プロフィール

桜井えさと(成人済み)
受けは総受け傾向、リバが地雷
作品傾向はほのぼのか闇が深いかの両極端

サイトべったー支部・つなびぃ(此処)

Twitter/ワンドロ&連絡垢表垢裏垢隔離垢




此処に上げている小話のCP→
鋼(エドロイ・ハボロイ)
鰤(イチウリ)
鳩彼(岩坂・朔優)
ボカロ(レンカイ/がくキヨ/ミクルカ/グミリリ*モジュレンカイ・モジュカイカイ/モジュルカ受け/KAIKO受け(クオイコ)あり)
刀らぶ(へし燭/安清/くにちょぎ)
フラハイ(レイロナ/ザーイス/テドセイ・アルセイ)
ナカゲノ(ザクカイ/ヒノシン)
エンドロ(ラセタバ)
プロセカ(彰冬・司冬・類冬/しほはる)

他にも細々



同人誌
ボカロ系
刀らぶ系

何かあると思っていた。


何かあると…思っていたけれど。




「…日野森さん!」
待ち合わせ場所に着くと、彼女がホッとしたように声を上げる。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「ううん、こっちこそ、遅くなってごめん。…それで…」
申し訳なさそうな彼女に首を振りつつ、それを傾けた。
「今日はどうしたの?…草薙さん」
草色のふわふわした髪を揺らす彼女…寧々に聞く。
彼女はえっと、と話を切り出した。
「日野森さんが誕生日だって、聞いたから」
「…え、あぁ……」
唐突なそれに目をぱちくりと瞬かせ…志歩は笑う。
確かに今日は志歩の誕生日だ。
「別に良かったのに…」
「日野森さんにはお世話になってるし…お誕生日おめでとう。…これ、あたしから」
「ありがとう、草薙さん」
寧々から渡された紙袋を受け取り、志歩は礼を言う。
「後、これは白石さんから」
「えっ、白石さん?」
思いがけない名前に志歩は驚いた。
確かに寧々と杏は同じ学校だが…。
「そう、白石さん」
「そっか、じゃあありがとうって伝えて」
「分かった。それから…」
「まだあるの?」
頷いた寧々が小さく笑って、これが最後、と何かを手渡してくる。
「これが、桐谷さんから」




寧々から渡されたのは青いリボンの端だった。
「絶対引っ張らないで、そのリボンを手繰りながら進んでくれる?」とは寧々の指示だ。
また何を企んでいるのやら。
仕方がないのでその通りに歩いていく。
…と。
「あっ、ハッピーバースデー、日野森さん!!」
嬉しそうな杏の声。
え、と固まってしまった。
だってそこには。
「…日野森さん、お誕生日おめでとう」
普段とは違う髪型、見たことのないメイク、お姫様みたいな遥がそこに…いた。
「桐谷…さん?」
「うん、どうかな?似合う?」
開いた口が塞がらない志歩に遥が楽しそうに笑う。
「…うん、すごく…似合ってるよ」
「本当?ありがとう」
やっとの事でそう言えば、遥は嬉しそうに微笑んだ。
「やったね、草薙さん!大成功!」
いえーい!と杏と、いつの間にか戻っていたらしい寧々がハイタッチするのが見える。
「もー、杏は何もしてないでしょ」
「そんな事ないし!ちゃんとプロ呼びましたー!」
「ぷ、プロ…?」
もう何から驚けば良いか分からない志歩の前に、誰かが出てきた。
「ボクが…呼ばれました……」
「?!瑞希さん?!」
「もー…。…久しぶり、志歩ちゃん」
「え、絵名さんまで!」
ポーズを決める瑞希に呆れ顔の絵名、と馴染みの顔に志歩は驚きの声を上げる。
「ちょっと、大掛かりが過ぎない?」
「そう?…お誕生日だから、良いかなって」
「いや、そういう問題じゃ…」
にこにこと楽しそうな遥が、「瑞希さんがコーディネート全般してくれて、絵名さんがメイクをしてくれたんだよ」と教えてくれた。
それを聞いてしまえば非難するわけにもいかなくて。
代わりにはぁ、と息を吐く。
「まあ…貰ったものは有難くいただくけど」
「ふふ、どうぞ?」
それに対して、にこ、と微笑む遥をお姫様抱っこした。
おお、と何故だか周りから声が上がる。
「あ、あたしも…白石さんをお姫様抱っこ出来るよ?!」
「えっ、うそ?!!草薙さん?!」
「凄いなぁ、二人とも!ボクは絵名をお姫様抱っこするのは、ちょっと…」
「…待ちなさいよ、どーいう意味?!!」
「……はあ」
わいわいと盛り上がる彼女たちに志歩は再び息を吐く。
「?日野森さん…?きゃっ」
「今の内にプレゼント持って逃げちゃおうかなって」
小さな悲鳴を上げる遥に志歩は笑いかけた。
誕生日だからって振り回されるのは性に合わないから。
だから、志歩は遥を抱いたまま駆け出した。



