プロフィール

桜井えさと(成人済み)
受けは総受け傾向、リバが地雷
作品傾向はほのぼのか闇が深いかの両極端

サイトべったー支部・つなびぃ(此処)

Twitter/ワンドロ&連絡垢表垢裏垢隔離垢




此処に上げている小話のCP→
鋼(エドロイ・ハボロイ)
鰤(イチウリ)
鳩彼(岩坂・朔優)
ボカロ(レンカイ/がくキヨ/ミクルカ/グミリリ*モジュレンカイ・モジュカイカイ/モジュルカ受け/KAIKO受け(クオイコ)あり)
刀らぶ(へし燭/安清/くにちょぎ)
フラハイ(レイロナ/ザーイス/テドセイ・アルセイ)
ナカゲノ(ザクカイ/ヒノシン)
エンドロ(ラセタバ)
プロセカ(彰冬・司冬・類冬/しほはる)

他にも細々



同人誌
ボカロ系
刀らぶ系

『貴女と二人、星空逃避行』

桜井えさと

「…あれ」
自主練が終わり、廊下に出たミクは思ったより静かなそれに目を瞬かせた。
普段は楽器の音がしたり、話し声が聞こえたりするのに。
「みんな、どこかに行ってるのかな」
首を傾げながらミクは廊下を歩く。
たまに空き教室を覗きながら歩き続け…いつの間にか外に出てしまった。
おかしい。
今までこんな静かなことはなかった。
…そのはずなのに。
賑やかなのに慣れすぎてしまったのかな、とミクは駅に続く階段を上る。
「…あ」
目線の先、制服のスカートを揺らすルカがいた。
ルカ、と声をかけようとした瞬間、電車が滑り込んで来る。
駅構内に生えた木の葉が不自然に揺れた。
俯いた彼女は長い髪を掻き上げ、それから。
「っ、待って!!」
開いたドアにルカの姿が吸い込まれていく。
…思い出す、一歌たちが黒い靄によって倒れたことを。
思い出す、カイトたちが突然別セカイに飛ばされたことを…。
階段を駆け上がり、閉まりかけたドアに体をねじ込んだ。
「?!ミク?!」
「…っ、はぁ、間に合った…!」
息を整えるミクに、ルカが綺麗な目を丸くする。
どうしたの、と言いたげな彼女はそれを口にする代わりに「…駆け込み乗車は危ないわよ」と言った。
「しょうがないでしょ、ルカまでいなくなったらどうしようかと思って…」
「…?『私』まで??」
きょとんとするルカに、しまった、と思う。
そこまで言うつもりもなかったのに。
「…っ、何でもないっ!それより、電車に乗ってどこに行くの?」
「ふふ、たまには1人で小旅行も良いかと思って」
「…ん?」
「だって、レンとカイトは志歩や一歌と屋上で雑誌見ながら意見交換会、リンとメイコは咲希や穂波と家庭科室でお菓子作りでしょう?ミクは自主練中だったし。電車旅も素敵だな、って、それだけよ?」
「…なんだ…」
ルカのそれに力が抜け、はぁ、と座席に腰を下ろす。
ごめんなさいね?とルカはふわふわと笑いながら隣に座ってきた。
「別に良いけど…。今度からは声かけてよね」
「ええ、そうするわ」
にこり、とルカは微笑む。
タタンタタン、と音を立て電車が揺れた。
「見て、ミク。電車から見る星空って屋上から見るのとまた違って見えるわね」
「うん、そうだね」
そんなことを言いながら指差す彼女のそれを、ミクはぎゅっと握る。
「ミク?」
「別に」
すい、と目を逸らせば、あら、とまたルカは笑った。
それから、何か柔らかなものがミクの頬に触れる。
思わずバッと彼女を見、いたずらっぽく笑うそれが目に入った。
いつだって敵わないな、と思う。
「ちゃんと傍にいてよ、私の一等星」
「あら、ならちゃんと見ていてほしいわ?」
二人して言葉を紡ぎ、ふは、と笑った。
そういえば、とルカが天井を見た。
「二人だけでこうしていると、何だか志歩が聴かせてくれた曲を思い出すわね」
「え?」
「ほら、志歩のお姉さんと咲希の好きなアイドルがカバーしたって教えてくれた、バーチャルシンガーのカバー曲。その続編」
「…ああ……」
その言葉にミクもまた天井を仰ぐ。
たしか、あれは……。
「「もう帰れないね」」
二人して顔を見合わせて出た歌詞が同じで、また吹き出した。
「…あれは逃避行じゃなかった?この電車はまたあそこに戻るでしょ」
「そうね…。ミクはロミオって感じじゃないものね?」
「…そうだね。それに私は、悲劇の主人公になるつもりもないし、ね」
ミクのそれにルカはふわふわと笑う。
バンドの先輩と後輩。
このセカイが出来た頃から、ずっと傍にいた、あこがれの人。
ルカは…ミクの全てだった。
随分と賑やかになってしまったけれど、それは今も変わらない。
大好きな…ミクだけの、ルカ。
「ねぇミク。少し逃避行してみない?」
「えぇ?悲劇の主人公になるつもりはないって言ったのに」
少しワクワクしたようなルカに、ミクは少し眉をひそめる。
「私だって悲劇のヒロインになるつもりはないわ?でも、逃避行ってどんなのか気になってしまって」
「うぅん…??」
ルカのそれに、ミクは疑問符を浮かべた。
別に周りから否定されているわけでもない、今が二人で逃げたいほど辛いわけでもない。
それは逃避行と言えるのだろうか?
「~…♪」
ミクの疑問を、ルカの小さな歌声がかき消した。
まあ良いか、と思いながら、ミクも同じようにメロディを紡ぐ。
タタン、と電車が揺れた。


