ボーカロイドは小春の夢を見る/ミクルカ

私はボーカロイド、初音ミク。
世間では歌姫と言われる…いわば、ボーカロイドの象徴的存在だ。
歌った楽曲は星の数ほど、それに伴って楽曲で使った衣装も山のように増えていた。
…何が言いたいか。
私、初音ミクは大層な衣装持ちである。
この数日天気が良かったからマスターが遂に衣装の衣替えをすることは聞かされていた。
私は収録があるから手伝えないということも伝えている。
だから、必然的に他の兄妹がそれを担っているわけで。
お兄ちゃんから「今日は特に天気が良かったから良く乾いたよ」と連絡が来たから、今日の洗濯当番はお兄ちゃんなのかなって思ってた。
…だから油断したんだ。
「たっだいまぁ」
適当にリビングに向かって声をかけ…ふと部屋を覗いたのがいけなかった。
「…え?」
私の思考は停止する。
有り体に言おう、ルカちゃんが寝ていた。
それだけでもかなり珍しいことなんだけど、あの。
……なんでこの、私の可愛い妹さん兼愛しい恋人さまはは私の衣装の真ん中で寝てるんでしょうか…?
いや、分かるんだよ?
多分よく乾いた洗濯物を畳んでくれてた、その途中で眠くなったんだろうということは。
私が分からないのはそういう事実ではなく!!
「おー、ミク姉ぇの巣だ」
「どわっしゃぃ!!」
やる気のない声が真隣から聞こえて私は物凄く驚いてしまった。
「あ、ミク姉ぇお帰り」
「たっ、ただいま、レンくん。いたの」
「俺今日仕事ねぇもん」
「いや、そういうことではなくね??」
「しっかしいつ見ても見事よなぁ、ルカ姉ぇ作、ミク姉ぇの巣」
「……はぇ??」
レンくんの、その言葉に私はまた固まった。
…今、なんて???
「…ルカちゃん、いつもこんな巣作ってんの?」
「なんか、『ミク姉さまの香りがして落ち着きますの。…秘密ですわよ?』って」
「おもっくそ秘密喋ったね?」
「あっはっは、さぁて俺は兄さんでも手伝ってくるかなー」
白々しく笑ってレンくんがキッチンに行く。
遠くで「誰か帰ってきたの?レン」というお兄ちゃんの声がした。
しばらくお兄ちゃんはこっちに気付かないだろう。
「……はぁ…」
溜息を吐き、そろそろと一城の姫の元へ歩を進めた。
もう、可愛いことしてくれちゃって!!
春の風が吹く。
夕方の…冬をほんの少し残した柔らかな風が。
ルカちゃんの、春色の髪を揺らした。
大好きなルカちゃんが作り上げた、私の巣。
寂しがり屋のくせにそれを見せないルカちゃんが作った…愛の巣。
「…本人、ここにいるんだけどな」
するりとルカちゃんの頬を撫であげて、私は優しくキスを落とした。
「好きよ、ルカちゃん。だから、起きて」


夢見心地のルカちゃんが素っ頓狂な悲鳴を上げるまで…後数分。

name
email
url
comment