このまま、可愛い遥と二人きり……どこまでも!!

ミクルカの日

「ふぅっ」
お風呂から上がったあたしは長い髪を拭きながらソファに身を沈めた。
お姉ちゃんみたいに短いのも楽だと思うけど、それでも長い方が良いんだよねぇ。
だってこの方があたしらしいし!
「お疲れ様です、ミク姉様」
「…あ、ルカちゃん!」
柔らかい声に振り向くと、カップを持って微笑んでいるルカちゃんがいた。
「どうぞ」
ことん、と音を立てて置かれたのは湯気を立てている…。
「ホットショコラですわ」
「えー!有り難う、ルカちゃん。嬉しい!」
小さく微笑むルカちゃんにあたしはそう言ってカップを持ち上げた。
甘い香りがふわりと鼻腔を擽る。
口に含むと甘い味がじんわり広がった。
「…はぁ、美味しい」
「有り難う御座います」
「よく作り方知ってたねー?」
隣にちょこんと座ったルカちゃんに聞くと、「カイト兄様に教えて頂きましたの」と微笑む。
…うん、まあいいけど…。
お兄ちゃんの将来が不安だよ…。
「?どうか…?」
「ううん、何でもない」
首を傾げるルカちゃんにひらりと手を振った。
「ルカちゃんも疲れたでしょ?…確か今日はお姉ちゃんとリンちゃんとレコーディングだったよね?」
「ふふ、レコーディングは楽しいですし…大丈夫ですわ」
そう言う私ににこり、とルカが笑う。
パワータイプのお姉ちゃんとリンちゃんに挟まれて大変かと思ったんだけど…大丈夫みたいだ。
「そう?ならいいんだけど…」
ホットショコラを飲みながらちらりとルカちゃんを見ると「はい」と言って微笑む。
う〜ん、いつもこの癒し系笑顔にまあいいかって思っちゃうんだけど…結構無理しちゃうから気をつけてあげなきゃね!
それにしても…。
「はーあ、ルカちゃんが来るならもうちょい起きてたいなぁ」
「まあ。夜更かしは身体に悪いですわ」
あたしの発言にルカちゃんが窘めるように言う。
「大丈夫だよー最近はよく寝てるし!」
「それでも…。明日もレコーディングなのでしょう?」
「んぐ、まあ…。…分かったからそんな目で見ないでよ」
非難するような目に、あたしもそう言って笑いかける。
人の事はこうやって気遣って意見言ってくれるから…まあいいか。
「ま、今日はルカちゃん特製のホットショコラを飲むまでで我慢しよっかな!」
「…はい」
「…?どうかしたの?ルカちゃん」
明るく言ったのに、さっきまでいつも通りだったはずのルカちゃんが俯いてもじもじし始めた。
「…あ、あの」
「何?気になるなぁ」
少し頬の紅いルカちゃんに軽く言うと、勢い良く顔を上げたルカちゃんが「失礼します!」と小さな声で言って…。
その後すぐ、頬に唇が触れた。
「…今日は、ミクルカの日、でしょう?」
ぽかんとするあたしにルカちゃんがはにかんだ笑顔で言う。
そ、そういえば…今日は1月3日、あたしの製造番号とルカちゃんの製造番号が並ぶ日、だっけ。
「お、覚えててくれたんだ?!」
「ふふ、毎回ミク姉様が祝って下さっていますもの。覚えていますわ」


微笑むルカちゃんはとても綺麗で可愛くて。
とても甘い甘い、ホットショコラの様な、存在。
…もー、もー…!!