夕と夜の境目、時間限定の逃避行


二人の歌を乗せて、セカイに夜が来るー…

「ん」
「…は?」
そろそろ部屋に帰るか、と立ち上がったアンヤを遮るように長い腕がソファから出てきた。
ひょいとそこに座っていた彼が何かを差し出してくる。
あまりに不意打ちだったから、思わず受け取ってしまった。
「…んだこれ、茶?」
渡されたそれをしげしげと見つめていれば、くすりと彼、カイコクが笑う。
柔らかいそれにどきりとしながら、いつもこうしていりゃあ良いのに、なんて思ってしまった。
「ミントティーだと」
「…。…珍しいな、オメェが横文字の茶とか」
名前を聞き、アンヤは首を傾げる。
カイコクは日本茶が好きなはずだ。
あまり紅茶を嗜んでいるところも見たことがなかった。
なのに何故。
「ミントティーには副交感神経を落ち着かせる効果があるらしいって聞いたからねェ。まあ、丁度良いんじゃねェか?」
くつくつと彼は笑う。
何か躱された気がする、とアンヤは顔を顰めた。
「何が丁度良いんだよ、ったく…」
ため息を吐きながらアンヤは隣にどかりと座り直す。
ぱちくりとカイコクが綺麗な黒曜石を瞬かせた。
「え?」
「は?」
疑問符を浮かべる彼に、アンヤも短い疑問を投げかける。
「くれるっつーことは淹れてくれんだろ」
「…あぁ、そういう…」
ふは、とカイコクが笑った。
しゃあねェな、と軽口を叩いた彼が立ち上がる。
マグカップを二つ持って戻ってきたそれからは湯気がたっていた。
「んだよ、テメェも飲むのかよ」
「俺が淹れるんだから問題ないと思うがねェ」
「オレにくれたんだろーが」
「細かいこたぁ気にすんない」
くすくす笑いながらひょいと袋を取り上げてそれを開ける。
爽やかな香りが広がった。


