ワンドロ/スポーツ(彰冬)

「東雲ー!そっちそっち!」
「おー」
クラスメイトからの声に彰人は適当に返事をしてボールを蹴る。
今日の体育はサッカーだ。
昔から人並みよりは器用だったので得意とはしてきたスポーツである。
サッカーをやって食べていけたら、なんてぼんやり考えていたのも…まあ昔の話なのだが。
よっと軽く声を出し、相手のゴールに入れる。
ホイッスルの音にホッと息を吐いた。
ハイタッチしに来るクラスメイトに応じ、きゃーきゃー言う女子に外面の笑顔を貼り付けて手を振る。
…そういえば冬弥のクラスはあの辺だったかと思いながら、該当の教室に向かって手を挙げてみた。
何の意味もない行為だな、と苦笑しつつ、呼ぶクラスメイトの元に走る。
真面目な冬弥がこちらを見ているなんて有り得ない、と思いながら。


次の時間は古文だった。
なぜ体育の後に、こんな眠たくなる授業なのだろう。
設定した教師を問い詰めたくなりながら、彰人はぼんやりと窓の外を見る。
この時間は冬弥のクラスが体育のようだ。
冬弥はスポーツが苦手らしく…あんなにダンスは踊れるくせに…サッカーボールにオタオタしていた。
珍しい冬弥の様子に何となしに窓の外を見つめていると冬弥からパスをもらったクラスメイトがゴールを決めた所だったようで何やらハイタッチを求められていて。
「…ん?」
困ったような様子を見せていた冬弥が何やらキョロキョロしていた。
何やってんだ、と不思議に思った…その時。
「…は?」
窓の外を見つめている彰人の方を真っ直ぐ見つめ、ふわりと手を振ったのだ。
まるで、見ているのを知っていたかのように。
…知っていた?
彰人が冬弥に手を振ったのは…見ていないのに?
は、と顔が赤くなる。
まさか。
冬弥も、見ていた?
「…ウソだろ」
彰人の小さな声は、チャイムと重なってかき消された。
だってまさか。
真面目な彼が、授業をほっぽって自分を見ていたなんて!
彰人の顔がニヤける。
教室から飛び出しながら口元を手で覆った。
休み時間、体育が終わったばかりの冬弥と会うまで…後数秒。



(『スポーツは苦手だが、見るのは寧ろ楽しみなんだ
…彰人が、格好良いから…な』

なんて彼が微笑む未来まで、後何秒?)

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