マキノ誕

今日は自分の誕生日だ。
それを思い出したのは奇しくもそれがバレンタインと同日だったからである。
愛を知らないマキノの誕生日が愛を伝える日と同じなのは何の皮肉だろうか。
「…逢河?」
「…。…カイコッくん?」
ひょいと姿を見せて不思議そうに首を傾げたのは鬼ヶ崎カイコク…愛を蹴散らす人だ。
そんな彼の隣はとても心地よく感じる。
…無理に愛を押し付けて来ないから。
「…隣、良いかい?」
ややあってそう聞く彼にこくんと頷いた。
彼がマキノの隣に収まる。
ふふ、と楽しそうにカイコクが笑った。
何か楽しいことがあったろうか、と思っていれば彼がもたれかかってくる。
「…カイコッくん?」
「…。…誕生日プレゼントでェ」
ふわふわと微笑みながら言う彼にマキノはほんの少し目を見開いた。
カイコクは存外律儀な人だ。
こうやって毎年祝ってくれる。
…それだけで。
「…カイコッくんの、おめでとう…聞きたい」
「…お前さん、ちょっと欲張りになったな」
きれいな瞳を丸くした彼がふは、と笑った。
赤い紐が跳ねるように揺れる。
「…だめ?」
「ったく、しゃあねぇ」
首を傾げれば、カイコクは「お誕生日様だからな、特別でェ」と微笑んだ。
いつもの、仲間たちに見せる顔とは違った優しい…それで。
「誕生日おめっとさん、逢河」



