「よっしゃーーー!!!」
「うわっ」
電子の歌姫、初音ミクの雄叫びに兄さんがびくっと体を揺らした。
「えっ、何、どうしたの?」
「31日に仕事入れたいマスターと、31日はルカ姉ぇとデートしたい初音さんとのリモート勝負に、多分勝った」
「多分ではなく、勝利が確定したのだよ、レンくん」
戸惑う兄さんに説明すると、ミク姉ぇがドヤ顔で言ってくる。
やだぁ、今日も初音さんがウザい。
「ああ、そういう…。…嬉しいのは分かるけど、急に叫ぶのははしたないからね?」
「えっへへー、ごめんねっ?」
クスクス笑いながら注意する兄さんに、ミク姉ぇがきゅるんと可愛く謝った。
初音さんマジ初音さんさぁ…。
「誕生日を迎える初音さんに死角はないのだよ!」
「…フラグだ、フラグ」
「はっはー!何とでも言いたまえ!」
「二人とも…」
おれとミク姉ぇのやり取りを笑って見ていた兄さんが、ふと辺りを見渡した。
「そういえば、ルカは?」
「ルカ姉ぇ?…そういやぁ見てねぇな」
「ルカちゃんなら、私のバースデーケーキ取りに行くって」
上機嫌なミク姉ぇが答えるけど、兄さんがこてりと首を傾げる。
「?ミクのバースデーケーキは今年も俺が作るよ?」
「お兄ちゃんのケーキ!お店より豪華だから正直嬉しい!…あれ?」
嬉しそうなミク姉ぇはその答えと、ルカ姉ぇがいないことに、漸く疑問を抱いたみたいだ。
「えっ、嘘でしょ」
慌てたように、さっき机に置いたスマホに目を戻す。
そこには。
『お姫様を奪還せよ、さすれば自由は与えられん』
「「……あー……」」
「……あぁああっ!!!」
哀れみ篭ったおれと兄さんのそれとミク姉ぇの咆哮はほぼ同時だった。
流石の兄さんもこれは注意することはなかった…あまりに可哀想だもんな……。
「…どんまい、ミク姉ぇ」
「…美味しいケーキ作って待ってるから、お姫様を迎えに行っておいで」
口々に言うおれたちに、ミク姉ぇが「一発入れても許されるよね…」と嗤う。
電子の歌姫っていうか、電脳セカイのラスボスっていうかなんていうか。
「おれは止めない」
「…聞かなかったことにしてあげるね」
「ふふ、ありがとう、レンくん、お兄ちゃん。初音さん、勝利をつかみ取って来るね☆」
ミク姉ぇが立ち上がってにっこり笑う。
大凡、誕生日を迎える人のそれではない笑顔で。

誕生日は、始まったばかりだ。



(プレゼントは自分でどうにかするものだよね?!)



「…誕生日ってこんなに物騒だったかな…?」
「…サプライズが全力なんだろ、知らんけど」

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