張り詰めた日常に、紅茶の茶葉のように広がる、穏やかな一瞬を。



「…誕生日おめでとさん」
「…おう、あんがとな」

とーやの日

「…冬弥ァ、待たせ……。…あ?」
とある日の放課後、少し用事があるから、と待たせてしまっていた冬弥を迎えに行った時だった。
「あっ、彰人!おそーい!」
「…杏は待たせてねぇだろ」
大きく手を振る杏にため息を吐きながらそう言う。
おろおろと2人を見比べるのは寧々、小さく肩を揺らすのは冬弥だ。
「冬弥を待たせてたのは事実じゃん。ねー?」
「…まあ、そうだな」
「あっ、てめっ」
小首を傾げる杏に冬弥が笑いながら頷く。
声を荒らげた彰人は、「…で?」と寧々と杏を見やった。
「今日は用事じゃなかったのかよ」
「…あー、うん、まあ…」
「まだちょっと時間があるんだ。…ね、白石さん」
曖昧な返事の杏に、寧々が微笑みかける。
「あ?」
「そう!そうなの!」
「…実は、今日、花火大会があるんだそうだ」
彰人たちのやり取りを見ていた冬弥が口を開いた。
それに、そういえば、と思い出す。
秋の花火大会、なんて珍しいだろうと、ここらではまあまあ大きなイベントだったはずだ。
かなりの集客があるらしい。
中学時代に行こうと挑戦した絵名と、友人である愛莉が(絵名はともかく、愛莉まで)人が多過ぎてもう行かないと言っていたのを覚えている。
「…あー…」
「私は草薙さんと一緒に行くんだ、ねっ、草薙さん!」
「うん。…東雲くんは、青柳くんと行かないの?」
杏のそれに頷いた寧々が聞いてくる。
彰人は少し考えた後、頭に手をやり、髪を掻きながら、空を見上げた。
「…あーいう人が多いの、オレは苦手なんだよな…」
SNSで見たお祭りの様子を思い出しながら言い、腕を組んでから…何故だかわくわくした様子の二人がこちらを見ているのに気付く。
「…んだよ」
「…やはり期待に応えてくれるな、彰人は」
「あぁ?!」
睨む彰人にキラキラした目の冬弥が言った。
…何かに巻き込まれていると知ったが後の祭りで。
「…どういうつもりだ、杏!」
「なんで私だけ名指し?!!」
「ま、まあまあ!」
言い争いになりかける前に、と止める寧々、より先に、「ごめんね、東雲くん!」との声が聞こえる。
「あ?!桐谷?!」
「私が杏と草薙さん、青柳くんを巻き込んだの」
「…いや、東雲くんを巻き込もうって決めたのはここにいる全員でしょ」
「…日野森まで」
物陰から出てきたのは遥と志歩である…何故他校の彼女らが普通にいるのは置いといて。
「うんうん、やはり東雲くんをキャスティングしたのは間違いなかったようだね」
「そうだなぁ!彰人ならやってくれると信じていたぞ!」
「…アンタらはなんで毎回いるんスか」
同じく物陰から登場する類と司に彰人は嫌な顔をした。
思ったより壮大なあれそれに巻き込まれたようだ。
「で?説明は?」
不遜な態度の彰人に、遥が申し訳なさそうに言う。
「実は、今度私達のグループで男女ユニットの曲をカバーすることになって…」
「遥が冒頭の男子パートを担当することになって、所作にちょっと迷ってたんだ。ね」
「色々試してみたんだけど何かしっくりこないよね、って話になって」
「…一番このセリフ言いそうなのは東雲くんだよねって話になった、って訳」
女子たちが口々に言う。
なるほど、それなら合点がいった。
歌詞と同じセリフを、彰人はまんまと言ってしまったらしい。
それがなんだか悔しかった。
「すまない、彰人。桐谷さんから相談を受けて、つい顔が思い浮かんでしまった」
「…いや、別にそれはいいけどよ…。日野森も草薙もこっち側だろ」
謝る冬弥に彰人は頭を掻く。
別に彼に頼られて悪い気はしないが…それより言いたいことがあった。
「そんなことないよ。…桐谷さんが行きたいならどこでも行くし」
「わっ、わたしも!白石さんのためなら頑張るよ」
「…日野森さん…」
「草薙さん…っ!」
何故か盛り上がる女子たちを見ながら呆れる彰人に、冬弥が袖口を引いてきた。
「それで、彰人は行かないのか?」
「あ?花火大会の話は冗談じゃ…」
「いや?その話自体は本気だが」
こてりと首を傾げる冬弥の肩を、司が抱く。
「彰人が嫌ならば構わないぞ!…冬弥、今日はオレと共に行くとしようではないか!何せ今日は一年に一回の特別な日なのだからなぁ!」 
大きな声で笑う司が含んだ目でニヤリと笑った。
まさか。
「…っ!行くに決まってんだろ!」
「…!良いのか?」
「ほう?今年は棄権かと思ったぞ?」
「はっ、その挑発には乗らねぇからな」
啖呵を切りにらみ返す彰人と、珍しく余裕そうな司。
間では冬弥が焦りながらもなんだか嬉しそうで。
それを見ながらおやおや、と類が笑う。
「…いつから勝負になったんだろ」 
寧々に抱きついている杏がその様子を見ながら呟いた。
「…類は行かなくて良いの?」
「ふふ、もう少し高みの見物をしておこうかな」
見上げる寧々に類が笑う。
「…神代さん、余裕ですね…」
「何か策があるんですか?」
感心したような志歩と、首を傾げる遥に類はただ微笑んでみせた。
夏から秋に変わった風が吹く。