優しい夜の、年に一回の恒例行事。



今はただそれだけで、と、マキノは目を細めた。

彰冬人狼 白とか黒とかエトセトラ

ある冬の寒い日。
彰人は道を急いでいた。
「…冬弥!」
「…。…彰人!」 
少し遠くから声をかければ読んでいた本から顔を上げた彼が嬉しそうに微笑む。
「悪りぃ、待たせた」 
「どうしても、と頼まれたのだろう?…今日は俺も図書委員の仕事をしてきたから相子だ」
はぁっと息を切らせる彰人に、冬弥は小さく笑んだ。
RADWEEKENDを超える、と宣言してからバイトまで辞めた彰人だが、今日はフリーマーケット前日で、どうしても人が足りなかったらしく無理を承知で頼まれたのである。
彰人としても今日は自主練習の日にしており、お世話になった店長の頼みだったから2時間限り、と制限をつけて出向いた、というわけだ。
その間冬弥も図書委員の仕事をしてきたらしい。
少し早く終わった、と連絡があったのは30分ほど前の話だ。
スマホに入っていたメッセージを見、店長への挨拶もそこそこに慌てて来たのである。
「…っと、ほい」
「…!すまない」
カバンに入れていた、来る前にコンビニで買ってきてほしいと頼まれたそれを冬弥に渡した。
別に、と返して彰人も隣に座る。
「…つーか、お前、市販のやつは苦手っつってなかったか?」
「そうだな。調整されたものはかなり甘く感じて苦手なのだが…今日は少し頭を使ったからな。…糖分補給だ」
「は?」
くす、と冬弥が買ってきたそれを小さく振って笑った。
それに眉を寄せれば温かいペットボトルのそれを開けるために閉じられた本に目を落とす。
同じように目を落とせば『初めての人狼ゲーム』というタイトルが目に入った。
「…彰人は何を飲んでいるんだ?」
「新作のホワイトモカ」
首を傾げる冬弥にあっさり答えてやる。
そうか、と頷く彼が買ってきたそれに口を付けた。
もう少し飲めば困った顔をするだろうから、と買って来た缶コーヒーの準備は出来ていた…それこそ甘い、と笑われそうだが。
甘いのは彼にだけ、なんだけどな、と彰人は1人ごちて同じようにペットボトルの中身を呷った。
「んで?なんだよ、人狼ゲームって」
「ああ。…少し前から様々なメディアミックスに取り上げられる様になっただろう?漫画やアニメ、小説、舞台、ドラマ…」
「…ああ、そーいや、次のショーの題材なんだったか?」
「そうだな。…それだけでなく、今度バラエティ番組の1コーナーになるらしい」
彼が慕うセンパイたちが関わる劇団関係から読んでいるのかと聞けば、他にも色々影響されていたようだ。
彰人も少しは聞いたことがあったが詳しいルールは知らないな、と宙を見上げる。
「確か…市民の中に隠れた人狼を探す、ってやつだろ?」
「そうだ。…昼に狼が誰かを議論して一人を選び処刑する。夜は狼が市民を襲撃する。…人狼が多くなれば人狼の勝ち、人狼を始末出来れば市民の勝ちだな」
「…割と物騒な設定っつうかなんつうか…」
「そうだな。だが、推理物としてみれば面白い。…彰人は得意なんじゃないか?」
言葉を濁す彰人に、冬弥がくすりと笑う。
接客などで猫を被る姿を見ているからだろうか。
「そうか?…頭良いやつのが有利だろ」
「そうとも限らない。…俺なんかは考え過ぎてしまうからな。あと、頭が良いより立ち回りが上手い人の方が有利だろう」
「そんなもんなのか。…そういや、人狼って他にも役職があったような…?」
首を傾げる彰人に冬弥が嬉しそうに頷く。
自分が読んでいる本に興味を持たれる、というのは彼にとって存外嬉しいことらしかった。
「夜の内に誰か1人、人狼かそうでないかを知る事が出来る予言者、処刑者が人狼かそうでないかを知る事が出来る霊能者、人狼から誰か一人を護ることが出来る狩人などが一般的だな。後は、ゲームによっても様々だが…処刑時、または襲撃時に誰かを道連れに出来る役職もあるようだ。人狼の中だと嘘を吐き場を混乱させる狂信者がいるな」
「…オレのが混乱しそうなんだけどな…」
冬弥の説明に眉を顰めながらホワイトモカを口に含む。
冬の寒い日、甘ったるいそれは際立って彰人の喉に落ちた。
「人数が多くなれば役職も多くなるようだ。
毒で道連れにする埋毒者、関わる人は敵味方関係なく殺してしまう殺戮者、人狼陣営だと他にも処刑時に人狼以外を狙って道連れにする黒猫、という役職があるらしい」
「待て待て、なんで人狼の味方が猫なんだよ、おかしいだろ」
「それは作者に言ってもらわないとな」
楽しそうに冬弥が笑う。
綺麗な髪がさらさら揺れた。
「彰人は…狩人は向いてそうだと思うが」
「そうか?誰守るか考えんの面倒だしな…やるなら人狼だな」
「市民ではない辺りが彰人らしいな」
微笑む冬弥がペットボトルを傾ける。
僅かに表情が曇るから買っていた無糖の缶コーヒーを差し出した。
「…!…すまない」
「別に。…飲んでやるから貸せよ」
「ああ。…これに缶コーヒーを入れたら少しは美味しく飲めないだろうか…」
「んな無理することないだろ」
あまりに真剣な顔で言うから思わず吹き出す。
そういう真面目なところが彼らしいと思うのだけれど。
「…冬弥は予言者だな」
「…そう、だろうか?」
「おう。…向いてる」
冬弥から受け取ったそれを飲み干す。
少し冷めた、ホワイトモカとはまた違った甘ったるい味。
「だが、それだと彰人とは敵同士だな」
ふと冬弥が寂しそうに言った。
ただのゲームに感情移入してしまったのだろうか。
…彼らしいと言えばそうなのだが。
「人狼と予言者だけ残った村もありなんじゃねーの」
「あり、だろうか…」
小さく肩を揺らしていた冬弥が、ふと思い出したように本を開いた。
先程とは違い、「あり、だ。彰人」と嬉しそうに言う。
曰く、『恋人』というものがあるようだ。
『恋人』とは、市民や人狼などの元々の役職とは別に与えられる属性で、 村人が16人以上の場合、登場することができるらしい。
『恋人』同士になった二人は、役職に関係なく、ゲーム終了時に二人が生き残っていると勝利なのだそうだ。
『恋人』同士は、お互い相手が誰なのかを知っており、片方が処刑や襲撃などで死亡してしまった場合は、もう片方も後追い自殺をしてしまう、という設定で、片方が市民、片方が人狼だった場合は、人狼の勝利条件を満たしたうえで、二人が生き残っていれば勝利となるーー。
「俺達にぴったりだな」
「そりゃそうだが…後追い自殺って後味が悪いにも程があるだろ」
「そうならない為に立ち回るんじゃないか?」
不思議そうに首を傾げる冬弥に、彰人はへぇ、と悪い顔をした。
「味方も騙して二人生き残るってか」
「…。…彰人はやはり狩人ではなく人狼だな」
意地悪だ、という冬弥に思わず笑う。
「そりゃどーも。…で?予言者サンは人狼のオレと生きてくれんのかよ」
「俺は彰人の隣で歌う事が出来ればそれで良いからな。…役職は関係ない。お前の隣にいる事ができれば、それで」
「…お前なぁ…」
飲んだどの飲み物より甘美それに彰人は呆れた。
グイッと引き寄せて口唇を奪う。
ブラックコーヒーを飲んだ彼に移す甘さ。
それは蜜かそれとも毒か。
人狼でも予言者でもない、ただただ夢に直向きな男子高校生にはまだ知らない。


