何か、歌が聴こえてきた。
夜の空に響く、綺麗な声。
それに釣られるようにマキノはふらりと部屋を出て…テラスに向かう。
「~♪」
冷たい風に、彼の歌声と黒の髪が靡いた。
「…よ、逢河」
しばらく聴いていたがふと彼…カイコクがこちらに気づいたようにひらりと手を振る。
少し勿体無いな、と思いながら近づいた。
「…カイコッくん」
「起こしちまったか?」
ふわ、と微笑む彼に、ふるふると首を横に振る。
「…起きてた、から」
「…なら良かった」
柔らかく微笑むカイコクは、昼間の表情を無くし優しいそれをしていた。
そして。
「…誕生日おめっとさん、逢河」
くしゃりとカイコクの手がマキノの髪を撫でる。
数秒遅れて今日が誕生日だと気づいた。
「…ありがとう」
ややあって礼を言えば、カイコクは満足そうに笑う。
「相変わらずお前さんは誕生日忘れてるんだねェ」
くすくすとカイコクは肩を揺らした。
マキノは別に誕生日はどちらでも良いのだ。
ただ、彼がこうやって律儀に祝ってくれるから忘れずにいられる。
…きっとそれは幸せなことなのだろう。
「…カイコっくん」
「?どした?」
首を傾げるカイコクをマキノはじっと見つめた。
「…もっと、歌ってほしい」
「…。しゃあねぇなァ」
息を吐き出したカイコクが口を開く。
彼が歌うのは、いつか聞いた子守唄。
月夜に流れる、マキノにとってのバースデーソングは。
二人きりの優しい時間は。

きっと、こういうのを幸福と…そう、呼ぶのだろう。


「月が、綺麗だね。カイコっくん」
「…っ!!おまっ…!……ま、肯定を返しておいてやる」

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