ザクカイ

「ぜぇっっってぇ嫌でェ!!!」
「何故だ、鬼ヶ崎!!!!」
さて、何分こうしているだろうか。
上半身裸の男が二人、薄明かりの下の布団の上で。
何をしているかと問われればそれは勿論ナニである。
顔が見たいから正常位が良いザクロと、顔を見られたくないから後背位が良いカイコクで揉めているのだ。
大概はどちらかが折れるのだが…今夜は何故だか二人とも意見を曲げなかった。
謂わば意地の張り合いという感じだろうか。
ムードもクソも何もない。
「俺は鬼ヶ崎の顔が見たい。それがそんなにいけないことか?」
「【いけないこと】って何度も言ってんだがねェ、俺ァ」
「だから電気も消してやったろう」
「嫌なもんは嫌なんでェ。諦めてくんなァ」
「そんな子どもじみた言い訳で納得すると思うのか?俺が?」
「…お前さんも強情だねェ」
「はっ、どちらが」
ギリギリと暗闇で睨み合った。
このまま無理に抱いても良かったが…嫌われるのは本位ではない。
だが、言う通りに折れてしまうのは何故だか今日に限ってプライドが許さなかった。
「何故そんなに嫌がるんだ」
「…んなもん…っ!」
はぁ、と息を吐きながら疑問をぶつければ、勢い良く言葉を吐き出しかけたカイコクがふいとそっぽを向く。
カイコクだって、行為自体が嫌ならば布団から蹴り出すだろうから、きっと本当に顔を見られたくないだけなのだろう。
それは…分かっているのだけれど。
「俺は鬼ヶ崎の事を好いているんだが」
「そっ…れとこれとは話がだなぁ…」
じぃっと見つめても好きを吐いてもカイコクは折れてくれなかった。
「忍霧の事ァ嫌いじゃねぇぜ?じゃねぇとこんな事させねェからな」
「…なら……」
「…っ、だからって己の弱点をおいそれと晒す訳にはいかねェっつー…」
「…弱点……」
カイコクのそれを復唱したザクロは、なるほど、と頷く。
彼は、行為中の表情は弱点だと思っているらしかった。
ならば仕方ない。
…と、言うと思っているのだろうか、カイコクは。
「…お、忍霧??」
「……」
はぁあ、と息を吐き出すザクロに、カイコクがおろ、とした様子を見せた。
戸惑っているそれは少し年相応で可愛らしい。
そんな彼の顎をすくい上げてキスをした。
「…ぅん?!!ふ、ぅ…んァ…ゃ、おし、ぎり…っ!」
その間にもカイコクが息も絶え絶えになりながら文句を言ってくる。
そのままなし崩しに抱かれると思っているようだ。
だから、口を離し、とろんとした彼を反転させてやる。
背中からホッとした様子が伝わってきた。
ローションを手に取り、指で慣らしてからカイコクの後口に持っていく。
「…っふ、……っ」
枕に顔を埋め、快楽に耐えようとする彼に…ザクロは容赦がなかった。
「?!な、に…ふぁっ?!」
腕を引き、膝立ちにさせる。
瞬間、ぐちりと指をナカに埋め込んでやった。
「考えたのだが、何も正常位だけが鬼ヶ崎の顔を見る事ができる体位ではなかったな」
「は、ぅ…ぅう…ゃ、ぁ、や、め…ひっ?!」
背を抱くようにザクロは彼の陰茎に手を伸ばす。
睨む彼に口づけ、くちくちと鈴口を弄った。
勿論ナカに埋め込んだ指を動かすのも忘れない。
「お前が後背位が良いと言ったんだが?」
「こ、んなの…想像して、ねェ…っ!ふぁっ、や、ぁっ!!」
「…可愛らしいな、鬼ヶ崎」
「~~っ!!ば、かァ…っ、ぅあっ、ゃ、やぅ、んぅ、や…っ!」
短く喘ぐカイコクの肩がびくびくと震えた。
黒く美しい髪が揺れる。
振り仰ぐ彼は綺麗な瞳に涙を浮かべていて。
ザクロは思わず口角を上げる。
普段は余裕綽々の彼が、こんなにも切羽詰まっているだなんて。
可愛らしい、綺麗だと囁きながらザクロはカイコクの躰を快楽に染めていく。
カイコクのナカがぐずぐずに蕩ける頃には彼自身も、勿論ザクロも限界に近く。
「ふぁ…っ!ゃ、も…ぃ…っ!!」
敏感な部分を擦り上げた途端、大きく躰を揺らした彼は精を吐き出した。
とさ、と枕に顔を埋めようとする彼のナカから指を抜き、ザクロははち切れんばかりの自身を取り出す。
些か性急な気もするが仕方がない。
ザクロだって立派な青少年。
恋人の痴態を見せつけられ、我慢できるほど大人でもないのだ。
「…っ、まっ…待てやだ、忍霧っ!!イッたばっか……っ!!」
「…すまない、鬼ヶ崎」
焦ったようなカイコクに形ばかりの詫びを入れ、ザクロは一気に突き刺した。
反らされた背を抱きかかえるようにしてまた膝立ちにさせる。
ぴったりと密着し、勿論彼の可愛らしい表情も拝むことが出来た。
「やっ……ぁ、ぁあっ…っ!!ふぁっ、奥っ、当たって……深、ぃ…ぅあっ、いや、だ、やだぁ……っ!」
快楽に溶けた顔を隠す様にカイコクは嫌々と首を振る。
「……っ!ゃ、見ない、で…くんなァ…っ!」
「はっ、…こんなにも……可愛らしい…のにか…?」
「…ぅう~~っ!!忍霧のっ、ばかァ!!ふぁ、ぁああっ?!!!」
文句を言ってくるカイコクを責め立ててやる。
びくっびくっと揺れる躰にザクロも限界だった。
「…出す、ぞ…っ!!」
「~~っ!!!」
最奥に叩きつければ、その衝撃でイッたらしいカイコクは、普段は丸めるはずの背を反らし、快楽を逃していた。
熱い息を吐き出す彼に軽く口づけをし、ザクロはまた律動を開始する。
「なんっ、や、だァ……っ!!!ひぅっ、も、堪忍して、くんな…?!ぁう、んぁ、あっ、あっ!!」
泣きそうな声で喘ぐカイコクにザクロは「お前が悪い」と囁いた。






夜は、まだまだ、長い。

(「だから嫌だって言ったのに」と拗ねるカイコクと、また攻防戦が繰り広げられるのは…また別の話)

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