夢と執着は絡まり合って混ざり合って色を変え溶けていった。

カイコク誕生日

今日はカイコクの誕生日だ。
数日前から色々考えていたが……ザクロはシンプルにするか、と立ち上がる。
元々サプライズは得意ではなかった。
カイコクの方も驚かされるのは好きではないだろうし。
それに、素直に言葉を伝える方が良いときもある。
「…鬼ヶ崎」
「?忍霧?…どうしたんでェ」
先を歩く彼を呼び止めれば、彼は立ち止まり首を軽く傾けた。
ふわりと面の赤い紐が揺れる。
「誕生日、…おめでとう」
「…!…ああ、また律儀な……」
小さな包みを手渡し祝いの言葉を述べた。
綺麗な色の瞳を丸くさせたかと思えば、彼は嬉しそうに笑う。
包みを受け取った彼は、ふわりと笑い「ありがとな」と言った。
いつもは飄々として本心を見せない彼からの素直な言葉に少しだけ面食らってしまうが、何とか、「…あ、ああ」と取り繕う。
「なんでェ、面白い顔して」
「なっ…!!…はぁ」
楽しそうなカイコクに言い返そうとしてザクロは止めた。
一応今日は彼の誕生日である。
「それで?…今年は何をくれたんでェ」
「気になるから開けてみれば良いだろう」
「一応許可は必要かと思ってな」
「鬼ヶ崎への贈り物だ。…貴様の好きにすれば良い」
照れ隠しにそう言えば、ならそうさせてもらうかね、と彼も小さな包みのリボンを解いた。
「…これは、お茶…?」
「ああ。黒豆茶だな」
包みから出てきたのは黒豆茶のティーバックだ。
パックの形がウサギになっており、それが鬼の面を持ったり金棒を持ったりしている。
節分の時期限定の味で、彼は甘いものが苦手だからちょうど良かろうと思ったのだ。
「そりゃあ有り難ェが…ちぃっとばかし可愛すぎやしねェか?」
「そうだろうか?…似合っていると思うが」
「それは…鬼の辺りかい?」
「いや。うさぎの辺りだな」
あっさりと返せばカイコクは少しだけ眉を寄せた。
「…うさぎはねェだろう……」
「似合うぞ?」
「…。…忍霧は変わってるねェ…」
曖昧な笑みを浮かべる彼にザクロは首を傾げる。
何かおかしいことを言ったろうか。
…彼はよくうさぎに似ているのに。
のらりくらりと人を躱す辺りは猫そっくりだが…うさぎにも似ていると思う。
「…まあ良いか。…忍霧。お前さんも飲むだろ?」
「良いのか?」
「俺への誕生日なんだろ?…だから、俺の好きにさせてもらう」
来な、と笑う彼はとても綺麗だ。
それならば、とザクロは素直でない好意を受け取ることにする。
滅多にないことだ、無碍にすることもなかろう。
「…そういえば黒豆にも花言葉がある。…知っているか?鬼ヶ崎」
「へえ?…そりゃ…聞いても?」
カイコクが少しわくわくしたように聞いてきた。
贈り物に秘めておくことも出来たが…ザクロはあえて口にする。
くいっと彼の耳に口を近づけ、マスクを下ろした。
「…必ず来る幸福、だ」
「…!」
零れ落ちそうな程目を見開いた彼にふ、と笑ってみせる。


今日誕生日の彼に、必ず来る幸福を。


(幸せを諦めがちの貴方に、約束しよう



幸せにしてみせるという、遠回しかつ真っ直ぐなプロポーズを!!!)

