司冬ワンライ・わんわんにゃーにゃー/いい夫婦の日

「しばお、待ってー!」
後ろから聞き覚えのある声がして、司と冬弥が振り返る。
「おぅわ?!」
「司先輩?!」
その途端、柴犬が飛びついて来て、司はバランスを崩した。
尻もちを付きかけ、何とか耐えたのは飼い主である穂波が何とか止めてくれたからである。
「すっ、すみません、司さん!」
「いや、オレは大丈夫なんだが…。何かあったのか?しばおは無闇矢鱈と走り出す性格ではないように思っていたが」
平謝りの穂波に首を傾げれば、彼女は申し訳なさそうにこちらを見た。
「…実は……」


穂波に連れられて現場にやって来れば、妹である咲希やその友人の一歌と志歩がいて。
「司さん!…と……」
「お兄ちゃん!とーやくん!!」
「おお、咲希!一歌に志歩もいたのか」
ぶんぶんと手を振る妹と、驚いた目でこちらを見る一歌と志歩。
駆け寄ると一歌が「ありがとうございます。私達だけじゃどうにもならなくて…」と言った。
「なぁに、気にするな!…それで?子猫はどこに?」
「あそこです」
尋ねる司に志歩が指をさす。
その先、少し高い木の上では子猫が震えている。
実は、練習の後久しぶりにしばおに会いたい!と咲希が言ったようで、三人が待つところに穂波が連れてきたようだ。
その時に木から降りれなくなった子猫を見つけたらしく、どうするかと思っていたところにいきなりしばおが走り出した、というのが経緯だったらしい。
「しばおがお兄ちゃんととーやくんを連れてきてくれたんだねーっ!」
「…なるほど、賢いですね」
「えへへ、でしょでしょ!」
「…なんで咲希が自慢げなの」
頭を撫でる冬弥に咲希が嬉しそうに言った。
それに志歩が呆れたように突っ込む。
くすくす笑う穂波と、もーと困ったような一歌に、仲が良いなぁと思いながらも司はふむ、と子猫を見上げた。
「冬弥」
「…はい」
呼びかけると冬弥が駆け寄ってくる。
彼にプランを話すと彼はすぐに頷いてくれた。
よっと木に足をかけて登り、細い枝に体重をかける。
「ええっ?!危ないよっ!」
「大丈夫だ!…ほら、子猫、あっちだぞ!」
驚く咲希に笑いかけ、司は誘導した。
その下では冬弥がブレザーを広げて待っている。
にゃ、と小さな声で鳴いた子猫があまり高くなくなったからだろうか、しばおがわん!と吠えた瞬間そこに降りた。
「…お帰り」
優しく抱きとめ、冬弥が微笑む。
「無事に降りたなっ…と」
それを確認して司も木から飛び降りた。
「まったく、可愛い顔して無茶をするやつだな」
「もうしては駄目だぞ?」
冬弥が抱く子猫を撫で、司は言う。
彼も軽く笑いながらそう続けた。
「お兄ちゃんすごーい!とーやくんもありがとう!」
「ありがとうございます。…無事で良かった。ね、志歩」
「なんで私にだけ…」
「ふふ。…急だったのに、ありがとうございます」
「…俺は何も」
みんなに礼を言われ、戸惑った様子の冬弥の肩を抱く。
「何を言う!冬弥がいなければ子猫は降りることが出来なかったかもしれないからな!なぁ、子猫?」
猫の頭を撫でると、にゃぁ、と鳴いた。
それに、冬弥も目を細めて優しく笑う。
「…お前の役に立てたのなら、良かった」
「うむ!…そういえば、こいつはなんだか冬弥に似ている気がするな?」
「そうでしょうか?俺はここまで無茶をしませんが…」
「そうか?未知の世界に迷い無く飛び込んでいく姿勢は、何だか似ている気がするぞ」
「…でしたら、飛び込んでいくことが出来るようにしてくれた先輩はこの子猫にとってのしばおのようなものですね」
ふわふわと言う冬弥が可愛くて司は息を吐いた。
にゃあ、と鳴く子猫が冬弥の肩に収まる。
ずるいぞ、と見つめたそれは伝わらず、司は手を伸ばした。



「…お邪魔そうだし、行こっか」
「だねぇ。子猫ちゃんもとーやくんに預けてたら大丈夫そうだし!」
「…。…なんか、司さん、お母さんを子どもに取られたお父さん、みたいだったね」
「し、志歩ちゃん。…わたしもちょっと思ったけど……」
「アタシも!なんだか良い夫婦って感じだよね!」
「…あはは…。…そういえば今日は十一月二十二日だよね」
「ああ、そういえばそうだね」
「確か、語呂合わせで……」

(彼女たちの脳裏にチラつくそれ

今日は一体なんの日?)

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