司冬ワンライ・天馬さんちのひな祭り/二人きりアフターライブ

「お兄ちゃん!見てみて、写真出来たよー!!」
「…咲希!」
嬉しそうに部屋に入ってきた妹に、おお!と司も声を上げ、読んでいた台本をテーブルに置いた。
咲希が持ってきたのは先日のひな祭りで撮った写真だ。
渡されたそれを1枚1枚巡っていけば、明るい表情で写真に収まる一歌たちがいた。
自然に笑みが溢れる。
「どれもよく撮れているな!」
「うん!皆笑顔で…、ほら、これとか!」
一番オススメ!と見せてきたのはビンゴ大会の後の集合写真で。
そういえば、と司は思い出す。
あのビンゴ大会で、一人分景品がなかったのだ。
ゲームをするのは一歌や志歩、穂波の3人と、自分たち2人だと思っていたから。
仕方がないので「天馬兄妹がお願いを一つ聞く権」を作ったのだ。
自分たちが当たったらどうするんだという志歩の尤もなそれを宥め(主に穂波が)ビンゴを進めたのである。
あの時最初に上がったのは確か…。
「…でも、冬弥くんって本当に好きなんだねぇ」
「ん?」
「だーかーらー、お兄ちゃんのショー!」
くすくす笑う咲希に首を傾げれば、彼女はそう言ってウインクをする。
それに、そうだな、と司は笑った。
あの時最初にビンゴになったのは冬弥だったのである。
何が良い?!と聞く二人に、冬弥は「…咲希さんは、今度また俺の買い物に付き合ってもらえると嬉しいです」と言った。
笑顔でOKを出す咲希と、「オレは?!オレは何をしたら良いんだ?冬弥のお願いなら何でも聞くぞ!」と言い切る司に、冬弥は柔らかく微笑む。
なるほど、と意味深に呟く彼女たちの内の誰かの声はその後の喜び勇んだ司の声に隠れて消えた。
「…!任せろ!!!冬弥の願い、最高の形で叶えてやるからな!」


それから数日後。
司は冬弥をワンダーステージに呼び出していた。
ショーキャストであるえむ達にはきちんと説明して終演後使用する許可を取っている(寧々には、「大分物好きよね」と言われたが)
類は「手伝おうか?」と言ってくれたがそれは断った。
何故ならそれは。
「よく来たな、冬弥!!」
「…司先輩」
現れた彼に司は両手を広げる。
普段無欲な彼が願ったことを全力で叶えるべく。
「さあ、一番良く見える特等席を用意したぞ!何と言ってもこのオレが!愛する冬弥ただ一人に贈る冬弥の為のショーをするのだからな!!」
司は冬弥に向かってポーズを決めた。
「…すみません、あの…ステージまで」
「ハッーハッハッハッ!言っただろう?これは冬弥の為だけのショーだ!舞台の役者は一人、観客も一人、あの時と何も変わらない!」
「…!!」
申し訳なさそうな冬弥に司は告げる。
大きく目を見開く彼が願ったそれ。
「幼い頃見せてくれた司先輩のショーを、また見たいです」という小さな…だが司にとっては大きなそれ。


ひな祭りのアフターライブともいうべきそれが幕を開ける。


(二人切、夕闇に混じって行われるそれはどこかプロポーズのようだった)

name
email
url
comment