司冬ワンライ・おやつ/たくさん

「…ふむ」
司は机の上の惨状を見て少し考える。
流石に持ってきすぎたか。
小さく呟いて宙を仰ぐ。
これからとあるショー劇団と合同練習なのだ。
それ故途中の休憩用に、と買い込んだが…買い込みすぎたらしい。
パーティーでもするのかと笑われてしまい、我に返ったのである。
まあ、菓子は腐らないし、最悪セカイに持って行っても、と宙を仰ぎ過ぎて若干逆さになった視界の先に愛しの人を見つけた。
すぐさま姿勢を戻して教室を出、大きな声を出す。
「おーい、冬弥!」
「…!司先輩!」
パッと頬を緩めた冬弥が駆け寄ってきた。
今からまたイベントだろうか、大きな袋を持っている。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだなぁ!今からまたイベントか?」
「はい。司先輩は…えっと……?」
冬弥が僅かに首を傾げた。
視線の先には大量のお菓子が乗っている。
「随分たくさんですね…?」
「ああ。今日の練習後に、と思ったのだが、買い過ぎてしまった」
「…司先輩らしいです」
柔らかく微笑む冬弥に、司も目を細め、そうだ!と声を上げた。
「冬弥、この菓子好きだったろう?良ければ持っていかないか」
「…!良いんですか?」
「ああ。冬弥が喜んでくれるのなら、オレも嬉しい」 
目を見開いた冬弥が司の言葉にややあってから微笑む。
「…ありがとうございます。…では、俺からも…」
がさり、と冬弥が袋の中をまさぐった。
どうやらたくさんある中から出てきたのは司が好きな菓子で。
「…先輩もたくさん持っておられるのでもしいらなければ…」
「いや、これはオレ個人のおやつにしよう。大切に頂く。ありがとうな、冬弥」
「…はい!」
ふわ、と彼が微笑む。
「しかし、冬弥も菓子をたくさん買っていたのだな」
「イベントの後は体力を消耗するので…。あまり食べすぎてもいけないのですが、その…皆のことを考えると、つい」
「…なるほど」
冬弥も同じことを考えていたらしいと知り、司は笑んだ。
「それと、そのお菓子は司先輩がよく食べておられたので、思い出して買ってみたんです。まさか先輩の手に渡るとは思いませんでしたが」
冬弥が嬉しそうに言う。
そんな彼の頭を、司は思い切り撫でた。
ありがとうな、と告げる彼の顔は、とても幸せそうなそれをしていて。
この後も頑張れるな、と司は満面の笑みを、浮かべた。


優しい彼から手渡される、有り触れた菓子。
(司にとっては、愛がこもった特別な)

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