ChildredPierce (ケンシン)

じぃっと弟のシンヤがスマホをいじるケンヤを見つめる。
末の弟であるアンヤに比べて言葉は少ないタイプだが…何かあったろうか。
「…どうした?」
スマホを置き、優しく聞いてやれば「…それ」と小さく指を差す。
その先は、ピアスによって穴の開いた耳朶があった。
「うん?」
「…いたく、ないの?」
こてりと傾げられる首に合わせて綺麗な黒髪が揺れる。
隠れる耳はまだ綺麗なままで。
そのままで居てほしいな、とふと思った。
「…痛かったぜ?ふっとい針がバチン!!ってさあ…!」
低い声で言えばその表情が小さく曇る。
怯えたようにも見えるそれに思わず吹き出した。
「ジョーダンだって!ま、俺はそこまで痛くなかったぜ?」 
「…そうなの?」
「言ってもまあ人によるけどなぁ」
カラカラと笑えばまたこちらを見つめてくる。
注がれる熱視線は、ケンヤの耳にあった。
「…何、開けてほしいのか?」
「…ふっ…」
綺麗な、シンヤの耳に手を伸ばす。
耳朶を指で擦ってやれば甘えたような声を出した。
「…シンヤ?」
「…。…ケン兄と、お揃いが…いい…」
とろりとした目でシンヤが言う。
可愛い事言うなぁ、と笑った。
「お前にはちょっと早いよ」
「…んぅ…」
すり、と耳朶を擦る。
「まだ子どもだろ?」
「…ケン兄とこんな事するのに?」
不満そうな顔は珍しいと思う程で。
言うようになったシンヤを引き寄せ、軽く口付けた。
「兄ちゃんに勝てない時点でまだまだ子どもなんだよ」
ニヤリと笑い、そう言ってやる。
年相応に頬を膨らすシンヤの頭を撫でた。
「なあ、まだ俺の可愛い弟でいてくれ、シンヤ」
「…」
不満を訴える赤い瞳に苦笑する。
こうなった時のシンヤは存外頑固なのをよく知っていた。
…そうして、この状態のシンヤに甘い自分も。
「…わーったよ」
「…わっ」
抱きしめ、すり、とまたシンヤの耳朶を擦る。
「俺が開けた歳になったらな」
「…本当に?」
「約束」
笑ってまた軽く口付けた。
ちゅ、という…部屋に響くリップ音。
「…ケン兄」
「ん?」
甘くとろけるシンヤの耳朶を擦る。
「…昼は、ケン兄の弟でいる、から……夜は…弟じゃなく、して」
柔らかい、弟の…シンヤの声が耳を擽った。
「…いつからこうなったんだろうなぁ、シンヤくんは」
「…?…ケン、に…?!」
ぽやりとしたシンヤを引き寄せ、深く深く口付ける。
「…お兄ちゃん煽ると痛い目に合うぞ?」
「…いい、よ」
笑うケンヤにシンヤも微笑んだ。
綺麗な黒髪が夜風に…靡く。
サイドテーブルに置かれた赤いピアスが…光った。




「シンヤくーん」
「…あ、はい」
呼ばれ、シンヤは振り向く。
さらりと揺れる髪が晒した耳に光る、あの日の赤。
ケンヤから受け継いだ赤を馴染ませるように耳朶を擦る。
ふわりと微笑んだシンヤは…呼ばれた方向に…駆け出した。

兄から…大切な人から受け継いだ赤と、時間と、愛を…抱き締めて。

「シンヤ君、よく耳を触ってるよね。癖?」
「…いえ、どちらかといえば…愛、ですかね」
(貴方が托した、大切なもの…その一部を抱いて俺は生きていく)

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