天使の日 寧々杏
「…うぅむ……」
司が何やら悩んでいる。
「…まだ思いつかないのかい?」
「司先輩がこんなに悩んでいるなんて……」
「…いや、割りと悩んでるだろ……」
「…ねぇ、他所でやってくれない?」
わいわいと話し合う男子に寧々が言う。
それから壁のポスターを指差した。
そう、ここは図書室なのである。
「…す、すまない」
「青柳くんまで一緒になって…」
申し訳なさそうな彼に少し呆れてしまった。
真面目な彼なのに、珍しいなとすら思う。
「…で?司は何をそんなに悩んでるわけ」
首を傾げる寧々に、これだよ、と司の代わりに類が一枚の紙を見せてきた。
よく見ればフェニックスワンダーランドからの依頼書で。
「…あ、これ」
「毎年の恒例行事にしたいらしくてねぇ。修行中だが、どうしても、と頼まれたんだよ」
類が肩を竦める。
どうやら毎年行っている天使の日限定ショーが好評で、今回も行ってほしいとの依頼だったのだ。
過去には王子様と天使のショー、悪魔と天使のショー、魔法使いと天使のショー、そして一番最初は天使の日合わせではなかったが騎士と天使のショーを行った為、今年は誰と天使のショーにしようか迷っているようだ。
「…ぅうむ…今年はどうするか…」
「…そんだけやってりゃ、ネタ尽きそうッスよね…」
「…ああ……」
頭を抱える司に彰人が言う。
それに寧々も頷いた。
流石に同じようなネタは司でも悩むのだろう。
「…草薙は、天使に会ったことはないのか?」
「…え??」
冬弥の問いに寧々は目を見開いた。
彼は一体何を。
「天使みたいな、そういう存在に会ったことはないのか、という意味なのだが…」
「冬弥、流石にそれは無茶な質問……」
首を傾ける冬弥に彰人が止めようとする。
だが。
「…ああ、そういうことなら…わたし、見たこと…あるよ」
「…どうしよう…」
寧々はきょろきょろと辺りを見渡す。
買い物に来ていた寧々は入った事のない路地に入り込んでしまい、泣きそうになった。
入った事のない路地、だけならまだ良かったのだが、そこは、あまり治安が宜しくなかったのである。
「…うぅ………」
「…どーしたのっ?」
「ひっ?!」
ひょこ、と出てきた少女に寧々は飛び上がらんばかりに驚いた。
「あっ、ごめんね?!おどろかせちゃって」
夜空のように綺麗な髪を振り、少女は慌てたように言う。
「…ううん。わたし、も…びっくりして、ごめん」
「ぜんぜんへーきっ!…ね、どうしたの?」
こてりと首を傾げる少女に、あのね、と寧々は話し出した。
買い物に来ていて道に迷ったこと、歌が聴こえてこの路地に入ってしまったこと。
そして、思ったより街が怖く見えてしまったこと。
「…と、いうわけなの」
「なるほど…。じゃ、スーパーまでおくったげる!」
ね!とにこっと笑って少女は寧々の手を取った。
「い、いいの?」
「もっちろんだよ!…こっちこっち!」
手を引っ張る少女に寧々は振り回されるように付いていく。
「えっと、こっち…あれ?」
少女がきょとんと道の奥を見た。
どうしたの?と寧々が覗き込む。
「だ、だいじょうぶ!!なんでもないから!」
「あれ?なんの話??」
「…内緒」
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