「きゃあっ?!」
「もー、ルカちゃんってば可愛いんだからー!」
「み、ミク姉様?!」
ソファに押し倒してニヤリと笑いかけると焦った声で言ってきた。
この状態で止めれる訳もないっていうのにー。
「だって今日はミクルカの日じゃない?ならプレゼントがあっても良いよね!」
笑いながらルカちゃんの長いピンクの髪を持ち上げる。
柔らかくて優しい香りのするそれに口付けて、それに、と続けた。
「こんな可愛いルカちゃんからのキスだけであたしが満足出来ると思う?」
ウィンクしながら言うと、きょとんとしたルカちゃんが小さく笑う。
「…もう。ミク姉様は欲張りですわ」
照れて、少し拗ねたように言うルカちゃんに…まあその通りだから否定もせずに…あたしはそっと口を重ねた。



通して伝わるそれは、とても甘くて。



まるであたしたちの関係の様。





今日レコーディングした、甘い香りに釣られた狼の唄をリフレインしながら。






…そういえば今日は帰りに見上げた月が綺麗だったな、と思った。






「…何でも良いけど、部屋でやってくんねぇ?ミク姉ぇ、ルカ姉ぇ」
「れ、れれ、レン兄様?!!」
「レンくんにだけは言われたくないもーん」

しほはる、寧々杏

とある冬の日。
少しそわそわする日の…少し前。

「あっ、志歩ちゃーん!おはようわんだほーい!」
同じクラスのえむが楽しそうに駆け寄ってくる。
それに「おはよう」と返す間もなく、彼女はあのねあのね!と話し出した。
「放課後時間ある?寧々ちゃんが相談したいことがあるみたいなんだぁ」
「草薙さんが?…今日は練習だけだし、少しだけなら大丈夫だけど」
「本当?!良かったぁ!じゃあ寧々ちゃんに伝えるねっ!」
「はいはい、放課後ね」
ホッとしたようなえむにひらりと手を振る。
えむのショーキャスト仲間である寧々が相談だなんて珍しいな、と思った。
自分が解決出来ることなら良いけど、と、志歩は教科書の準備を始める。

さて、1日は過ぎ、放課後。


中庭にいても良かったのに、寧々は校門前で待っていた。
「草薙さん!待たせてごめん」
「日野森さん!ううん、こっちこそ、急にごめんね」
「それは良いんだけど…で?話って?」
「うん、えっとね…」
首を傾げる志歩に、寧々が逡巡した後、思い切ったように顔をあげる。
そして。
「…ひっ、日野森さんは桐谷さんとどんなデートするの?!」
「…へ?」
思ったのとは違うそれに志歩はぽかんとする。
突然、何を。
「あ、えっと、実は白石さんとクリスマスに会うことになって…」
「…あー、なるほどね」
ぽかんとしていれば説明してくれようとしたのだがすぐに口ごもる彼女に志歩は頷く。
それだけで察してしまった。
好きな人と初めてのクリスマスデートを、きっと失敗したくないのだろう。
私も最初はそうだったな、と志歩は苦笑した。
「なら、一緒に行く?」
「…えっ、でも、そんな…」
「最初はダブルデートで、後から二人になればいいんじゃない?…賑やかな方が楽しいしね」
そう言いながら志歩は笑う。
悪い顔してる…と言う寧々に志歩は口角を上げた。



