隔週ワンドロ・威風堂々/キス

色気ってどうすれば出るんでしょうか。
冬弥のそれにきょとんとしたのはバーチャルシンガーのカイトである。
ダンスであんなに魅せ、甘い歌声を披露したカイトはマイクを下ろせば知っている『カイト』よりも柔らかい笑顔を見せる人だった。
その彼と新曲を歌うと知って彰人も冬弥も気合十分で。
これまた今回歌うのが『威風堂々』という…最初クラシックかと思ったとは冬弥の言葉だ…大人の色気が漂う歌だったのである。
「…うーん、そんなに気負わなくて良いんじゃない?冬弥くんたちは色気より爽やかさを出した方が気持ちよく歌える気がするし」
「…でも、カイトさんみたいに爽やかさのなかにある色気も欲しいって、思うんです」
真剣な顔で話し合う二人に、何の話だと突っ込みたくなりつつ彰人は水を飲んだ。
ぶっちゃければ冬弥には既に抑えきれない色気があるのだからそれ以上特別なことをしないで欲しいというのが本音である。
「色気、ねぇ。意識して出せる訳じゃないから…うわっ?!」
少し困ったようなカイトが急に驚いたような声を出した。
傾いた身体の先、彼を引っ張っていたのはバーチャルシンガーの鏡音レンだ。
「れ、レン?」
「カイトはこれ以上色気出さなくて良いから!」
「えぇ?」
むくれるレンにカイトは心底困った顔をする。
「だから、わざと出してるつもりないし」
「無自覚なのが一番困るんだよ!カイトのせいで普段より想いの光が荒ぶってるんだよ?!」
「えー……」
怒れるレンにカイトは戸惑いながら小首を傾げた。
何だろうなぁと思いつつ彰人は楽譜に目を落とす。
「なぁ、レン。カイトさんみたいな色気を出すにはどうしたら良いだろうか?」
「え、それオレに聞くの?」
冬弥の質問にレンがきょとりと目を瞬かせた。
「…?と、いうと?」
「オレより、彰人のが詳しいんじゃないかってこと!!…ほら、行くよ、カイト!」
「え、あ、ちょ、レン!」
「…??」
グイグイとカイトを引っ張るレンと、蹈鞴を踏みながらも着いていくカイト、それを見送りながら頭にクエスチョンマークを貼り付けた冬弥が残される。
「…彰人」
「…。…レンのやつ」
困った顔で振り向いた冬弥に、彰人は髪をガシガシと掻いた。
知っているのか、と問う彼の腕を引く。
「っ、彰人…?」
「…こーかいすんなよ」
「…へ、ぁ、んんぅー?!」
低く囁き、彰人は冬弥の口を塞いだ。
念入りに舐めまわし、弱いところを擽って、震える彼がぎゅっと彰人の服を掴むまでやめない。
だってそうだろう?
冬弥の色気を知っているのは、彰人一人で充分なのだから!!

彼の甘い声を誰にも聴かせてやらない、と彰人は己の口で封じ込めた。


…キスした後の声で歌ったそれは、あまりに色っぽいと想いの光が過去最大に荒ぶり、一時騒然となったのは、また別の話。

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