本日10月8日、毎年恒例とーやの日!

(誰が冬弥を一番喜ばせられるか勝負する日になってる、なんて野暮な話ですよ!)

「…ふむ、どうするか…」
「…なんスか、また悩んでんスか」
「…あれ?昨日の夜決めたって言ってなかった?」
「…その後咲希に意見求めたら余計に分からなくなったみたい…」
「…おやおや」

類が4人のあれそれを聞きながらくすくす笑う。
眉を寄せて悩むのが司、呆れた顔が彰人、首を傾げたのが寧々、なぜだか罰が悪そうなのが志歩だ。
何をこんなに悩んでいるのか。
それは司たちが所属するワンダーランズ×ショウタイムが毎年公演する天使の日のショーに起因していた。
今年の『天使の日スペシャルステージ』を最終回として一区切りする、と打ち出したのは良かったのだ。
だが、最後ということで、何をメインにするかをまたも悩んでいるのである。
「うむ…。昨日はあれが最善だ!と思ったのだがなぁ…」
司が宙を仰ぐ。
彼らに取っても大切な公演だ、妥協はしたくないというのが本当のところだ。
「すまん、彰人!志歩!2人は関係者ではないが一緒に考えてほしい!!」
「…るせっ…。…まあ、冬弥も楽しみにしてますし?しゃーねぇッスね」
「…流石にこの流れで嫌ですとは言えないでしょ。…手伝いますよ。桐谷さんも楽しみだって言ってたし」
「ありがとう二人とも!助かる!!!」
「…司、うるさい!…ありがとう、日野森さん、東雲くん」
いつもの大きな声を出す司に一喝した寧々がペコリと、頭を下げる。
「えむが確認に行ってくれてるとはいえ…早く決めなきゃだもんね。白石さんも待ってるって言ってくれたし」
「そうだねぇ。待ってくれている3人の為にも早く決めないとね」
類がくすくす笑った。
「そうだな。…さて、どうするか…」
「いっそ新しい世界観にするのはどうッスか、…天使とゾンビとか」
「いや、迷走しすぎでしょ。…まあハロウィンならいいかもだけど」 
「最終回にゾンビはちょっと…。…面白いけど」
「ふむ…」
わいわいと話す4人に類が何か考え込む。
「…おい、類?」
「天使とゾンビ…相容れない2者の対立…荒廃した地上で、最後の戦いが始まる…!」
「…おーい、類ー?戻って来いー?」
ひらひらと司が手を振った。
「…そう聞くとちょっと面白そうかも…」
「志歩まで類の味方か?!」
「冗談ですよ」
くす、と笑う。
流石にそれは集大成としてどうかと思う…スピンオフなら見てみたくはあるが。
「…なら、全員集合はどうでしょうか?」
「え…」
「天使たちと、騎士と王子と魔術師と悪魔とそれから歌姫。みんな集合するのは熱いと思いませんか?」 
「冬弥!それに桐谷!」
にこにことやってくる青髪の二人の横を、夜空のような長い髪を靡かせた少女が走ってくる。
「草薙さぁん!!ぜっったい止めてね、ゾンビ!!」
「わっ、白石さん!!」
抱き着く杏を寧々が抱き止め、大丈夫だよ、と笑った。
「ゾンビが来てもちゃんと守るから」
「…!草薙さぁん…っ!」
「…楽しそうだな、あいつら」
何故か盛り上がる寧々と杏に呆れた顔を見せるのは彰人だ。
「彰人は護ってはくれないのか?」
「…あ?ゾンビからか?…そうだな…」
冬弥のそれに彰人は考えてからにやりと笑う。
「センパイたちに任せて冬弥と逃げる」
「何ぃ?!」
「おや、東雲くんは戦わないのかい?」
「いやぁ、一番後輩なんで。センパイがたの戦いを見させていただきますよ」
「…何だかんだあっちも盛り上がってるじゃん」
驚く司、煽る類にニヤリと笑う彰人、眉を寄せる冬弥…まあまあいつもの光景に、志歩は息を吐いた。
「日野森さんは?」
「え?」
「私を護ってくれる?」
「まあそりゃ…。…でも桐谷さんは大人しく護られてくれないでしょ」
「そんなことないよ?…多分」
くす、と笑う遥に、そういうとこだよ、と志歩も笑う。