「やっほー!遥ー!」
「こ、こんばんは、桐谷さん!」
「えっ、杏?!草薙さんも…?!」
待ち合わせ場所に駆けてきた遥は目を丸くして立ち止まる。
それはそうだろう…遥には言っていないのだから。
「あ、桐谷さん。配信お疲れ様。今日のも良かったよ」
「ありがとう、日野森さん。みんなサンタ衣装喜んでくれて…じゃなくて!」
アイドルスマイルを見せていた遥が少しムッとした顔をする。
「草薙さんはともかく、なんで杏がいるの?」
「ちょっとー、言い方酷くない?!」
「ああああ、ごめんね、桐谷さん?!」
「…ごめんごめん…ふふ…」
年相応の表情を見せる遥、頬を膨らませる杏、焦る寧々に志歩は謝りながら笑ってしまった。
何だか賑やかなクリスマスになりそうだなぁ、と思う。
「ちょっとしたサプライズのつもりだったんだ、ごめんね、桐谷さん」
「…もう……」
志歩は遥の手を握りながら謝れば彼女は絆されてくれたようだ。
「…うわぁ、遥チョローい……」
「…杏、うるさい…」
「…ふふ…あ、白石さん、危ないよ」
「えっ、わっ、ありがとう、草薙さん…!」
寧々がぶつかりそうな杏の手を引っ張る。
嬉しそうな杏に、「杏、チョローい」と遥が茶化す。
「遥、うるさいー」
「まったく…。…じゃあそろそろ行こうか。混む前にね」
「そうだね、じゃあ行こう」
志歩は遥の手を繋ぎ、歩き出した。
遥も嬉しそうに微笑む。
「あっ、あのっ、白石さん。手…繋いで良い…?」
「あははっ、うん、良いよ!はいっ、草薙さん!」
後ろでは寧々と杏が初々しいやり取りを繰り広げていた。
「…私達も去年はそんな感じだったよね…」
「…そう?日野森さんは前から自信満々だったよ」
「えっ」
にこりと笑う遥に志歩は焦ったように彼女を見る。



少女たちの楽しげな笑い声がキラキラと輝くイルミネーションが美しい、寒い街に響いた。


楽しいクリスマスは、これから!

しほはる

「…ねぇ、桐谷さん」
「?なぁに、日野森さん」
最近は自分たちのバンド活動も遥のアイドルの仕事も忙しくて会えていなかった、ある日のこと。
珍しく予定が合ったから一緒に帰っていた放課後、志歩はふと疑問を思っていたことをぶつけてみることにした。
「…最近さ、桐谷さんの歌唱パート、王子様について言及すること多くない?」
「…えっ?」
唐突なそれに彼女はきょとんとする。
ほんの少しだけ首を傾げて、そうかな…?と小さくつぶやいた。
「うーん、言われてみれば最近多かったかも…?」
「でしょ?」
まだ少しあやふやな記憶を手繰り寄せているらしい遥に志歩は笑いかける。
目を大きく見開いた彼女は、もう…とふにゃりと表情を崩した。
「それにしても、私達の曲…たくさん聴いてくれてるんだね」
「まあね。お姉ちゃんが聴かせてくれるのもあるけど…個人的に桐谷さんの歌声好きだから」
「ふふ、ありがとう、日野森さん。私も日野森さんのベース好きだよ。この前の新曲も格好良かったな」
「聴いてくれたんだ?ありがとう」
遥に褒められると何だか照れくさくて、志歩は軽くお礼を言う。
「…考えてみると、Leo/needの曲はあんまり非現実な曲はないよね…」
「…何それ」
何か考えていると思ったら遥がそんな事を言い出すから思わず笑ってしまった。
そんな志歩に、遥は、ほら、と言う。
「王子様とかお姫様とか」
「ああ…まあね」
言わんとすることがわかり、志歩は頷いた。
確かに、歌詞に王子や姫が入っている曲は珍しいかもしれない。
「私達のやりたい音楽とは合わないし…王子や姫なんていうガラじゃないしね」
「そう?咲希とか喜びそうだけど」
「…咲希だけ喜んでもだめ」
「ふふ、残念」
くすくす笑う遥に志歩は、もう、と肩を竦めた。
所詮彼女だって言ってみただけなのだろう。
だから。
「…ま、大衆に姫と歌わなくても、一人だけに伝われば良いでしょ」
「…!」
そう囁く志歩に遥は綺麗な瞳を丸くする。
可愛いなぁ、と思いながら志歩はいたずらっぽく笑った。
「ね、桐谷さん」
「…日野森さん…」
ずるい、なんて言う遥の手を、どっちが、と言いながらそっと取る。

王子様、と歌う彼女の手を。



(王子が姫の手を取るなんて、有り触れたお伽噺!)