しほはるワンライ

「おまたせ、咲希。行こ……」
「今日はたくさん、楽しんで行ってもほしいにゃん♡」
放課後、先生から頼まれた用事を終わらせ、ガラリと幼馴染でありバンド仲間が待つ自分の教室の扉を開けた…はずだった。
なのに何故。
彼女からファンサを受けているのだろう。
「…って、日野森さん?!」
「……何やってるの、桐谷さん」
入ってきた相手が志歩だと分かり、遥は目を丸くした。
対して志歩は呆れ顔だ。
「あっ、しほちゃんだぁ!」
「咲希。また桐谷さんを変なことに巻き込んで…」
嬉しそうな声の咲希に、志歩はその顔をそのまま彼女に向ける。
「えー、変なことじゃないよ!アタシたちも、バンドしててファンサすることもあるかもしれないでしょ?だから、今をトキメクアイドルのはるかちゃんにレクチャーしてもらおうと思って!」
「私達はそんなファンサはしたことないでしょ。…一歌や穂波が戸惑うよ」
キラキラした目の咲希に言えば、彼女はそっかぁ、と少し残念そうな顔をした。
「似合うのに…」
「私はやらないからね」
「えー?!!」
不満声の幼馴染に、遥がくすくすと肩を揺らす。
「ほら、だから言ったでしょう?咲希たちのバンドの方向性は違うって」
「うぅ〜そうだけどぉ…!」
悔しそうな咲希は頬を膨らませていたが、窓の外に知っている顔を見つけたらしく、「あ!いっちゃん!ほなちゃん!」と声を上げ慌ただしく教室を出ていった。
志歩は、「ねぇねえ!今、はるかちゃんがファンサのやり方教えてくれて…!」という咲希の声を聞きながら息を吐く。
「…なんか、ごめん」
「ううん。…喜んでくれたし、私は嬉しいよ」
微笑む遥に、なら良いけど、と志歩は表情を緩め…ふとある事が気になった。
「そういえば…私にファンサはしてくれないの?」
「え?」

ルカ誕

「お兄ちゃん!協力してほしいことがあるんだけど!!」
「…うん?」
私の名前は初音ミク。
恋する乙女、正真正銘16歳の、ボーカロイドです。


「…じゃあ、ルカの誕生日にするデートを一緒に考えてほしい、で良いかい?」
「さっすがぁ!話が早い!」
首を傾げるお兄ちゃんに、私は指を鳴らす。
明日は愛しのルカちゃんの誕生日。
だから、スマートなデートがしたいんだけど…。
「…それは良いけど…なんで俺?」
「お兄ちゃんがルカちゃんに一番近いから」
不思議そうなお兄ちゃんが淹れてくれたココアを飲みながら私は答える。
この癒し系お兄ちゃんことKAITOとルカちゃんは雰囲気がとってもよく似てるんだよねぇ。
双子設定(うちでは、だけど)のリンちゃんとレンくんより似てるかも。
ちなみにルカちゃんはレンくんに連れ出してもらってる。
大切なルカちゃんの誕生日デートだもん!
しっかり考えなきゃ!
「お兄ちゃんなら、誕生日に何処連れて行ってもらったら嬉しい?」
「そうだなぁ。…相手がたくさん俺のことを考えて決めてくれたなら、どこでも嬉しいよ?」
「…それが最終ホテルでも?」
「…それは聞かなかったことにするね」 
にこっとお兄ちゃんが笑う。
ちぇっ。
隙がないんだからー。
「逆にミクはルカから何を貰ったら嬉しいんだい?」
「え?ルカちゃん」
「…そっかぁ……」
即答する私にお兄ちゃんの表情が引き攣った。
…世界広しといえど、あのKAITOにこんな表情をさせる初音ミクは私だけだろうな…ちょっとテンション上がってきたよ?
「でもさぁ、私も16周年を迎えた16歳じゃない?スマートでゴージャスなデートがしたいんだよね!」
フンス、と気合を入れれば、お兄ちゃんは困った顔をする。
「気合を入れすぎるとから回っちゃうよ?背伸びしないで、今のミクがルカの為を思ってデートをする方が良いと思うな」
「…一理あるけど…。せっかくの15周年だし…」
「せっかくの15周年だからだよ。緊張しながらより、お互いが楽しめる方が俺は良いと思う」
「…そっか!!」
微笑むお兄ちゃんに私は納得した。
やっぱり流石はお兄ちゃん!
「ありがとう!…流石、大人のデートをプレゼントされ損ねた側は言う事が違う!」
「あはは……」
「…ミク姉ぇ……??」
笑うお兄ちゃんよりも、低い声が私の名前を呼ぶ。
んげ。
「レンくん?!」
「協力者にんな悪口言って良いんですかねー?」
「わー!ごめんごめん!」
慌てて謝る私に、お兄ちゃんとルカちゃんがくすくす笑う。
笑ってないで助けてよー!
「あーあ、おれ、良いアシストしたのになぁ。…なぁ、ルカ姉ぇ?」
「…ええ」
わざとらしくレンくんがルカちゃんを振り返る。
え?何?何??
「…ミク姉様。こちらを受け取っていただけますか?」
「え?私??」
きょとんとしながらそれを受け取る。
手のひらに乗るほど小箱。
…中身は。
「…これ!」
「ロケットですの。…ミク姉様に感謝を伝えたくて」
ルカちゃんが微笑む。
エメラルドグリーンとピンクローズがあしらわれたシンプルなデザインのそれ。
「…15年前、ミク姉様の妹として生まれた私を受け入れて、好きだと言ってくれてありがとうございます」
「…ルカちゃん」
「私、少し経ってから生まれた妹機でしょう?だから、受け入れられるか少し不安でしたの。でもミク姉様は惜しみない愛を私にくれました。だから…」
「そんなの、当たり前じゃん!!」
ルカちゃんの言葉を遮って私はルカちゃんを抱きしめる。
「ルカちゃんは私の大好きで大切な可愛い妹で、どんなに愛しても足りないくらい愛してる世界一の恋人なんだから!!!」
「…ふふ」
抱きしめた私の耳元で嬉しそうなルカちゃんの声が聞こえた。


