
「…ありがとう、青柳くん。…とても、綺麗だね」 


彼からのプレゼントは…


とても穏やかで、忘れることができない…景色。



(人はそれを、幸福と……呼ぶのだろうね)

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