彰冬

「今日はありがとな」
色んなところで祝ってもらった、夜のこと。
何だか今日は妙に…浮かれていて、眠る前に冬弥に電話をかけてしまったのだ。
『当然だ。…彰人が喜んでくれたなら、俺は嬉しい』
電話の向こうの声も何だか少し高揚していて、この可愛い相棒は、自分を祝うために一生懸命になってくれたんだろうな、と思った。
…サプライズリベンジが成功した、というのもあるのだろう。
以前に失敗した、と落ち込んでいたのを、彰人は知っているからだ。
本当に冬弥は可愛らしい。
まあ、同世代の男子にそう思うのはいかがなものかと思うのだが。
『実は俺も楽しんでしまったんだ』
「いいんじゃねぇの。…冬弥が幸せならオレも嬉しいし」
『…彰人』
柔らかな声が耳をくすぐる。
嬉しそうなそれが、彰人は好きだった。
表情まではっきり思い浮かんでくるくらいには。
前は感情がわかりにくかったから、自分たちの関係性も、冬弥の表現の仕方も成長したのだろう。
しばらく他愛のない話をし、そろそろ切るかとスマホを持ち替えた、その時。
『彰人、今日は英語には触れたか?』
「あー…歌は歌ったが…教科書を開いたりしたかって言われると、まだだな」
冬弥のそれにそう答えれば、スピーカーの向こうから苦笑する声がする。
『今日は誕生日だからな。だが、英語には毎日触れた方が良いから…ここは俺が一つ問題を出そう』
「はぁ?問題?」
突拍子もないそれに聞き返すが、冬弥はそれに答える気はないようで、いくぞ、と言った。
『Happy birthday Akito. Thanks for being my buddy.』
「…っ、お前、なぁ……」
以前なら悩んでいたそれは、聴いた途端にすぐわかって。
彰人の反応に勉強の成果が出ているようだな、なんて冬弥の笑う声が耳元で聞こえる。
存外悪戯っぽい恋人に、さて何と返そうかと彰人は単語帳を引っ張りだした。

彼に、伝えてやらねばならない。



自分は……出会ったあの時からずっと幸せだということを!

