シンヤバースデー

「なあなあ、シンヤ!ちょっとお兄ちゃんと逃避行しないか?」


兄に言われてシンヤはぽかんとしてしまった。
よく、突拍子もないことを言うケンヤだが…何故またそんな事を。
首を傾げるシンヤに、ほら、とケンヤは笑った。
曰く、先月の兄の誕生日に彼自身の帰りが遅くなって誕生日会が出来なくなった、という小さな事件があった、末の弟であるアンヤから「シン兄がお祝いすんの楽しみにしてたのに」と怒られた、と言うのである。
「…別に…次の日にお祝いしたから良かったのに」
「けど、その日にお祝いしたいっていう気持ちは無碍にしちまった訳だろ?」
「…うーん、まあ…?」
ケンヤの言葉にシンヤは首を傾げた。
…シンヤ的にはお祝いは出来たのだから別に構わなかったのだけれど。
「ま、そのお詫び。行こうぜ」
「…それは良いけど…。…何で逃避行…?」
「そりゃ、非日常感だな」
疑問符を浮かべるシンヤに、ふふん、と何故だか得意気にケンヤが言う。
ほい、とヘルメットを投げて寄越され、シンヤは慌てて受け取った。
これは逃避行より小旅行なのでは、とも思わなくもなかったがまあ良いか、とヘルメットを抱えて兄に続いて外に出る。
バイクの後ろに跨り、ケンヤの腰に手を回した。
二人で出掛けるときはいつもこの体制だ。
夜風が頬を撫で、ふふ、とシンヤは笑う。
兄の暖かくも広い背中にいつもより強く抱きついた。
しばらくバイクを走らせ…さて兄は何処に行くつもりなのだろうとわくわくしながら…シンヤはふと景色に目をやる。
「…!わ、あ」
見たことのないそれに、シンヤは目を輝かせた。
「…なあ、シンヤー?」
「え?」
兄の声が風に乗って耳に届く。
「誕生日、おめでとうなー!愛してるぞー!」
柔らかい声に、シンヤはうん、と小さく笑った。
そういえば、今日はシンヤの誕生日である。
きっと、シンヤがケンヤの誕生日当日に祝えなかったから、自分は叶えてくれようとしてくれたのだろう。
本当に、彼は優しいのだから。
「…ありがとう、ケン兄!」
ぎゅ、と抱きつく。


誕生日プレゼントは、大好きな兄と二人きりの時間。


「…次は俺がケン兄の誕生日、当日1番に祝うから!」
「おー、楽しみにしてるなー!」

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