どうやら、今年の演目も無事決まりそうだ。

「…今年は直球で行こうと思うんだけど」
「…うん?」
放課後、公園に呼び出した彼女にそう言えば、少し首を傾げた。
お互いの休日が奇跡的に合い、もうここしかない、と志歩は急ピッチで準備をしたのだ。
あまり回りくどいこともしていられない。
「どうしたの、日野森さん」
「今日、桐谷さんの誕生日でしょ」
不思議そうな遥に笑いかけると彼女はきれいな目を丸くさせた。
「…覚えててくれたんだ…」
「当たり前でしょ。大切な…恋人だからね」
「!…うん」
ふわふわと微笑む遥をベンチに案内し、はい、と用意したプレゼントを渡す。
「誕生日おめでとう、桐谷さん」
「ふふ、ありがとう。開けても良い?」
「勿論」
嬉しそうな頷くと、彼女は何だろう、なんて言いながら包みを解いた。
「…これ!秋限定フェニーくん!」
「そう。…ちなみに私とお揃い」
目を輝かせる遥に、自分も買ったそれを見せる。
ちなみに持っているものが違う…志歩のフェニーくんが洋梨、遥が持っているのがぶどうだ、もう持っていたらどうしようかと思っていたが杞憂だったようだ。
「ありがとう、日野森さんっ!」
「わっ、どういたしまして」
抱き着いてくる彼女を抱きとめ、志歩は笑う。
遥が喜んでくれたなら良かったな、と思った。
たまには直球勝負も悪くないな、と志歩は息を吐く。


小細工なんか一切ない、真っ直ぐな愛を、貴女に!