ザクカイ

「ぜぇっっってぇ嫌でェ!!!」
「何故だ、鬼ヶ崎!!!!」
さて、何分こうしているだろうか。
上半身裸の男が二人、薄明かりの下の布団の上で。
何をしているかと問われればそれは勿論ナニである。
顔が見たいから正常位が良いザクロと、顔を見られたくないから後背位が良いカイコクで揉めているのだ。
大概はどちらかが折れるのだが…今夜は何故だか二人とも意見を曲げなかった。
謂わば意地の張り合いという感じだろうか。
ムードもクソも何もない。
「俺は鬼ヶ崎の顔が見たい。それがそんなにいけないことか?」
「【いけないこと】って何度も言ってんだがねェ、俺ァ」
「だから電気も消してやったろう」
「嫌なもんは嫌なんでェ。諦めてくんなァ」
「そんな子どもじみた言い訳で納得すると思うのか?俺が?」
「…お前さんも強情だねェ」
「はっ、どちらが」
ギリギリと暗闇で睨み合った。
このまま無理に抱いても良かったが…嫌われるのは本位ではない。
だが、言う通りに折れてしまうのは何故だか今日に限ってプライドが許さなかった。
「何故そんなに嫌がるんだ」
「…んなもん…っ!」
はぁ、と息を吐きながら疑問をぶつければ、勢い良く言葉を吐き出しかけたカイコクがふいとそっぽを向く。
カイコクだって、行為自体が嫌ならば布団から蹴り出すだろうから、きっと本当に顔を見られたくないだけなのだろう。
それは…分かっているのだけれど。
「俺は鬼ヶ崎の事を好いているんだが」
「そっ…れとこれとは話がだなぁ…」
じぃっと見つめても好きを吐いてもカイコクは折れてくれなかった。
「忍霧の事ァ嫌いじゃねぇぜ?じゃねぇとこんな事させねェからな」
「…なら……」
「…っ、だからって己の弱点をおいそれと晒す訳にはいかねェっつー…」
「…弱点……」
カイコクのそれを復唱したザクロは、なるほど、と頷く。
彼は、行為中の表情は弱点だと思っているらしかった。
ならば仕方ない。
…と、言うと思っているのだろうか、カイコクは。
「…お、忍霧??」
「……」
はぁあ、と息を吐き出すザクロに、カイコクがおろ、とした様子を見せた。
戸惑っているそれは少し年相応で可愛らしい。
そんな彼の顎をすくい上げてキスをした。
「…ぅん?!!ふ、ぅ…んァ…ゃ、おし、ぎり…っ!」
その間にもカイコクが息も絶え絶えになりながら文句を言ってくる。
そのままなし崩しに抱かれると思っているようだ。
だから、口を離し、とろんとした彼を反転させてやる。
背中からホッとした様子が伝わってきた。
ローションを手に取り、指で慣らしてからカイコクの後口に持っていく。
「…っふ、……っ」
枕に顔を埋め、快楽に耐えようとする彼に…ザクロは容赦がなかった。
「?!な、に…ふぁっ?!」
腕を引き、膝立ちにさせる。
瞬間、ぐちりと指をナカに埋め込んでやった。
「考えたのだが、何も正常位だけが鬼ヶ崎の顔を見る事ができる体位ではなかったな」
「は、ぅ…ぅう…ゃ、ぁ、や、め…ひっ?!」
背を抱くようにザクロは彼の陰茎に手を伸ばす。
睨む彼に口づけ、くちくちと鈴口を弄った。
勿論ナカに埋め込んだ指を動かすのも忘れない。
「お前が後背位が良いと言ったんだが?」
「こ、んなの…想像して、ねェ…っ!ふぁっ、や、ぁっ!!」
「…可愛らしいな、鬼ヶ崎」
「~~っ!!ば、かァ…っ、ぅあっ、ゃ、やぅ、んぅ、や…っ!」
短く喘ぐカイコクの肩がびくびくと震えた。
黒く美しい髪が揺れる。
振り仰ぐ彼は綺麗な瞳に涙を浮かべていて。
ザクロは思わず口角を上げる。
普段は余裕綽々の彼が、こんなにも切羽詰まっているだなんて。
可愛らしい、綺麗だと囁きながらザクロはカイコクの躰を快楽に染めていく。
カイコクのナカがぐずぐずに蕩ける頃には彼自身も、勿論ザクロも限界に近く。
「ふぁ…っ!ゃ、も…ぃ…っ!!」
敏感な部分を擦り上げた途端、大きく躰を揺らした彼は精を吐き出した。
とさ、と枕に顔を埋めようとする彼のナカから指を抜き、ザクロははち切れんばかりの自身を取り出す。
些か性急な気もするが仕方がない。
ザクロだって立派な青少年。
恋人の痴態を見せつけられ、我慢できるほど大人でもないのだ。
「…っ、まっ…待てやだ、忍霧っ!!イッたばっか……っ!!」
「…すまない、鬼ヶ崎」
焦ったようなカイコクに形ばかりの詫びを入れ、ザクロは一気に突き刺した。
反らされた背を抱きかかえるようにしてまた膝立ちにさせる。
ぴったりと密着し、勿論彼の可愛らしい表情も拝むことが出来た。
「やっ……ぁ、ぁあっ…っ!!ふぁっ、奥っ、当たって……深、ぃ…ぅあっ、いや、だ、やだぁ……っ!」
快楽に溶けた顔を隠す様にカイコクは嫌々と首を振る。
「……っ!ゃ、見ない、で…くんなァ…っ!」
「はっ、…こんなにも……可愛らしい…のにか…?」
「…ぅう~~っ!!忍霧のっ、ばかァ!!ふぁ、ぁああっ?!!!」
文句を言ってくるカイコクを責め立ててやる。
びくっびくっと揺れる躰にザクロも限界だった。
「…出す、ぞ…っ!!」
「~~っ!!!」
最奥に叩きつければ、その衝撃でイッたらしいカイコクは、普段は丸めるはずの背を反らし、快楽を逃していた。
熱い息を吐き出す彼に軽く口づけをし、ザクロはまた律動を開始する。
「なんっ、や、だァ……っ!!!ひぅっ、も、堪忍して、くんな…?!ぁう、んぁ、あっ、あっ!!」
泣きそうな声で喘ぐカイコクにザクロは「お前が悪い」と囁いた。






夜は、まだまだ、長い。

(「だから嫌だって言ったのに」と拗ねるカイコクと、また攻防戦が繰り広げられるのは…また別の話)

