今日はハロウィンである。
いつもの街は何だか浮かれていて。
自分が巻き込まれないなら別にそんな雰囲気も楽しめる…のだけれど、そうも言ってられなかった。
「本当にもう…」
待ち合わせ場所にしていた街頭にもたれかかり、志歩は小さく笑う。
最近アイドル活動が忙しくなった遥から、少しだけ、とお願いされたら拒むことは出来なかったのだ。
志歩も最近忙しかったから会うことができるのは嬉しかったのだけれど。
「…あっ、日野森さん!」
「…桐谷さん!」
手を振る彼女に志歩は駆け寄る。
それは嬉しかったからだけではなくて。
「ちょっと、薄着すぎじゃない?」
「…そうかな?」
「そうだよ。いくら昼間は暖かいからって…」
「そんなこと…くしゅん!」
「ああ、ほら……」
困ったように眉を寄せる彼女が小さくくしゃみをする。
もう、と志歩は自分が着ていた上着を脱いで遥に着せた。
「…!ありがとう」
「別にいいけど…どうしてもその仮装が良かったの?」
嬉しそうに微笑む彼女に志歩は聞く。
「潮騒のアイドルとペンギン王子…の、潮騒アイドル、だよね。ペンギン王子の憧れのアイドル」
「…!うん、そうなんだ!昔から大好きな絵本なの。日野森さんも…」
「うん、狼ベーシストとペンギン王子。やっぱり知ってたか」
「もちろん。一匹狼のベーシストがペンギン王子とバンド仲間を探すんだよね」
遥が楽しそうに聞いてきた。
そうそう、と語りそうになって…慌ててやめる。
その話をしたい訳では…いやしたいが…今はしている場合ではなかった。
「話を逸らさないの」
「ふふ、バレちゃった」
志歩のそれに遥が楽しそうに笑う。
「で?秋も深まったハロウィンに、なんでこの仮装?もうちょっと暖かい服あったよね」
「そうなんだけど…やっぱり潮騒ちゃんが好きで…」
「…まあ……分からなくはないけど…」
照れたような彼女に、志歩は頭を掻いた。
確かに志歩もペンギン王子シリーズでは狼くんが一番好きだからである。
「だからって風邪ひいちゃ元も子もないでしょ?」
「…そうだね。気をつけるよ」
「そうしてもらえたら有り難いかな」
遥にそう言い、志歩は彼女に笑いかけた。
「…桐谷さんは、そのままでも充分潮騒ちゃんに似て可愛いアイドルだよ」
「…?!!えっ…」
目を見開く遥の手を取る。
そうして、浮かれている街に飛び出した。


仮装をしている遥も、そのままの遥も

志歩が大好きな…彼女なのだから。



「あっ、遥ー!日野森さんとハロウィンデート?」
「…。……なんでこんなトコで会うかな…」
「まあまあ…。…草薙さんと白石さんはなんの仮装なの?」
「えっと…メリー・ポピンズと悪魔…??」

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