あきとふゆの夏

カラン、と音を立て、メイコのカフェに入る。
いらっしゃい、という朗らかな声に「どーも」と返した。
「今年の夏は楽しかったのねぇ」
「は…まあそうッスね」
楽しそうなメイコに首を傾げれば彼女はくすくす笑いながら視線を向ける。
その方向を辿れば見慣れたツートンカラーの彼がカウンターに居た。
「…冬弥?」
「彰人。…バイト、終わったのか」
「まーな。…んで?何見てんだよ」
見上げる冬弥の隣に座り、彰人はひょいとそれを覗き込む。
その手にあったのは小さなアルバムのようなものだった。
「小豆沢がこの夏の思い出に、と写真をくれたんだ。これは白石の誕生日の時だな。こっちは皆で花火をした時」
「…夏祭りの時のはなんであんだよ…」
「…ああ。暁山が彰人のお姉さん経由で渡してくれた。良い写真だったから、と」
「…ったく…」
げんなりとため息を吐く彰人に、冬弥は楽しそうに笑う。
まあ彼が楽しいならばそれでも良いか、と、そう思った。
「…今年の夏は、楽しかったな」
「…あ?」
「今まで行けなかったところに行くことが出来て、彰人と今まで以上に歌えて。…楽しかった」
噛みしめるように言う冬弥に、彰人は目を見開く。
何だかまるで、この夏だけで全てが終わってしまうみたいに言う冬弥に、何を言ってるんだと大袈裟な息を吐き出した。
「…彰人?」
「…夏が終われば秋が来て、冬が来るだろ」
「…?そうだな」
「その後春が来て…また夏が来る。そん時、今年以上に思い出を作りゃいいんじゃねぇの?…一緒にさ」
「…!…ああ」
ふわ、と冬弥が笑む。
なんだかその顔がこの夏一番幸せそうで。
彰人も目を細めて運ばれてきたアイスカフェ・オ・レを口に含んだのだった。



夏も、秋も冬も…来年もその先だって。

お前とずっと、隣で共に。



「来年の夏こそ、彰人の宿題が早く終わっていることを願っていよう」
「…蒸し返すんじゃねぇよ……」

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