華燭を燈す/へし燭

その日は穏やかな日差しが差し込む、まさに平和と呼ばれるに相応しいそれだった。
長めの遠征から帰ってきたへし切長谷部は真っ直ぐにある男の部屋に向かう。
「光忠ァ!!」
「!…長谷部くん!」
びくりと肩を揺らした彼が振り向き、花が咲くように破顔した。
それだけで、ああ今回も無事に帰ってきたのだと実感する。
彼は燭台切光忠。
長谷部が最も愛している男だ。
「おかえりなさい、長谷部くん」
「ああ、ただいま」
へしゃりと笑う光忠の、烏羽のような美しい黒髪を撫でる。
短刀くんじゃないんだから、と笑む光忠は言葉とは裏腹にどこか幸せそうで。
この幸せが続けば良いのに、と思う。
柔らかく、雪解けの日差しのようなこの日々が。
愛する光忠がいる、この日々が。
「光忠」
「ん?なんだい?」
名を呼ぶと軽く首を傾げた。
その所作一つ一つが美しく、愛おしくて。
共に生きていたいと思うのだ。
「愛している。…俺と、華燭を燈してはくれないだろうか」
長谷部の言葉に光忠は蜂蜜色の目を見開き、それをとろりと蕩けさせる。
そうして。
「君となら、何度でも…幾度と無く華燭を燈したいと、思うよ」
庭に咲いていた待雪草の花が揺れる。
どこかそれは、自分たちを祝福しているかのようだった。




「またやってる」
少し笑って言うのは山姥切長義である。
その口調はどこか呆れたようだった。
「もう月初めかぁ」
早いよねーとひょこりと顔を出したのは内番を共にした加州清光。
実はこの二振りの公開告白は毎月初めの恒例行事となりつつあるのだ。
手を変え品を変え、まあ良く続くものだと長義は思う。
最初の内は驚いたが、初期刀の彼が言っていたようにすぐ慣れてしまった。
「長義、何してんの?行くよー」
「ああ、うん。今行く」
清光のそれに返事をし、野菜の入った
籠を持ち直す。

願わくば、彼らの燈す華燭が柔らかく永遠と続くものでありますように。

name
email
url
comment