アンヤ誕生日
「なぁ、オレ誕生日なんだけど」
アンヤのそれに、カイコクがきょとんとする。
「そりゃあ…おめでとさん?」
「おう」
疑問符付きの祝いの言葉にアンヤは頷いた。
「んで?駆堂は何をご所望でェ」
「…。…何かくれんのかよ」
「ま、俺が用意出来るもんならな」
小さく首を傾げたカイコクがくすくすと笑う。
ふわふわと鬼の面の赤い組み紐が揺れた。
ゲノムタワー内で用意されるものは彼自身が用意するわけではないのだけれど。
「んじゃ、ちょっと着いて来いや」
ぐっとカイコクの手を掴む。
そのまま彼の手を引いてある場所に向かった。
「…んん???」
「…。んだよ」
混乱しているらしい彼を睨む。
アンヤが連れて行ったのは、露天風呂だった。
まあ誕生日のプレゼントを、連れて来られた先が露天風呂だ、というのは混乱もしよう。
「…いや、まあ……お前さんが良いなら良いんだがねェ…?」
首を傾げたカイコクが苦笑いをする。
「良いから連れてきてんだろ」
きっぱりと言ってのれんを潜った。
さっさと服を脱いでカラリと扉を開ける。
カイコクも同じようにして続いて入ってきた。
「それで?俺ァ何すりゃいいんでェ」
「フツーに身体洗えや」
「?駆堂の?」
「何でだよ、テメエのだよ」
疑問にそう返してアンヤは自分の身体を洗う。
カイコクもしばらく悩んでいたようだが同じように身体を洗い始めた。
終始不思議そうだったが、何も聞いてこないのは彼の性格か、こちらの意図を汲んでくれているのか。
身体を洗ってから露天風呂に入る。
その隣にカイコクが座った。
「…オレの兄貴…一番上の、がさ。欲しいもんは自分で掴みとれって人だったんだよ」
アンヤは湯を弄びながら話し出す。
一番上の兄、ケンヤは「アンヤは俺に似てるからな!」と笑いながら良くそう言っていたのだ。
「…ま、神に祈るより確実だわな」
「だろ?後、二番目の兄貴は、日常が一番大切だって人でよ。だからまあ、なんだ」
アンヤはシンヤのことを思い出しながら、頭を掻く。
少し穏やかな彼は、「普段通りが一番愛しいって、アンヤも分かる日が来るよ」とよく微笑んでいたな、と思いながらアンヤは言った。
「誕生日だからって、特別扱いより、日常生活を一緒に過ごしたいって……んだよ、テメエ」
「……いや……駆堂にも可愛いところがあるんだねェ…」
ギロリと睨むアンヤに、ふるふると肩を震わせてカイコクが笑う。
「んじゃあまあ、日常生活の特別ってことで、コーヒー牛乳でも飲むかい?」
「フルーツ牛乳が良い」
ふわっと笑う彼にドキリとしつついつも通りに答えた。
パシャリとお湯が跳ねる。
本日は誕生日。
日常生活の延長にある…特別な日。
(そんな日を、貴方と過ごすことが出来る、
それが幸せだったりするのです)
「…で?なんで風呂だったか聞いてもいいかい?」
「あ?テメエ、風呂が一番日常っぽいだろが」
「……。…お前さんのそういう所、嫌いじゃねェぜ」
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