「愛してるよ、桐谷さん」
「…ふふ、私もだよ…日野森さん」

「よっしゃーーー!!!」
「うわっ」
電子の歌姫、初音ミクの雄叫びに兄さんがびくっと体を揺らした。
「えっ、何、どうしたの?」
「31日に仕事入れたいマスターと、31日はルカ姉ぇとデートしたい初音さんとのリモート勝負に、多分勝った」
「多分ではなく、勝利が確定したのだよ、レンくん」
戸惑う兄さんに説明すると、ミク姉ぇがドヤ顔で言ってくる。
やだぁ、今日も初音さんがウザい。
「ああ、そういう…。…嬉しいのは分かるけど、急に叫ぶのははしたないからね?」
「えっへへー、ごめんねっ?」
クスクス笑いながら注意する兄さんに、ミク姉ぇがきゅるんと可愛く謝った。
初音さんマジ初音さんさぁ…。
「誕生日を迎える初音さんに死角はないのだよ!」
「…フラグだ、フラグ」
「はっはー!何とでも言いたまえ!」
「二人とも…」
おれとミク姉ぇのやり取りを笑って見ていた兄さんが、ふと辺りを見渡した。
「そういえば、ルカは?」
「ルカ姉ぇ?…そういやぁ見てねぇな」
「ルカちゃんなら、私のバースデーケーキ取りに行くって」
上機嫌なミク姉ぇが答えるけど、兄さんがこてりと首を傾げる。
「?ミクのバースデーケーキは今年も俺が作るよ?」
「お兄ちゃんのケーキ!お店より豪華だから正直嬉しい!…あれ?」
嬉しそうなミク姉ぇはその答えと、ルカ姉ぇがいないことに、漸く疑問を抱いたみたいだ。
「えっ、嘘でしょ」
慌てたように、さっき机に置いたスマホに目を戻す。
そこには。
『お姫様を奪還せよ、さすれば自由は与えられん』
「「……あー……」」
「……あぁああっ!!!」
哀れみ篭ったおれと兄さんのそれとミク姉ぇの咆哮はほぼ同時だった。
流石の兄さんもこれは注意することはなかった…あまりに可哀想だもんな……。
「…どんまい、ミク姉ぇ」
「…美味しいケーキ作って待ってるから、お姫様を迎えに行っておいで」
口々に言うおれたちに、ミク姉ぇが「一発入れても許されるよね…」と嗤う。
電子の歌姫っていうか、電脳セカイのラスボスっていうかなんていうか。
「おれは止めない」
「…聞かなかったことにしてあげるね」
「ふふ、ありがとう、レンくん、お兄ちゃん。初音さん、勝利をつかみ取って来るね☆」
ミク姉ぇが立ち上がってにっこり笑う。
大凡、誕生日を迎える人のそれではない笑顔で。

誕生日は、始まったばかりだ。



(プレゼントは自分でどうにかするものだよね?!)



「…誕生日ってこんなに物騒だったかな…?」
「…サプライズが全力なんだろ、知らんけど」

とある、8月も秋に近づいた…ある日。


「レンってばまたそれやってるの?好きだねぇ」
ひょいとレンのそれを覗き込んでKAITOが笑う。
ソファ寝転んでいたレンは、自分たちがモデルになったリズムゲームをプレイしていた。
最初はモデルだから、とやっていただけだったが、だんだんハマってしまったのである。
…セカイ毎にKAITOのモデルがいるのがまた、良い。
「…んー、なんだかんだ良いんだよな…」
「何、それ」
本人にそれを伝えるのもまた憚られ曖昧に濁すレンにKAITOがまた笑った。
程々にね、と言う彼に生返事をしながらガチャを回す。
うちの初音ミク、とは違う如何にも電子の歌姫然とした初音ミクが紫に光る石を持ってきた。
がば、と起き上がり、兄の元に走る。
「兄さん!!気が弱いおれの新カードが出た!」
「…レンって何気に豪運だよね」
ほら!と画面を見せると何事かと思った、と笑いながらそう言ってくれた。
画面には現イベントの新しいカードである鏡音レンが映っている。
それにしても、とKAITOが何かを言いかけた。
「?どうしたん?」
「いや…。セカイによってレンの性格全然違うなあって思って」
「あー…まあなぁ」
兄のそれにレンも同意する。
同じ鏡音レンから出たのに6人とも自分とは全然違ったからだ。
「でも、他のおれたちが出てるゲームとも、でかいイベント出てるおれたちとも性格違うじゃん。何だっけ、十人十色?」
「まあ…ねぇ……?」
レンのそれに少し考えながらKAITOが頷く。
「兄さんも全然性格違うし。ま、おれはおれの兄さんが一番好きだけどな」
「えっ」
「?なんか変なこと言った?」
びっくりして目を丸くするKAITOにキョトンとしてしまった。
レンにとっては当たり前だから。
「おれは、何百人『KAITO』がいて、全員同じ服着てても、兄さんの手を取る自信あるよ」
「…もう……」
レンのそれにKAITOが笑う。
まるでそれはプロポーズのようで。
「レンなら本当に見つけてくれそうだねぇ」
「だろ?」
眩しそうに綺麗な青の瞳を眇める兄に、レンは笑いかける。



