「…いいのかなぁ……」
「…おうどうした今日の主役」
ミク姉ぇが宙を見上げて今日何度目かのそれを呟く。
「いやあ…幸せだなぁって…思って……」
「…ミク姉ぇ、幸福度低めなん?」
「…そんなこともないんだけどねぇ」
おれの問いにうーん、と悩むミク姉ぇ。
悩むこと自体がもう駄目じゃねぇかな、と思うがツッコミはしない。
「普段が忙しすぎたんだって」
「…そうかなぁ…。…レンくん、何作ってんの?」
「薔薇」
視線をこちらに戻したミク姉ぇが首を傾げるからおれは短く答えた。
前に造花の薔薇を作ってからちょっと楽しくなってきたんだよなぁ。
「…薔薇」
「おう。パーティーの飾りに使おうと思って」
「…黄色の薔薇の花言葉は嫉妬じゃなかった?鏡音さん」
「その辺気にすんなよ初音さん、おれの色だぞ」
出来たばかりの黄色い薔薇でピッとミク姉ぇを指す。
今日は3月9日、所謂ミクの日、だ。
ただ、ここ数年忙し過ぎて忙し過ぎてゆっくりする暇がなかった。
だから。
『わたしは…お姉ちゃんの作ったご飯を食べてお兄ちゃん特製ケーキを食べてリンちゃんやレンくんとゲームして…その後ルカちゃんといちゃいちゃしたい…普通の1日が過ごしたいだけなんだよぉ…』
忙し過ぎた余り、ミク姉ぇが遂に限界を迎えた。
メイ姉ぇに泣きつき、マスターにお願いという名の説教をかましたうちの長姉がミクの日パーティーをしようって計画したんだよな。
ちなみに今は準備中で、メイ姉ぇとリンが食事の買い物中、兄さんとルカ姉ぇがケーキの作成中、おれが部屋の飾り付け兼ミク姉ぇのお目付け役って訳だ。
ミク姉ぇも大概ワーカホリックだしな。
「…レン、調子はどう?」
「兄さん!今クリプトン花束が出来たトコ」
ひょこ、と兄さんが顔を出す。
出来たばかりのそれを見せれば兄さんはくすくす笑った。
「レンは器用だねぇ」
「…兄さんがそれを言うかね…」
呆れるおれは手の中にあるそれに目を留める。
「なにそれ?」
「ああ、これ?…本日の主役に」
こと、とガラスカップをテーブルに置いた。
中身はスポンジケーキとクリーム、あとアイスとフルーツが混ざった…確か、トワイフル、ってやつだ。
「…え、良いの?!」
「勿論。…レン、ルカの代わりに手伝ってくれるかい?」
「へいへい」
「え?え?!」
「ふふ、ミク姉様、お隣失礼しますわ」
ソファから立ち上がるおれと入れ替わりにルカ姉ぇが座る。
「ケーキの余りでカイト兄様が作ってくださいましたの。…はい、ミク姉様。あーん」
「…こんな幸せで良いのかなぁあ!!」
ミク姉ぇの叫びを背中で聞きながらおれは兄さんに着いていく。

本日3月9日、ミクの日。



世界で一番忙しい電子の歌姫が、誕生日でもなんでもない特別な日に普通の女の子に戻る、そんな日。


(まあたまにはゆっくりするのもいいんじゃね?とか思ったり思わなんだり)


「忙し過ぎるんだよなぁ、ミク姉ぇは」
「…まあ、それも楽しそうなんだけどねぇ、本人は」
「…いや、ライブとかに来る方も大変じゃね?」
「…それは言わないお約束だよ、レン」

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