Q、夏と言えばなんですか?

A、
「うーん、やっぱり海かなぁ」
「あー、お前そういうの好きそう。俺は…そーね、お祭りとか」
「…山一択じゃないか?」
「年がら年中だろう、それは。…俺は花火かな。風情がある」


さて、草木も眠る午前2時。
所謂丑三つ時と呼ばれる時間に、へし切長谷部はようやっと仕事が片付き、ぐっと伸びをした。
たしか明日は非番のため、ゆっくり眠れる…と思った、その時である。
控えめに叩かれる扉の音に、なんだ、と声をかけた。
程無くしてそれが開き、ひょこりと顔を出したのは燭台切光忠である。
「…長谷部くん、ちょっと…いい、かな」
「なんだ、珍しいな」
おずおずと尋ねてくる彼を意外に思いながら部屋の中に呼び寄せた。
明らかに安堵した表情で光忠が部屋に入ってくる。
「あ、お仕事終わったんだね。お疲れ様」
「ああ。…それで、どうかしたのか?」
可愛らしく笑う光忠に一瞬流されそうになるも、やはり気になったのでそう聞いた。
彼は言いにくいのか少し視線を彷徨わせている。
「…無様だからあまり言いたくなかったんだけれど」
こちらが引かないのは分かっているのだろう、はあ、と溜息を吐き出して口を開いた。
「さっきまで主に付き合って恐怖げぇむの実況を見てたんだ」 
「…ああ……」
その、たった一言だけで全てを理解してしまい、少し遠い目になった。
主が定期的に嵌まるそれは、種類が豊富に存在し、難易度や物語性なども大きく変わる。
恐怖度も、あまり怖くないものだったり化け物が何度も追いかけてきたり様々だ。
「…それにしても、怖いのは苦手ではなかったか?」
「…。…今回は僕がお話を進める訳じゃないから大丈夫だと思ったんだよ…」
恥ずかしがりながらもそう言う光忠。
そういえば実況だと言っていたっけか。
「具体的に何をするんだ?」
「えっとねぇ、人がやっているのを主が使ってる電子板で見るんだ。自分だともたもたしてしまうけど、人がやっていると物語が滞りなく進んでる気がして、僕は楽しかったよ。…その分怖い所も早く行ってしまうんだけど…」
「ほう?」
「実況しているのが学生さんだったから、そんなに怖くないのかなって…ちょっと油断してたんだよね…うぅ、無様だなぁ…」
落ち込む光忠は可愛らしく…まあそれを言えば怒るだろうが…小さく笑いながら、長谷部は腕を広げた。
そこに、うぅー…と唸りながらぽすりと顔を埋めてくる。
「合う合わんもあるだろう。そう落ち込むな」
「長谷部くん…」
「俺も見てみたい。明日、日がある時間に教えてくれるか?」
「…うん」
長谷部のそれに光忠がふにゃりと笑う。
穏やかな時間だなと…思った。

夏の楽しみ、風物詩。

「俺は恐怖話だな。…光忠が唯一弱って俺を頼るから」

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