ネットの海に広がる青のように無限にいたとして


自分が愛したKAITOは、一人だけ




(自分の隣で笑う、このKAITOだけなのです!)



「…じゃあ、こないだガチャで出たブルームフェスのKAITO衣装着る約束はなしで…」
「…それとこれとは話が違うじゃん…っ!!!」

マジミラ2025

ヒアソビ
アンテナ39/初音天地開闢神話
幸福安心委員会
MAGAMAGA
星屑ユートピア/抜錨
ラヴィ
少女A
キミペディア/ジェミニ
1/6
独りんぼエンヴィー/太陽系デスコ/はじめまして地球人さん
ヴァニッシュ
みかぼし/ドクターファンクビート
原点
夜舞うシルエット/夜空のクロノクロス
Flyway
メテオ
LASTNight、Good night。/Starduster
バンメン紹介
METEOR
Stargazer
黙ってロックをやれって言ってんの!
ブループラネット
HandinHand
アンコール
ストリートライト
ブレッシング
ラストラス

「~♪」
「ご機嫌だね、白石さん」
「!草薙さん!」
鼻歌を歌う杏に話しかければ彼女はぱあ!と表情を明るくさせた。
「だって、草薙さんから誕生日プレゼント貰ったんだもーん!嬉しいに決まってるじゃん!」
杏がニコニコと言う。
そんなに?と寧々も笑った。
ちなみに中身はオススメのヘッドフォンだ…寧々もネットゲームをする時に愛用している。
「喜んでもらえたなら良かった」
「えへへ、たくさん使うね、草薙さんっ!」
「うん。…わたしも、白石さんからもらった喉ケアスプレーのセット、ちゃんと使ってるよ。すごく良いね」
「本当?!良かったぁ!!」
ホッとしたような彼女は益々嬉しそうに笑った。
「やっぱり、贈った物が喜ばれるのって、良いね!」
「うん、そうだね」
同意する寧々に、杏も頬を緩ませる。
随分まあ楽しそうに。
「…白石さん?」
「ん?なぁに、草薙さん!」
「…他に…嬉しいこと、あったの?」
首を傾げて聞いてから、その質問は失礼かとも思った。
今日は誕生日なのだし、嬉しくてもまあさもありなんといったところだろう。
だが、彼女は、「わかるー?」と両頬を手で押さえた。
「だって、草薙さんとまた同い年に戻ったんだもん!」
「…えっ?」
杏のそれに思わず目を見開く。
彼女は今なんと?
「ほら、草薙さんって、1週間限定だけど私よりお姉さんだったじゃん?置いていかれた感じでちょっと寂しかったんだよね!」
ブスくれる彼女に、思わず笑ってしまった。
「…ふふっ」
「あー!笑った!草薙さんは置いてく方だから分かんないんだよ!」
「…ご、ごめんね…」
もー!と文句を言う杏に笑いつつ謝る。
だって、思ったより可愛い理由だったから。
「わたしの、次の誕生日が来るまでは置いていかないよ、白石さん」
「…草薙さん……」
ぎゅっと手を握って微笑む寧々に、杏は向日葵に似た瞳を丸くする。
それから、ふにゃっと笑った。
「うんっ!!次の誕生日まで離さないでね、草薙さんっ!」


(笑う、クマノミみたいに無邪気な彼女に、人魚姫は)



(うっかり恋よりお姉さんが芽生えてしまいそう!)


「…わたし、同級生でいられるかな…」
「えっ、何、何の話?!!」