フラハイ・フラフロ組バレンタイン(レイロナ・ザーイス・アルセイ/SSS)

「ロナードさん」
「・・・なんだ、レイナス」
「チョコください!」
執務室、白い服が汚れるのも構わずにレイナスが腕を差し出したまま土下座しているのを見て、ロナードは深く溜め息をついた。
街の・・・ファンクラブの女性達が見ればなんというだろうかと思いつつも、仕事を再開する。
「さっき渡しただろう」
「大袋のチョコ一粒ですけども?!」
がばぁと顔をあげるレイナスはまったく引く気がないらしかった。
いつもより無駄にテンションが高いのも相俟って非常にめんどくさい。
どうしたものかと目をそらすと、部屋の前で固まっているザードと目が合った。
「・・・ザード」
「・・・。なにやってんの」
呆れたように言う青年にくすりと笑って手を招く。
「気にするな。・・・それより、これ」
「あ、サンキュー」
近づいてきたザードに小さな包みを手渡すとレイナスが突如大声を上げた。
「あああっ?!!」
「うぉあっ、びびった・・・んだよっ」
「ザード、おま、そ、それ・・・」
「え?は?これ?」
ひょい、とザードが先程渡したそれを掲げる。
「ずるいぞロナード!ザードには渡して俺にはくれないなんて!」
「・・・子どもじゃねぇんだから・・・」
ザードが再び呆れた目でそういうのに、ロナードは心の中で全力で同意した。
「そうだ。これ、セイリオスから」
「・・・ああ。別にいいのに・・・いつもすまない、ザード」
「仕事だし。気にすんな」
渡された小さな包みはとある事情から離れて暮らす双子の弟からで、ロナードは思わず表情をほころばせる。
未だに住んでいる場所を明かしてはくれないが元気でやっているようだ。
現にこうして船乗り見習いで船で宅配の仕事をするザードにロナード宛に荷物を託してくる。
「セイリオスは・・・元気にしていたか」
「ああ。こないだカカオスの粉頼んでたから持って行ったぜ。・・・あーでも、お菓子作りはあんまり自信ないって言ってたけどな」
「そうか」
何となくその時の様子と、頼んだものの用途が分かった気がしてロナードは小さく笑った。
セイリオスの作ったものであれば、今彼の傍にいるその人・・・アルバートなら美味しいと食べてくれるだろう。
「なあ、ザード。・・・その紙袋は?」
ふと、レイナスがザードに問うた。
「ん?ああ、チョコ」
「チョコ?」
「そ。えっと・・・ニアのと、ラナのと、ライのと、ルナさん、レイラさん、クレアちゃんとリサちゃん、後グレースさんとセイリオス、それと・・・」
「何その幸せ自慢?!貰いすぎじゃないか?!!」
途中でレイナスが割って入る。
「だぁあ、もううっせーな!レイナスだってこれくらい貰うだろうが!!」
「本命から!!!こないんだよ!!!!」
それに吼えたザードに対し、レイナスも大声で返しながらびしいっとロナードに向かって指を指す。
本命というのはこの場合妻であるところのニアではないのか、というのは口に出さないでおいた。
それを言い出すと色々とややこしい。
「それにしても随分だな。俺からの分はいらなかったか?ザード」
「いるいる!ロナードの作る菓子美味いからなー」
ニッとザードが笑う。
「なあ、一つくれないか」
「なんでだよ、やんねーよ!」
「いいだろ、一つくらい!!」
「レイナスに構ってる暇ねぇの!おれは!!」
「なんでさ!」
「イスファルに会うんだよ!」
「これだけ貰っておいてまだ本命から貰おうとするとか・・・!」
「レイナスに言われたくはねぇけど?!」
ぎゃーぎゃー言い争う二人を見つつロナードはくすくす笑いながら書類を机の上に置いた。
引き出しの中に入れてある包みに気付くのはいつだろう、と思いつつ窓を開ける。
柔らかい光に、目を眇めながらロナードは小さく微笑んだ。
また少し・・・賑やかになるな、と・・・そう思いながら。



今日は賑やかしい聖・バレンタイン。

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