ルカちゃんが不安なら、私が全部吹き飛ばしてあげる。

だってルカちゃんは、この電子の歌姫である私の愛しい愛しい恋人なんだからね!



「…私が20周年の20歳を迎えるまでに私もミク姉様にお返しできるように頑張りますわ」
「もうたくさん返してもらってるし、年齢の話したらお姉ちゃんブチ切れるよ」
「…ミク…」
「いやでもそれはおれもそう思う」
「……レンまで…」

しほはるワンライ/和装・1年越しの邂逅

新年の過ぎたとある神社。
長い青髪を舞わせる少女を見つけ、榛色の上の少女は笑みを浮かべる。
「やっと会えたね」
そう呟いて少女はぴょん、と鳥居から飛び降りた。
「…?!!」
「こんにちは、久しぶりだね。…カンナギ」
「え、あ、和風ロック?!」
驚いた表情の手を握る。
一年越しの邂逅。
…ずっと、彼女に会いたかった。
「会えなかった一年、カンナギのことを想ってた」
「…うん、私も会いたかったよ」
カンナギが優しく微笑む。
嗚呼、この笑顔がずっと……。



「…っていうのはどうかな?!」
「…何それ……」
わくわくしながらこちらを見る咲希に志歩は飽きれたように見つめた。
「めちゃくちゃ良いね、それー!」
「でしょでしょー!!」
きゃっきゃしているのは志歩ではなく、服を見繕ってくれた瑞希だ。
テンションが似た知り合いが増えてしまったな、と思う。
「はぁ……」
「あっ、みずきちゃん!しほちゃんのテンションが低いよ?!」
「えー?!なんでー?!…遥ちゃんは、良いと思うよね?!」
瑞希がくるんと振り向いた。
それを見ていた遥はくすくすと笑う。
「…桐谷さんも笑ってる場合じゃないと思うけど」
「そう?…私は楽しいと思うよ」
「でしょでしょー?!」
「ほらぁ!しほちゃんももっと楽しまなきゃだよー!」
「…なんで私が少数派なの……」
テンションが高い二人に同意する遥に、志歩は息を吐いた。
少し裏切られた気分だ。
「…でも、嬉しいのは本当なんだよ?」
「…え?」
ひそ、と遥が声を顰めて志歩に言う。
きょとんとしていれば彼女はにこりと笑った。
「私も日野森さんの和風コーデ、見てみたかったから」


笑う遥に、志歩は目を見開く。


私も、と囁き、二人で微笑みあった。


お互い待っていた、1年。



待ちに待った、邂逅の日!



