手袋とハンドクリーム(レオ仔優・鳩彼SSS

本部に書類を出し、帰ろうと扉を開けた。
今日は随分と寒い。
ポケットの中から手袋を取り出し・・・嵌めたところで外で待っているはずの子どもを呼んだ。
「坂咲優夜」
「・・・はい!」
どこに居たのか、パタパタと軽い音をたて、彼が走り寄って来る。
「帰るぞ」
「はい」
小さな彼が私を見上げて笑う。
それに笑いかけようとし・・・ふとその手に目を留めた。
「・・・坂咲優夜」
「・・・?・・・はい」
「防寒具はどうした」
小さな手は不自然に青白い。
数年の間不安定な外での暮らしをしていたからだろうか・・・それにしても。
「・・・なくちゃ、いけませんか?」
きょとん、とした目で坂咲優夜が聞く。
最近まで冬服も持っていなかった彼だ、不思議に思っても無理はない。
「いけなくはないが・・・。寒くないか」
「はい、へいきです」
私を見上げる小鳩が小さく微笑んだ。
本鳥がそうは言っていてもやはり見ていて寒々しい。
何より、彼に過剰な愛情を向ける本部の彼女に怒られそうだ。
「・・・嵌めておけ」
先ほど嵌めた大き目の手袋を坂咲優夜に投げる。
「わっ。・・・あ、あの・・・?」
「手は、大切にしろ」
エージェントにとって手は大切だと言うと、彼は驚いたように目を見開いた後照れたように笑った。
「・・・はい」
小さな彼には少し大きいのか、嵌める前にすとんと落ちた黒いそれが落ちぬようにぎゅっと手を握っている様子が微笑ましい。
「おおきい、ですね」
「お前もすぐに大きくなる」
くしゃりと髪を撫でて、片方の手を取る。
重ねたそれは確かに手袋より小さく、私は苦笑した。



それから数年。
書類か課題か・・・何か書き物をしている坂咲優夜の手を見つめて私は溜め息を吐いた。
「・・・何です?」
私の視線に気づいたのだろう、彼が前を向いて首を傾げる。
「・・・手を」
「え?」
不思議そうな坂咲優夜の手を引き寄せた。
ペンが音を立ててテーブルに落ちる。
「手を大切にしろ。・・・忘れたか、坂咲優夜」
小さなハンドクリームを取り出し、彼の手に塗っていく。
荒れやすいのだから丁寧なケアをしろといつも言っているのだが。
白く小さい・・・尤も、あの時ほど小さくはないが・・・坂咲優夜の手を撫ぜる。
多くの絶望をその手に残し、希望を掴もうと躍起になっている、彼の指先に私は口唇を寄せた。

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