たんぽぽアンソロ後日談

「ただいまぁ」
暑い外から帰ったおれは玄関から部屋の中に声を投げる。
「お帰りなさい、レン兄様」
すぐにパタパタとルカ姉ぇがキッチンから出てきてくれた。
「お買い物ありがとうございます。大変だったでしょう?」
「んや、別に。…ルカ姉ぇ、アイス何でもいいっつってたから2種のピーチにしたよ」
「まあ、ありがとうございます」
「…初音さんの冷凍小ねぎは?」
「冷凍小ねぎは買ったけど、晩御飯で使うっつってたよな??」
奥から出てきたミク姉ぇに答えながら袋の中からアイスを取り出す。
んえー、と何とも言えない声を出す電子の歌姫にルカ姉ぇがくすくす笑った。
「…なぁ、兄さんは?」
諦めてチョコミントアイスを取り出したミク姉ぇと、他のものを冷蔵庫に片付けに行こうとしていたルカ姉ぇに聞いてみる。
ルカ姉ぇが「カイト兄様ですか?」と首を傾げ、ミク姉ぇがアイスで上を指した。
「お兄ちゃんなら、綿毛の抜け殻になってるよ」



「…そういうことか」
階段を登った先、兄さんの部屋の中で。
ぽやっと外を見ている兄さんは、あのイベントの衣装を着ていた。
…よっぽど嬉しかったんだな。
「…にーいさん」
「…レン」
よ、っておれは兄さんの眼前にミルクティアイスを差し出す。
ありがとう、と、はにかんだ兄さんがそれを受け取ってくれた。
「んで?珍しくセンチメンタルじゃん」
「…そう…かも」
えへへ、と兄さんが笑う。
まあ、分からなくもないけどさ?
「…会場中が青くてね、そこにいる全員が『KAITO』のことが好きなんだなぁって、すごく嬉しくて」
「…うん」
「終わっちゃうのが何だか寂しくて…この衣装着ていたら、まだ終わらないでいてくれるかな、って…」
曖昧な笑みの兄さんが、気持ちを吐露しながらリボンを弄る。
「気持ちは分かるけどさぁ」
珍しい兄さんを見たなぁなんて思いながら、おれはチョコバナナアイスを口に含んだ。
甘いそれは夏にぴったりだ。
「…綿毛だって風に乗って次の花を咲かせに行くわけじゃん」
「…」
「だからさ、たんぽぽくんにだって、次の花(イベント)が待ってるかもしんねーよ?」
おれは笑う。
兄さんの、青い瞳が見開かれた。
夏の空より深い青。
…すごく綺麗な、青。
「…そう、だね」
「そうそう」
兄さんが笑う。
やっぱ兄さんには笑顔が似合うよな!
「…レンってたまに凄くロマンチストだよねぇ」
「いいだろ、別に」
「ふふ。ありがとう、レン」
「…どーいたしまして」
微笑んだ兄さんもやっとアイスの蓋を開ける。
溶けてる!なんて叫ぶ兄さんに、おれはふは、と笑った。

たんぽぽは大成功の大輪を咲かせ、ミライに向けて綿毛を飛ばす。

その先に、新たな花が咲きますように、なんて、願ってみたりして。


(おれのたんぽぽには、いつまでも笑ってて欲しいからな!)





「ってか、これ個人イベントだろ?凄いよなぁ。うちのマスター、金も人望もないから無理だもんな」
「…本当のことでも傷付くことは言っちゃだめだよ?レン」

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