「あっ、しほちゃんとはるかちゃんがナイショしてるー!」
「ちょっとぉ!コーデしてるのボクたちなんだけどー?!」
「やばっ、バレたよ、桐谷さん」
「ふふ、バレちゃったね、日野森さん」

司冬ワンライ/寒い冬・熱々

「…寒い…」
司ははあ、と白い息を吐きながら、言っても仕方がないことを呟いて空を見上げた。
今日は一段と冷える。
マフラーと手袋、コートを着込んでいるがそれでも寒かった。
早く教室に行こう、と足を速めているとふと後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。
「…先輩、司先輩!」
「…おお、冬弥!」
頬を上気させた冬弥が駆けてきた。
おはようございます、と柔らかく笑う冬弥に司も「おはよう」と挨拶をする。
「今日は寒いな」
「そうですね」
冬弥の隣に並び、当たり障りない会話をしようとした…が。
「…?どうかしましたか?」
首を傾げる冬弥の肩をつかむ。
「?!司先輩?!」
「体を冷やしたらどうする!!!」
「え…?」
驚いた表情の冬弥に司は真剣な表情をし、自分がしていたマフラーを取った。
冬弥はコートくらいで何もつけていなかったのだ。
マフラーも、手袋も、何も。
昔、家族と仲があまり良くなかった時は父親と会いたくないからとコートしか持ってこない時もあったが今はそんなことはないはずである。
…もしや何かあったのだろうか?
「…ありがとうございます」
「まったく…。…で?何故コートだけなんだ?今日は寒いと言っていただろう」
「いえ…。…実は昨日新刊の小説を読んでいて就寝が遅くなってしまって…。母さんからも寒いからと言われたんですがバタバタしたので忘れてしまったようです」
冬弥が照れたように言った。
なんだ、と司も安心する。
「司先輩は寒くありませんか?」
「ん?なあに、冬弥が寒くないことのほうが大事だろう?…それに」
手袋を片方つけさせ、何もつけていない手を握ってから自分のポケットに入れた。
「こうしていれば寒い朝も暖かいからな!」
司は冬弥に笑いかける。
冬弥も頬を染めて、はい、と頷いた。


寒い冬も、二人でいれば暖かい!!!





「あははっ、相変わらず天馬先輩と冬弥は熱々だなあ!」
「司はともかく青柳君まで…。…あ、白石さん、マフラーずれてるよ」

しほはる

「…はぁ」
その少女は何度目かのため息を吐く。
今日は1月7日。
特に取り立てて重要な日ではない(七草粥を食べる日だよ!と言っていた気もするが)、はずなのだけれど。
「…何かしたかな」
少女、志歩は小さく言葉を零す。
考えるだけ無駄なのだろうかとまた息を吐きかけたその時だった。
「…あの、どうか…したの?」
誰かがおずおずと声をかけてくる。
振り向けば若草色の綺麗な髪を揺らした少女が困ったようにこちらを見つめていた。
「…あ…草薙さん」
「…こっ、こんにちは、日野森さん。何か…悩みごと?」
そこにいたのは寧々だ。
わざわざ声をかけてくれたということは、きっと思っている以上に志歩は深刻そうな顔をしていたのだろう。
「…ああ…。…ちょっと、ね」
「…。…悩みなら、聞くよ…?解決出来なくても、話すだけで気分が変わるかもしれないし」
「…!ありがとう、草薙さん」
あわあわとそう言ってくれる寧々に、志歩はそう礼を述べた。
それから、道の端に彼女を寄せる。
寧々なら大丈夫だろう、という信頼が何故かあった。
「じゃあ、ちょっと…聞いてくれる?」




