司冬ワンライ・水着/泳ぎの練習

水がキラキラと光を跳ね返す。
美しいな、と思いながらも、司は後ろをそっと見た。
「…」
「…大丈夫か?冬弥」
少し、ほんの少し戸惑ったそれで冬弥が躊躇しているのを見、司は声をかける。
大丈夫です、と答える声がいつもと同じであることだけが救いだろうか。
ことの起こりは数日前。
フェニックスワンダーランドの宣伝大使として海の見えるホテルに行ったのだという話をすれば、冬弥が、「羨ましい」と溢したのだ。
珍しいな、と聞いてみればメンバーの一人が臨海学校に行ったと楽しそうにしていたらしい。
「今から海には行けないが…温水プールはどうだ?」
「…え?」
「きっと楽しいぞ!」
笑う司に冬弥も嬉しそうに微笑んだ。
水着がない、という冬弥と一緒に買いに行って…その時にも色々あったのは秘密である…ついにその日を迎えたのだが。
「まずは浅いところで水に慣れるようにするか?練習なら付き合うぞ!」
「え、でも」
「大丈夫だ!何せ、このオレがいるのだからな!」
ニッと笑い、司は冬弥の手を引く。
冬弥の水着を直視出来ないのもあったが…前だけを向いてプールサイドを歩いた。
先に水の中に入り、ほら、と手を伸ばす。
「…冬弥」
「…はい」
ふわ、と微笑み、チャプン、と音を立てて彼が水の中に入ってきた。
手を繋ぎ、水の中を歩く。
水飛沫がキラキラと跳ねた。
「身体の力を抜いて…そう、ゆっくりな」
「…はい」
ふっと身体の力が抜け、冬弥の体が水に浮く。
その体をそっと支えてやった。
「…司先輩、浮いてます!俺…!」
「わっ、冬弥!急に力を入れると溺れ…!」
嬉しそうな冬弥が沈む。
慌てて引き上げようと潜った。
水の中、音のない世界で2人きり。
「ぷはぁっ!…大丈夫か、冬弥?」
「…けほっ、は…い…」
はぁっと荒い息の冬弥を見、ほっとする。
それから、二人で顔を見合わせ笑い合った。


(夏の思い出、水の中


キラキラした二人の笑みが、水に溶けた)

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