類冬ワンドロ・電波/メッセージ

彼はミステリー小説が好きだ。
図書室でも、彼は委員の仕事をこなしながらよく読んでいた。
「…ふう」
類は息を吐きながら立ち上がる。
珍しく、類が所属する緑化委員と重なってしまい、今日は会えなかったのだ。
ただでさえ、最近忙しくて会えていない。
学年も違う、部活も入っていない二人の接点はないに等しいのだ。
その事に寂しいと思ってしまうのはわがままだろうか。
「おや?」
ぴろん、と類のスマホが音を立てる。
見れば件の冬弥からで、メッセージには『神代先輩』と一言名を呼んだそれが踊っていた。
なんだろうか、と妙にワクワクしながら待っていれば、スタンプが送られてくる。
可愛らしいうさぎが笑顔で『ありがとう!』と言っているそれに、類ははて、と首を傾げた。
何かお礼を言われることなんてしただろうか?
返事を打とうとして迷っていればまたスタンプが一つ送られてくる。
ディフォルメされた犬が『行ってきます』と手を降るそれ。
前の文と繋がっていないスタンプにますます首を傾げる。
その下に続いたのは、きゅっと目を瞑ったうさぎが『心配…!』と言うスタンプと、ハムスターが別のハムスターに手を差し伸べながら『手伝うよ!』と言うスタンプだった。
支離滅裂なそれにどう返せば、と迷っていれば『待ってて』『すみません』と言う動物スタンプが続く。
最早類の感想は、こんなスタンプあるんだなぁ、だ。
「…あぁ」
しばらく逡巡し、声に出して読んでいた類は口角を上げる。
電波に乗って届いたそれは分かり辛く、ミステリー好きな彼にしてやられてしまった。


「ありがとう」
「いってきます」
「しんぱい」
「てつだうよ」
「まってて」
「すみません」


冬弥からの愛のメッセージが電波に乗せて届く。

素直じゃない、とくすくす笑いながら、類はスマホを仕舞い込んだ。

一つ、文章を打ち込んで。


(僕は君への愛を、電波なんかに乗せず伝えに行くよ)

name
email
url
comment