ゆめ/端午の節句(ねんへし燭ワンドロ)
「〜!!!!」
「まて、にげるな、みつ!!」
ばたばたと走る音に続き、俺・・・じゃない、ねん、ねんどろいどの俺、つまりへし切長谷部の声が聞こえる。
全く、何をやっているのだか。
「おい、何をして・・・?!」
襖を開ければ、ねん光、ねんどろいどの燭台切光忠が俺の手に飛び込んできた。
しかしなんだってこいつは半裸で怯えてるのだろうか。
「ああ、でかいの。ちょうどいい。みつをつかまえておけ」
「何が丁度良い、だ。ねん光怯えてるぞ」
刀を振り回していたねんが俺を見上げ言う。
取り敢えずねん光のずぼんを出してやりながらそう返した。
どうせまた要らぬ知識でねん光に迫っていたに違いない。
ねんは一番最近顕著したから遊ばれているのだ・・・己と同じ容姿、やめて欲しい。
ねん光も少しは抵抗すれば良いものを。
「で?今度はなんだ」
「こいのぼり、というものをくらうとつよくなるときいたが」
「鯉のぼりは飾る物だ。で?何故半裸に?」
「あるじよりこのぬのをたまわったのでな、これをはいたみつをくうのだと」
「よくそこまで飛来するな?!」
ねんの返答に思わず呆れた。
本当に俺かと問いただしたくなる。
「ねん光、お前も抵抗しろ」
「〜!〜!」
ねん光が涙目で俺を見上げ、首を振った。
同じ光忠の癖にこちらはどうも弱気だ。
・・・いや、抵抗したが押し切られたか。
どちらにせよ嘆かわしい。
「ねんくんたち 、おやつ・・・あれ、長谷部くん?」
頭上から降ってきた声に見上げると、光忠が皿を持ってきょとりとこちらを見下ろしていた。
ねん光が光忠に飛び付く。
「え?怖い目にあった?」
訴えるねん光に光忠が首をかしげた。
光忠はねん光の話している言葉が分かるらしい。
「ああ、鯉のぼりね。あれは飾るものだよ。食べるのはこっち」
くすりと笑い、光忠は皿にあった柏餅を指差した。
「餡子入ってるから美味しいよ。はい、ねんへしくん」
「つよくなるものか」
「勿論」
「・・・ならいただく。おい、みつ」
光忠から柏餅を受け取ったねんはねん光を呼び寄せる。
ぱっと表情を輝かせ、ねん光はねんの元へ駆けていった。
あんなにちょろくて大丈夫だろうか。
「・・・長谷部くん?」
「なんだ、何も言っとらんだろう」
「顔に出てるよ!」
もう!と声を荒げる光忠。
「ところでねんへしくんはどうして強くなりたいんだい?」
「きまっている。あるじのおやくにたち、みつをまもるためだ」
「・・・!」
「じゃあそのゆめを叶えるために頑張らなきゃ、だ?」
「むろん。でかいのよりつよくなるぞ」
「ふふ、楽しみだね。ね、ねんくん」
にこりと光忠が笑う。
・・・まったく。
「貴様に俺が超えれるとでも?」
「む、ずうたいがでかいだけのくせに」
ねんが俺を見上げにやりと笑った。
同じ顔なだけに腹が立つな・・・!
「ちょっと、大人げないよ、長谷部くん!」
「〜〜!」
「男には引けん時があるんでな・・・!」
「みつ、とめるな、これはおれがこえるかべだ・・・!」
端午の節句、それは子供のゆめの達成と成長を願う日。
(さりとて抜かれるのは許しがたいじゃないか!)
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