マキノ誕

今日は自分の誕生日だ。
それを思い出したのは奇しくもそれがバレンタインと同日だったからである。
愛を知らないマキノの誕生日が愛を伝える日と同じなのは何の皮肉だろうか。
「…逢河?」
「…。…カイコッくん?」
ひょいと姿を見せて不思議そうに首を傾げたのは鬼ヶ崎カイコク…愛を蹴散らす人だ。
そんな彼の隣はとても心地よく感じる。
…無理に愛を押し付けて来ないから。
「…隣、良いかい?」
ややあってそう聞く彼にこくんと頷いた。
彼がマキノの隣に収まる。
ふふ、と楽しそうにカイコクが笑った。
何か楽しいことがあったろうか、と思っていれば彼がもたれかかってくる。
「…カイコッくん?」
「…。…誕生日プレゼントでェ」
ふわふわと微笑みながら言う彼にマキノはほんの少し目を見開いた。
カイコクは存外律儀な人だ。
こうやって毎年祝ってくれる。
…それだけで。
「…カイコッくんの、おめでとう…聞きたい」
「…お前さん、ちょっと欲張りになったな」
きれいな瞳を丸くした彼がふは、と笑った。
赤い紐が跳ねるように揺れる。
「…だめ?」
「ったく、しゃあねぇ」
首を傾げれば、カイコクは「お誕生日様だからな、特別でェ」と微笑んだ。
いつもの、仲間たちに見せる顔とは違った優しい…それで。
「誕生日おめっとさん、逢河」



優しい夜の、年に一回の恒例行事。



今はただそれだけで、と、マキノは目を細めた。

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