今日はハロウィンである。
いつもの街は何だか浮かれていて。
自分が巻き込まれないなら別にそんな雰囲気も楽しめる…のだけれど、そうも言ってられなかった。
「本当にもう…」
待ち合わせ場所にしていた街頭にもたれかかり、志歩は小さく笑う。
最近アイドル活動が忙しくなった遥から、少しだけ、とお願いされたら拒むことは出来なかったのだ。
志歩も最近忙しかったから会うことができるのは嬉しかったのだけれど。
「…あっ、日野森さん!」
「…桐谷さん!」
手を振る彼女に志歩は駆け寄る。
それは嬉しかったからだけではなくて。
「ちょっと、薄着すぎじゃない?」
「…そうかな?」
「そうだよ。いくら昼間は暖かいからって…」
「そんなこと…くしゅん!」
「ああ、ほら……」
困ったように眉を寄せる彼女が小さくくしゃみをする。
もう、と志歩は自分が着ていた上着を脱いで遥に着せた。
「…!ありがとう」
「別にいいけど…どうしてもその仮装が良かったの?」
嬉しそうに微笑む彼女に志歩は聞く。
「潮騒のアイドルとペンギン王子…の、潮騒アイドル、だよね。ペンギン王子の憧れのアイドル」
「…!うん、そうなんだ!昔から大好きな絵本なの。日野森さんも…」
「うん、狼ベーシストとペンギン王子。やっぱり知ってたか」
「もちろん。一匹狼のベーシストがペンギン王子とバンド仲間を探すんだよね」
遥が楽しそうに聞いてきた。
そうそう、と語りそうになって…慌ててやめる。
その話をしたい訳では…いやしたいが…今はしている場合ではなかった。
「話を逸らさないの」
「ふふ、バレちゃった」
志歩のそれに遥が楽しそうに笑う。
「で?秋も深まったハロウィンに、なんでこの仮装?もうちょっと暖かい服あったよね」
「そうなんだけど…やっぱり潮騒ちゃんが好きで…」
「…まあ……分からなくはないけど…」
照れたような彼女に、志歩は頭を掻いた。
確かに志歩もペンギン王子シリーズでは狼くんが一番好きだからである。
「だからって風邪ひいちゃ元も子もないでしょ?」
「…そうだね。気をつけるよ」
「そうしてもらえたら有り難いかな」
遥にそう言い、志歩は彼女に笑いかけた。
「…桐谷さんは、そのままでも充分潮騒ちゃんに似て可愛いアイドルだよ」
「…?!!えっ…」
目を見開く遥の手を取る。
そうして、浮かれている街に飛び出した。


仮装をしている遥も、そのままの遥も

志歩が大好きな…彼女なのだから。



「あっ、遥ー!日野森さんとハロウィンデート?」
「…。……なんでこんなトコで会うかな…」
「まあまあ…。…草薙さんと白石さんはなんの仮装なの?」
「えっと…メリー・ポピンズと悪魔…??」

くるくるあの子へ お次はどこに?
張りぼてとお化粧 お口は縫い付けて

くるくるその子へ お次はどこに?
歯車とおめかし 声と引き換えに

待ち焦がれては遠ざかるモノ
穴ぼこの顔は誰にも分からない
足りない隙間に南瓜(ランタン)の灯火を
いつかはだれかになれるから

ハロウィンの夜に別れの歌

がらくたの宴に猫の夢

消え失せた続きとニコラシカ
寂しがり屋の君に火を
混ぜては燃やせよ
幕引きは月に委ねられた

(トリックオアトリート!)

くるくるどの子へ お味はいかが?
蜂蜜に香辛料 喉は縫い付けて

くるくるこの子へ お味はいかが?
女王に星砂糖(アラザン)呪文と引き換えに

つぎたし つぎはぎ
たりない のこらない
こぼれて そそいで
はじまりのいろは?

