幼く愛しい君を哀してた(ホワ仔クラ

月が蒼く光る夜だった。
すやすやと眠る小さな少年の元に近付き、起こさぬようにそっとベッドに腰を下ろす。
クラシック。
そう小さく呟いてさらりとした髪を撫でた。
彼の双子の弟の代わりにトレードされこの家にやって来てから数ヵ月。
どこが生きることを諦めていた少年が小さな笑顔を向けるようになってから数週間と少し。
…ホワイトブレザーが彼を手に入れたいと願い始めたのはどれくらい前からだっただろう。
引き寄せられるようにクラシック肌に口付けようとし…突如聞こえたらどさりといい音に身体をびくつかせて反射的に振り返る。
風でも吹き込んだのだろうか、落ちていたのは少年の黒いコートだった。
皺になるとぼんやり思いながらホワイトブレザーは拾いに行くこともなくそれを見つめる。
黒衣はカンタレラと呼ばれる彼の、神の花嫁だという神聖な証。
彼がこの家に縛られる象徴。
神の花嫁が毒薬とは皮肉だとホワイトブレザーは嗤った。
そうして、再びクラシックに目を向ける。
しわくちゃになるだろうあのコートのように汚してしまえば…彼は自分のものになるだろうか。
そう思いながらホワイトブレザーはクラシックに覆い被さった。
このまま何度犯したいと願ったか分からない。
クラシックの光を奪ってしまえたら。
クラシックを穢してしまえたら。
彼はどんな表情をするだろう。
泣くだろうか、絶望するだろうか。
…それとも。
「…ほわ?」
ぼんやりした声にハッと下を向くとクラシックがとろんとした目で見つめていた。
目が覚めてしまったのだろう。
ごめん、と退こうとすると「どうしたの」と聞かれた。
「何でもないよ」
「でも、ほわ…苦しそう」
「…。…ねぇ、クラシック。もし僕が君に酷いことをしたいって言ったら、どうする?」
「ひどい、こと?」
小さく首を傾げたクラシックは暫く考えたのち笑みを見せる。
いいよ、とホワイトブレザーに向けて腕を広げた。
「クラシック?」
「ほわは、私をみとめてくれた。ひどいことってどんなことかは分からないけど、ほわなら、いいよ」
嗚呼、どうしてこの子は。
驚きに目を見開いていたホワイトブレザーの表情が歪む。
泣いて拒んでくれたらまだ諦めもついたものを。
どれだけこの美しい少年を壊そうと思ったかしれない。
それが実現できるという喜びと、綺麗なものを壊してしまうという罪悪感にホワイトブレザーは動けなくなる。
「…こわして」
囁く甘い声にホワイトブレザーは身を委ねた。

ごめんね。

口の中で呟いてホワイトブレザーはクラシックの細い腰を抱き寄せる。
彼が願うからだと言い訳をして。
ふつりと何かが切れた音が、聞こえた。


鳥籠に飾られた人形は、壊れる音を望んだ。
白の青年は、黒を塗りつぶすことを願った。

幼く、ただただ愛しい彼を。
青年は愛したかった。
…それは哀しい物語のオーバーチュア。

狂っていく歯車を暗示するように、月が姿を消した。

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