鬱的花言葉で1日1題・イチウリ(斑のカーネーション/ヘムロック・鰤SSS

お前はいつも俺を拒絶する

そう、いつだって


「僕に近づいてくるな、黒崎」
暑い、とイラついた一言を俺にくれる石田。
こいつはいつだってそうだ。
「いいじゃねぇか、別に一緒に帰るくらいよ」
「嫌だ」
「即答してんじゃねぇ!」
じろりと睨む石田に俺も言い返す。
「暑いっていってるだろう?余計に周りの気温上げないでもらえるか、黒崎」
「暑ぃのは俺の所為じゃなくて夏の所為だろーが」
「そういう事言ってるんじゃないんだよ、僕は」
石田の黒い髪がさらりと揺れた。
なんでこいつは俺の言葉を全部否定してかかんだろうな?
黙ってりゃ可愛いもんなのによ。
「なぁ、石田ぁ・・・」
「・・・君は」
呼びかけた途端、前を行く石田の足がぴたりと止まる。
「自分が死神だと自覚しているかい?」
そう、俺に尋ねる石田の表情は俺からは見えなかった。
・・・ええと、死神だと自覚してるか?
「なんだよ、いきなり」
「いいから」
有無を言わせない石田の声はいつになく真剣で。
真面目に答えねぇと、と思った。
「・・・。・・・自覚は、してる。そりゃ最初は訳分かんなかったし、力失ったりなんだりしたけどよ。俺はこの死神の力を持って多くの奴を護りてぇと思ってるぜ。勿論、おめぇもな」
「・・・そう」
俺の答えに石田は一言だけ返してまた歩き出す。
・・・なんなんだ、一体。
「おい、石田」
「・・・」
「なぁって」
「・・・」
「石田!!」
呼びかけても返事もしねぇ石田にイラついて肩に手をかけた・・・途端。
「五月蝿いなぁ!!」
石田が怒鳴る。
・・・えっと。
「・・・なんで泣いてんだよ、お前」
声にも出さずに紺の目に涙を溜めた石田に俺はぎょっとした。
思わずその頬に触れかけた手を振り払われる。
「・・・君、は」
まっすぐに石田が俺を見つめた。
初めて会ったときと同じように。
・・・数年前と変わらない表情で。
石田が俺を見る。
「滅却師と死神が根本的に相容れないと知っていて言っているのかい?僕も君も望まないにも関わらず敵になる可能性があるかもしれないのに?・・・君が僕を殺すことがあるかもしれないと、そこまで覚悟しているのか、黒崎」
「・・・石田」
「100%ないとは言えない。それは君も分かっているだろう」
「・・・ああ」
石田のそれに、俺は頷く。
数年間の出来事は俺の価値観を丸ごとひっくり返させた。
「日常が非日常に変わる。有り得ねぇことじゃない。味方だった奴が敵になる可能性もある。・・・けど、例えてめぇが敵になったとして、俺の元から離れても、俺はお前を助けに行く」
「・・・それで君が命を落としたとしても?僕は嫌だよ。君がいなくなるなんて」
「それは俺も同じだ。だからこそ、そんな後味の悪い結果にさせねぇ」
日差しが照りつける。
暑さの所為か、薄い石田がさらにぼんやりと霞んだ。
「なぁ、石田。俺はお前を絶対に護る。・・・だから」
「・・・だから、何。僕が居なくなったら君は何も出来なくなる。誰かに背中を押してもらわなきゃ・・・何をしていいか分からなくなる」
「昔はな。今は違うさ」
「違わないよ。もし僕が死んだらどうする?君も死ぬかい?僕がいない世界で君は生きていけると?・・・僕はいつ死んでも構わなかった・・・君が現れて、僕に情をかけるまでは」
いつもより石田は饒舌だ。
暑さの所為で何も言葉が出てこねぇ。
・・・暑さの所為?
いや、違う。
これが、事実だからだ。
「・・・君はずるいよ。僕は君の重荷になりたくない。君の為に泣く人を・・・見たくはないのに」
僕の気も知らないで、と泣く石田を、俺は抱きしめる事も出来ない。
細いその身体に触れようとした俺の手は、途中でだらりと落ちた。


嗚呼、そうかもしれない


こいつがいなくなったら俺はきっと何も出来なくなる



風に吹かれる、その花の言葉の様に



俺にとってお前は


ーー
イチウリ・拒絶/貴方は私の命取り

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