「…えっ、桐谷さんに避けられてる?」
自販機から出てきたホットミルクティーを手渡しながら言えば、寧々は目を丸くして復唱した。
「…」
「…っ、あ、ごめん」
気まずくなってふいと目線を逸らせば彼女は慌てて謝る。
それから、うーんと上を向いた。
「日野森さんには心当たりないんだよね?なら…」
少し悩んでから彼女は、「サプライズかも」と言う。
「…サプライズ?」
「うん。前に白石さんにサプライズされた時、すっごく避けられたから」
「白石さんに?ちょっと意外かも」
「まあ…。…理由を聞いたらバレたら困るからって。えむも、そういうの計画してるとすぐ顔に出ちゃうからなるべく会わないようになるよ。だから逆にバレるんだけど」
「ああ…。…咲希もそうだな…。…でも、桐谷さんはあんまりそういうの顔に出ない感じあるんだけど…」
くすくす笑いながら、いつも余裕たっぷりな遥を思い浮かべた。
お正月配信の大富豪企画で、涼しい顔をして革命を起こしていたのは記憶に新しい。
「だからこそ、失敗するわけにはいかないって思って、避けてるとか」
「なるほど…?」
「日野森さんも、鋭そうだもんね」
「それは…どうかな…」
くすくす笑う寧々に志歩は曖昧な笑みを浮かべた。
「…ミルクティーありがとう、日野森さん。お礼に、はい」
「いや、話を聞いてもらうお礼だから…えっ、何これ」
何かを取り出した寧々は戸惑う志歩にそれを渡す。
小さな手紙にぽかんとしていれば、「ちゃんと、渡したからね」と彼女は言った。
封を開ければ見慣れた文字が出てくる。
やられた、と頭を掻いた。
恐らく、どこかで待っている遥を、掴まえるべく、志歩は駆け出す。
「…っ、うそ…っ?!」
「つかまえた!」
翻る青い髪の少女の腕を掴み、自分の方に引き込んだ。
「…ひ、日野森さ…っ!」
「逃さないからね、桐谷さん」
驚く彼女に笑いかける。
手紙から滑り落ち、志歩の手に収まっていたフェニーくんの記念日限定アクリルキーホルダーがきらりと光った。
「手紙じゃなくて目を見て言ってほしいんだけど」
「だって、まだ1日早いし…」
「いいじゃん。…何回言われても嬉しいよ」
志歩のそれに遥は目を見張る。
それから。
ふふ、と笑った彼女は、ぎゅっと抱きついてきた。
大切な、言葉を添えて。



「誕生日おめでとう、日野森さん!」



明日は志歩の誕生日!


大好きな人と迎える、素晴らしい日!


「いやぁ、ラブラブだなぁ…」
「!白石さん、いつからそこに……」
「んふふ、まあ親友が悩んでたから、ついねー…」
「もう…。…仲良しって、良いよね」

司冬ワンライ/七草粥・健康

せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ
これぞ七草


「…よし、材料は揃ったな!」
「はい!」
「では、飛び切りの七草粥を作ろうではないか!!」
司が指揮を取れば、隣にいた冬弥が嬉しそうに頷いた。
「…粥、ということは水と米を共に炊けば良いと思うのだが…」
「恐らくは、そうですね…?」
「だが、味がせんのはなぁ…。咲希も粥はあまり好きではないし、せめて美味しく食べてほしいだろう?」
うぅん、と悩む司に冬弥が優しく微笑む。
妹である咲希は小さい頃から病弱で、そうなれば食事は粥がほぼだったのだ。
それを思い出すからだろう、あまり粥は好きではないようだった。
「…よし、冬弥は中華系か和風かどちらが良い?」
「…そう、ですね。七草に合うのは和風でしょうか」
「ふむ。では和風にするか」
そう言いながら、顆粒出汁とめんつゆを取り出す。
あまり入れ過ぎるのは失敗の元だが…少しなら良いだろう。
「冬弥、まな板を取ってくれ」
「はい」
粥を作る準備を二人で着々と揃えていく。
冬弥も去年色々とやってきたからだろう、楽しそうに調理を進めていった。
「…ん、冬弥。お前も味見してくれ」
「…!はい」
ほら、と少し掬ってからスプーンを冬弥の方に差し出す。
小さく口を開けた冬弥がそれを口に含もうとし…。
「っ!」
「どうした?!大丈夫か?」
びくっと体を跳ねさせる。
慌ててそう聞いて口を開けさせた。
「少し火傷をしたか…すまん」
「いっ、いえ…」
頬を染める冬弥に謝れば彼はパタパタと手を振る。
どうしたのかと問えば、小さな声で「…キス、されるかと思いました」と告げた。
目を丸くした司はふは、と笑う。
それから。
「流石に不意打ちではしないぞ?」
くしゃりと彼の頭を撫でる。
ますます顔を赤くする冬弥を、可愛いな、と思った。


きっとこの年も、健康で素晴らしい年になるだろう。

(愛おしい彼が、傍にいてくれるから!)

