頭を撫でられる冬弥の話(冬弥総受け)

普段と変わらない、強いて言えば肌寒さが無い気がする…とある朝。
類は学校への道を一人、黙々と歩いていた。
あまり人がいない通学路に見たことがある後ろ姿を見つける。
「やあ、おはよう。青柳冬弥くん」
声をかけ、にこ、と笑えば振り向いた彼も僅かに頬を緩めた。
「…おはよう御座います、神代先輩」 
「今日は随分急いでいたのかな?寝癖が付いたままだよ」
「…え」
類の指摘に冬弥ははたと固まる。
どうやら気づいていなかったようだ。
小さく笑いながらぴょんと跳ねた濃い髪に手を伸ばす。
…びく、と震える彼を見なかったことにして、その髪を手で押さえつけながら弄び、スッと下へとおろした。
まるで頭を撫でるように。
青鼠色の目を見開く冬弥に笑みを作る。
「フフ、僕が直してあげよう」 
「…。…ありがとう、ございます」
ふわりと笑む彼に、無言の許可を得、類も表情を緩めた。
素直で可愛らしい子だと思う。
さらりとした髪は何度か撫で付ければ元に戻り、こんなものかな、と手を離そうとした…途端だった。
「こらぁ、類!!オレの冬弥に何をしている!!」
渾身の声に振り向けば眉を吊り上げた司が走ってきていて。
「…司せんぱ…?!」
「おや、司くんじゃあないか」
ぐいっと腕を引かれた冬弥が類から離れる。
司に抱き止められた彼は目を白黒させていた。
「…あ、の」
「冬弥、大丈夫か?類に変なことをされていないか?」
「フフ、司くんは存外失礼だよねぇ。僕がそんなことをすると思っているのかい?」
心配そうに冬弥の頭をなでている司に笑いながら言えば司がキッとこちらを見る。
「するだろうが、オレには!」
「だって、司くんだからね」
「理由になっとらんわ!…まったく、可愛い冬弥を類の毒牙に晒す訳にはいかん」
にこっとわざとらしく笑えば司は、そういうところだぞ!と言った。
類にとっては慣れたものだが、冬弥はそうではないようで。
「…司先輩。神代先輩は俺の髪を直してくれていたんです」
「なにっ?!」
「ほら、だからそう言っているだろう?」
困ったように言う彼に大袈裟に驚いてみせる司、そして肩を竦める類の構図が出来上がった。
「それはすまん。…いや、まあ類には前科がだなぁ…!」
「あ、酷いなぁ、司くん。ねぇ、冬弥くんもそう思うだろう?」
くす、と笑いまた彼の頭に手を伸ばす。
「こらっ、どさくさに紛れて冬弥を撫でようとするな!」
「えー、良いじゃないか。君自身はどうだい?」
文句を言う司に意を唱え、冬弥に振れば彼は柔らかく微笑んだ。
「…俺は…幼少期から頭は撫でられたことなかったので…少し、くすぐったいです」
「む、オレは撫でていたぞ?」
「そうですね。…周りの大人に、です」
寂しげに笑む冬弥に類と司は同時に手を伸ばす。
「ならばその分今たっぷりと撫でてやるからな…!」
撫でながら言う司に彼は小さく笑った。
「…ありがとう御座います、司先輩。先輩の手は優しくて…心が暖かくなります」
「僕はどうだい?」
「神代先輩の手は大きくて包み込んでくれて、とても…心地良いです」
類の問いにも素直に答える彼に、嬉しくなって撫で回していればどこからか殺気を感じる。
司も感じたようでキョロキョロと辺りを見回していた。
「…何やってんだよ…」
背後から低い声がする。
振り返れば、彰人がこちらを睨んでいた。
「おや。君は」
「彰人、…何故そんなに怒っているんだ…?」
司のそれに大股で歩いてきた彰人が冬弥の腰を抱く。
「冬弥は!オレの相棒なんスよねぇえ!」
凄みながらきっぱりと言う彰人に、類と司は顔を見合わせた。
さてどうしようかと思っていれば、腕の中の冬弥がこてりと首を傾げる。
「…彰人も、撫でてみたいのか?」
「…はっ?!」
思いもよらぬそれに、彰人が素っ頓狂な声を出した。
だが、彼はそれに気づいた様子もなくほんの少しだけ頭を前に出す。
所謂、撫でられ待ちのポーズに彰人ははぁ、とため息を吐いた。
「…いや、頭撫でるとかなんつーか…対等じゃないだろ…」
「…?」
「なら代わりにオレが…」
「いや、それとこれとは話が別ッスね」
手を伸ばす司にきっぱり言って彰人は躊躇しながらもそっと冬弥の頭に手を乗せる。
僅かに左右動かした手をすぐに下ろした。
だがそれだけでも嬉しかったようで、冬弥の表情は僅かに緩んでいて。
「…彰人の手、だな。安心する」
「…んだそれ」
気恥ずかしそうにふいとそっぽを向く彰人に、類は笑いながらまた冬弥に手を伸ばした。
「じゃあ次は僕の番かな」
「ズルいぞ、類!オレも冬弥を可愛がりたい!」
「アンタらなぁ…!!」
ぎゃーぎゃーと彼を囲んで揉めていれば、中心にいる冬弥が肩を揺らす。
幸せそうに笑う冬弥を見て、まあ良いかと思った。
他の二人もそうなのだろう、呆れてはいるが文句の一つも出てこない。
柔らかい冬弥の笑みが見られるならば…今はそれで!

(いずれは自分が勝つと信じて止まない少年たちの、水面下の攻防はまだまだ続く!)



「あれっ、冬弥くん?類に司先輩に、弟くんも!何楽しそうなことしてんのさ。ボクも混ぜてよ!」
「俺の頭を撫でるだけだが…暁山がやりたいなら、別に」
「「「冬弥(くん)!!!!」」」

name
email
url
comment