誕生日

「最近、音ゲー増えましたよねぇ」
俺のそんな言葉に、カイコクさんが胡乱げな目を向けた。
「…。…なんでェ、急に」
「いや、前々から思ってたんですよ。最近音ゲー増えたなって!」
ずい、と顔を近付けて力説すればカイコクさんはほんの少しだけ迷惑そうな顔をする。
露骨に嫌な顔をしないだけ優しいですよね、カイコクさんは!
「つぅか、前からあったろ」
「最近頓に増えた気がしません?」
「増えたっつぅか、ジャンルの母体がでかいやつが出てきただけだな」
俺のそれにカイコクさんはふむ、と真剣に考えてくれた。
意外とそういうトコ真面目なんですよねぇ。
「…それは…否定しませんね……」
「しねェのかい」
くすくすとカイコクさんが笑う。
ふわふわと綺麗な黒髪が揺れた。
こうやって笑うと少し幼く見えるのが不思議だ。
「カイコクさんもアイドルやってましたもんね、中の人が」
「そりゃあお前さんもだろ」
「ナカノヒトゲノムだけにですか?!」
「上手くねェし、メタ発言は嫌われんぜ」
わくわくする俺の言葉ににやりと笑う。
あ、いつものカイコクさんに戻りましたね。
でも俺はいつものカイコクさんも好きです!
「それは、カイコクさんに、ですか?」
首を傾げればカイコクさんも少しだけ首を傾けた。
「…。…さぁなァ?」
ちょっと考えてからカイコクさんは笑ってみせる。
自分の気持ちを隠してしまうのはカイコクさんの悪いところですよね、本当に!
「じゃあ好きですか?」
「まあ、好きか嫌いかで言やぁ前者だろうが…」
「えー。言葉で言ってくれないんですか?」
頬を膨らませる俺にもカイコクさんは素知らぬ顔だ。
まあそんな簡単だとは思わなかったですけどね!
「俺にも愛してるって言ってくださいよぉ」
「なんでそうなる…っていうか勝手にグレードが上がって……」
「歌ではあんなに言ってくれるじゃないですか!」
「そりゃあ歌詞の話だ。しかも歌ってるのは俺じゃねェし」
ぷい、とカイコクさんがそっぽを向いた。
…ありゃ、ご機嫌損ねちゃいましたかね?
いや、あれは…。
「…。…ま、バースデーソングなら、歌ってやっても、いいぜ?」
何か企んでると思ったら、そんなことを言う。
楽しそうなんですから、もう!
って、あれ?
「バースデーソング…?」
「?お前さん、誕生日だろう?」
首を傾げる俺に、カイコクさんはきょとんとする。
…あ。
「…。…本当に忘れてたな?」
「えへへ…」 
呆れたようなカイコクさんに、俺は笑ってみせた。
いやぁ、忘れがちですよねぇ、自分の誕生日!
「じゃあ、カイコクさんが忘れられない誕生日にしてください!」
「…ったく。調子良いなァ、入出は」
楽しそうに笑ったカイコクさんが可愛い。
俺は、カイコクさんのこういうところが…。


「…好き、なんですよねぇ」
「…はぁ?」
カイコクさんが嫌そうな顔をする。
あんなに優しかった人はどこに行ってしまったんだか。
「俺、カイコクさんのこと好きですよ」
「…。…俺ァ嫌いだがな」
ふい、と目線を逸らそうとするカイコクさんを、俺は許さない。
「好きか嫌いかで言えば好きだって言ってくれたのに?」
「…そりゃあ【入出】の話だろ、ぅ…」
「俺だって入出ですよ」
「…はっ、何馬鹿な事言ってやがる」
カイコクさんが挑発するように笑った。
それしか出来ないカイコクさんの、精一杯の強がり。
…こんな所に縛り付けられるくらいなら俺を殺したって良いはずなのにこうして誕生日を一緒に迎えてくれる辺り、きっとカイコクさんは優しいんでしょうね。
優しくて…そして残酷だ。
「…なら、目の前の【これ】を【入出アカツキ】じゃないって証明してみせなよ」
「…っ」 
カイコクさんが綺麗な目を見開いた。
それからすい、と僅かに目をそらす。
きっと何か考えてるに違いない、から。
思考が纏まらない内に口唇を奪った。
「?!!ん、ぐ…んんぅ、んー!!」
苦しいと言わんばかりにバンバンと背を叩いてくる。
それでも離さなかった。
力が弱まってくるのを待って、待って、待ち続ける。
なぁ、カイコクさん。

愛したって言うのですか、なんて。


(愚問にも程があるよ)



カイコクさんの漆黒の瞳から流れる涙を、アイなんて形容してみたりして。


…先人は悲鳴を歌だと評したけれど、それは間違いではないんだな、と思う。

美しい彼から漏れる息、短く噛み殺した悲鳴、その全てが…。

世界から望まれない俺へのバースデーソング。


(ねぇ、今日は何の日?)

(いい加減そろそろ覚えたろう?今日は……)

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