鬱的花言葉で1日1題・ザカセイ(紫露草/アリウム・フラフロSSS

なぁ。こわい、こわいよ
『だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。おれがいるから』
・・・うん
『だから・・・はやくかえってきて』
ここでまっててくれる?
『もちろん。ここでまってる。ずっとまってるよ、』
・・・。・・・おれ・・・がんばるよ。まっていてくれる、から
『・・・なぁ』
?なに、

『・・・おれだってこわいよ、セイリオス』
だいじょうぶ。きっとかえるよ、ロナード
『・・・うん』


『ここで、ずっとまってる』



部屋に入ると兄貴であるセイリオスが椅子に座った状態で寝てた。
・・・寝にくくねぇのか・・・?
「・・・ぅ・・・」
しげしげと見つめていると、兄貴が苦しそうな声を上げる。
起こすかどうしようか迷った挙句、そっと髪を弄ぶに留めておいた。
変に起こすと兄貴、すっげ不機嫌になるしな・・・。
オレみてぇな下っ端に弱いところ見られんのが嫌なのかね。
兄貴がこういう表情してる時は・・・大概は此処に来る原因となった時の夢を見るそうだ。
辛いか辛くないかって言ったら辛いと思うんだが、兄貴には何か思うところがあるらしい。
もうちと弟であるオレを頼ってくれても良いと思うんだけどなぁ。
「・・・ぁ・・・」
「おぅわ。はよッス、兄貴!」
「・・・ザカリー」
取り繕うようにぼぅっとしたナイトブルーの瞳に笑いかける。
兄貴にこう呼ばれるとオレは『ケイン・リバース』から『ザカリー・ファラン』に戻る事が出来んだ。
「どうしたんで?こんなトコで寝るなんて兄貴らしくもない」
「・・・」
顔を覗きこんでも、兄貴は無表情で。
・・・や、いつもこんなんちゃあこんなんなんだが。
らしくは、ない。
「兄貴ー?」
顔の前で手を振ってみると、びくっと身体を揺らしてオレを見た。
腰まで伸びた碧い髪がさらりと揺れる。
「夢、ですかぃ?」
「・・・ああ」
笑いながら問いかけたそれを意外にも肯定されてオレはちょっと面食らった。
「・・・死に別れた、双子の兄の夢・・・」
ぽつりぽつりと呟かれたそれはオレの知らない事実で。
・・・それを知らないと抗議してもしょうがない事だけど・・・兄貴、兄弟が居たのか。
「恐らく・・・向こうは俺がもう死んだと思っているだろうな・・・」
「・・・」
「仕方のないことだ」
自嘲気味に笑う兄貴はすぐに消えてしまいそうだった。
なんだ。
なんなんだ。
知らない。
こんな兄貴は知らない。
オレの知ってる兄貴はもっと強くて、もっと・・・。
「兄貴には」
視線を落とす兄貴の手を、思わず強く握る。
「兄貴にはオレがいる!!」
「・・・ザカリー」
目を見開く兄貴にオレは詰め寄った。
怒られていい。
今は、今だけは。
「・・・オレが、兄貴を護る、から」
「・・・フッ」
真っ直ぐに見つめていると、兄貴がおかしそうに笑った。
「俺を護る?・・・もっと強くなってから言え」
強気でそう言うのは・・・オレのよく知る兄貴、セイリオス・ファランの姿。

兄貴

なあ、兄貴


オレ達は本当の兄弟じゃない

そんな事は分かってる


でも、それでも

兄貴の悲しみを、少しでも掬ってあげたいと思うのは

寂しい思い出から救い出してあげたいと願うのは



オレのエゴなんだろうか


ーー
ザカセイ・寂しい思い出/無限の悲しみ

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