また同じに二人は 二人を探しさまよって
覚えのない思い出を貪り喰らい続けた

待ち焦がれては薄れゆくモノ
穴ぼこの顔は誰にも分からない
足りない隙間に南瓜(ジャック)の道標を
いつかはだれかになれるから

ハロウィンの夜に別れの歌

がらくたの宴に猫の夢

押し付けた続きとニコラシカ
いつかの二人へ
最後の一口は墓の下
まだまだ燃やせよ
幕引きは月に委ねられた

積み上げた亡骸は繰り返す


ーーーー

指に舌に刺青の蜜(しせいのどく)を
永く永く歌えるように
いつかのふたつは 愚かしくも稚い
傲慢強欲に溺れて
定理も道理もがなぐる姿は
震えるほどに愛おしい

逆様の祝福を捻じれた夢の夜を
発条の錠前を解けぬ罰の目隠しを
再演の祝福を蕩ける夢の夜を
繰り返し繰り返せ いつかのいつかを現実に叩き込め

耳に目玉に刺青の蜜(しせいのどく)を
永く永く踊れるように
いつかのふたつは 失われて戻らない
その先を信じて
定義も条理もなげうつ姿は
震えるほどに狂わしい

迎えに来たよ 叶えに来たよ
指切りは契約(やくそく)だから
正しく怨め 正しく呪え
終わらない前夜祭(ハロウィン)を

逆様の祝福を捻じれた夢の夜を
飴玉の足枷を解けぬ罰の繰り糸を
再演の祝福を壊れた夢の夜を
やり直しやり直せ いつかのいつかは永遠に閉ざされた
trick or treat!trick and trick!望んだままの夜を
焼き付けろ覚え込め 渇望だけを身に宿せ
幸いの祝福を 願いは叶っただろう?
最愛の執着をいつまでも遊べるように

しほはるワンライ/スポーツの日・いざ尋常に

本日はスポーツの日である。

「…んー!楽しかったね、日野森さん!」
ふわ、と遥が微笑む。
そうだね、と志歩も軽く笑って頷いた。
珍しく二人とも休みだった、ということもあり、遥の誕生日に約束したペンギンカフェに遊びに来た帰り道。
誕生日からは随分と過ぎてしまったがそれでもまあ彼女の晴れやかな顔を見、来てよかったな、と志歩は思う。
何だかんだ遥の明るい顔が好きなのだ。
今日は志歩も…楽しかったし。
「まさかコウテイペンギンパフェがお誕生日さま仕様で、マント付けてるとは思わなかったな」
「うん!私もびっくりしたよ。…すごく…可愛かった」
ほう、と息を漏らす遥に、志歩はくすくすと笑う。
「ところで、桐谷さんは今日チートデーなんだよね?明日からはまた戻すの?」
「…そうだね…。今日食べた分はしっかり取り返さないと」
「そっか。なら、ちょっと体動かして帰る?」
「え?」
きょとんとする遥へと志歩はとあるチケットを見せた。
あ、と遥が声を上げる。
「スポジョイパークの割引チケット!」
「そう。実は今日までなんだよね。でも1人で使う気にもなれないし。スポーツの日ってことで…どう?」
「いいね。日野森さんなら良い対戦相手になりそう」
自信満々に遥が頷いた。
お手柔らかにお願いね、と志歩は言いながらチケットをカバンに仕舞い込む。
「あんまり手を使わないのにしようか」
「そうしてもらえたら助かるけど…何かある?」
「うーん、ローラースケートは?」
「あー…コケた時がちょっと怖いな…。それなら、フリースローの方が…」
わいわいと二人で話し合いながら志歩は少し嬉しくなった。
遥が自分の…ベースを弾く手を大切に思ってくれることに。
「よしっ、3本勝負だね」
「そうだね。…負けないよ、桐谷さん」
「私だって。…そうだな、もし負けたら罰ゲームでも何でも受けるよ」
「本当に?言ったね??」
「もちろん」
遥が強気に笑う。
勝ち誇った顔の、志歩の可愛いお姫様。
「なら負けた方は勝った方の言う事を何でも一つ聞く、ってことで」
「そんなので良いの?」
「…随分余裕だね」
「ふふ、まあね」
にこ、と笑う遥。
確かに彼女は男子に張り合えるほど運動神経は良いが。
志歩だって負けられない理由がある。
だから負けない。
「いつまでも余裕ぶってたら足元掬われちゃうよ」
「ふふ、ご忠告ありがとう、日野森さん」

二人して笑い合う。


さあ、尋常に、勝負!!



「…待って、日野森さん。あのペンギンのぬいぐるみ可愛い…!」
「え?……!!隣のうさぎのぬいぐるみも可愛い…!」
「…ちょっと休戦しない?」
「…うん、ここは共同戦線を結ぼう、桐谷さん!」