ミクルカの日

「…セェエエフ!!!!」
ドタドタと走り込んできたミク姉ぇがおれ達の前でセーフポーズを作る。
「いや、アウトだろ」
「うーん、セーフ寄りのアウトかなぁ」
「兄さんは甘すぎるって。がっつりアウト」
困ったように笑う兄さんにおれは言う。
つーか巻き込ミクルカすんなっての。
「大丈夫大丈夫、本人がアウトじゃなければセーフセーフ」
「何その理論」
「あはは。なら、セーフかもしれないね」
ミク姉ぇの言葉に嫌な顔すれば兄さんがふわふわと笑った。
二人してきょとんとすれば兄さんはあっけらかんと言う。
「だって…ルカちゃん、今衣装の調整中だからね」


「マスターの嘘つきぃい…!」
ミク姉ぇがじたじたと足をばたつかせる。
それはマスターに言ってほしいし、衣装担当はマスターじゃない…まあ良いか。
おれが何言っても聞かんしな。
「ところで、何の衣装の調整してんの?」
「さぁ?…でも、今年っぽい衣装にしたって言ってたよ」
「今年っぽいって何。料理?」
「それは雪ミクの話じゃないかな…」
兄さんのそれにもミク姉ぇは見向きもしない。
「…カイト兄様、お待たせいたしました」
ふと柔らかな声に振り向けば衣装を着たままのルカ姉ぇが…。
…ルカ姉ぇ、だよな?
「はぁい、すぐ行くね」
「宜しくお願いします、カイト兄様」
「こちらこそ宜しく」
「いやいやいや待ってルカ姉ぇ!!ミク姉ぇもいつまでも拗ねてないでルカ姉ぇ見て!!」
穏やかに進行しそうになってた会話を必死で止める。
つぅか何、それ。
「もー、何レンくん、初音さんはテンションだだ下がり中なんで、す…けど…」
やる気なしモードでおれが指す方を見たミク姉ぇが止まった。
「…ルカ、ちゃん?」
「はい。ルカですわ」
「今年っぽいって言ってたけど、頑張ったんだねぇ」
「ええ。カイト兄様の衣装はまだ迷っておられましたわ」
「そっか、じゃあ早く行かないと…」
固まるミク姉ぇを置いてうちの癒し系たちはそんな話をし出す。
何??兄さんも着るの??
それを?!
「…ねぇ、それ…龍?」
「はい!今年は辰年ですから」
にこにことルカ姉ぇが言う。
ミク姉ぇは大きく息を吐きだしてからルカ姉ぇの肩をがしりと掴んだ。
「私が着る」
「…え?」
「私が、龍着る」
真剣な目をするミク姉ぇ…いや、まあ、気持ちは分かる。
だって、ほぼ肌だもんなぁ…。
角と、尻尾と…ミニ和服(よく分かんねぇけど)で後は何もなし。
何も、なし。
「け、けれど、私用に採寸してしまって…きゃあ?!」
「ルカちゃん、私ねぇ……ちょっとそろそろ限界なんだぁ…」
にっこりとミク姉ぇが笑って慌てるルカ姉ぇを抱き上げる。
やぁ、目が笑ってないですよー、ミク姉ぇ。
「お兄ちゃん、ちょっとルカちゃん借りるね」
「…ほ、程々にね…?」
兄さんが困ったように言う。
これは指図め生贄の人間に一目惚れされた挙句美味しく頂かれる美しい龍、って感じなんだろうか。
「んじゃまあ、おれ達も行くか」
ミク姉ぇとルカ姉ぇが消えた先を見送ってから立ち上がる。
きょとんとする兄さんにおれは笑みを向けた。
「ルカ姉ぇは龍狩りに合ったって、伝えにさ」




美しい龍は狩られる運命に合うのだそうです。



その後どうなったかは、ミクルカの日をとうに過ぎたニ人しか知らぬこと!


「ってかあの衣装、本来はどういうコンセプトなん?」
「龍と人間の曲か、龍騎士と龍の曲か迷ってとりあえず龍を作ってみたんだって」
「…とりあえず作るにしてはおかしいけどな…」