へし燭SSS(R-15)

月の綺麗な晩だった。
「おい、燭台切」
「?何、長谷部君」
寝室に戻るところであったのだろう光忠が長谷部の声に振り返る。
「晩酌に付き合う気はないか?」
先程彼が持ってきた猪口を掲げるときょとんと長谷部を見、それから表情を綻ばせた。
「え、何。珍しいね」
長谷部君が僕を誘うなんて、とくすくす笑いながら光忠が隣に座る。
「たまにはいいだろう」
「まあ・・・。長谷部君が呑んでること自体が珍しいよね」
「そうだな」
光忠の言葉に長谷部は同意した。
普段は次の日の戦闘も考えてあまり酒は嗜まない。
加えて騒がしいところは苦手だった。
宴会とも縁遠く、となれば自然と酒とはかけ離れていく。
「長谷部君呑める方?」
だから、光忠の問いは当然と言えば当然だった。
長谷部はあっさりと答えてやる。
隠す理由もなかった。
「まあな。そう言うお前はどうなんだ」
「え?僕?・・・うーん・・・人並みだと、思うけど」
少し上を向いて考えていた光忠がへにゃ、と笑う。
それにそうかと答えて猪口に酒を注いだ。
「・・・あ、一つしか、ないんだっけ」
長谷部の手元のそれを見、光忠が言う。
尤も、長谷部は彼に「酒を呑みたい」としか言わなかった。
だから最低限の用意と軽いつまみしか彼は持ってこなかったのである。
普通に考えて当り前であろう。
「待って、今持って・・・」
「待て」
「え?」
「これでいい」
「長谷・・・?・・・?!!!」
立ち上がろうとする光忠の腕を引き不思議そうな顔をする彼を引き寄せた。
混乱の表情を見せる光忠にニッと笑ってから長谷部は酒を煽る。
そのまま強引に彼へ・・・口付けた。
「ふぅ?!んんぅ!!!!」
抵抗する彼の口を無理やり開き酒を流し込む。
嫌々と首を振っていた彼も息苦しさには耐えられなかったのだろう、こくりと小さく喉を鳴らし全て享受した。
「あふ・・・あ・・・」
口を離すと光忠は苦しげに息を吐き蜂蜜色の眸をとろんとさせる。
呑み切れなかったそれが口の端から零れるのに長谷部は劣情を感じた。
「・・・!い、いきなり何す・・・!?」
「綺麗だな」
「は・・・?」
声を荒げる光忠にくつくつと笑ってやれば、彼は不思議そうな、それでいてぞっとしたような表情を浮かべる。
「長谷部君・・・?・・・やっ、離して!!!」
必死に抵抗する彼を床に押さえつけ長谷部は再び酒を呑ませた。
「んぐ、ん、・・・〜!!!!!」
びく、びくと躰が震えるのが面白い。
二杯、三杯と重ね、二桁を超える頃にはきつく睨んでいた目元が緩み熱い息を吐き出していた。
「これが人並み、か?」
「・・・ゃ、ぅ・・・さわんな・・・!・・・?!!!!」
力のない腕で押し返そうとする光忠の寝間着の胸元に手を入れ揉みしだく。
酒の入った人間の身体とは面白いもので途端にずるずると力が抜けていった。
「は、せ・・・はしぇべく・・・も、や・・・!!」
「止めてほしいか?」
はくはくと息を吐きながら制止を求める光忠にそう囁く。
頷く光忠の上から己の身体をどかすと彼は明らかにほっとした顔をした。
気が緩んだ一瞬、彼の体を反転させ再び圧し掛かる。
「や、なに・・・!!!や、ああああ!!!!!」
散々暴れたせいだろう、乱れた寝間着はずれ落ち、肩を露出させていた。
白いその肩甲骨の窪みに熱燗を注ぎ音を立てて呑み干す。
「やら、や・・・っ!!!あ、すっちゃ、ぁあああっ!!!」
びくんびくんと光忠の躰が跳ねた。
「ひ、どい・・・。やめぅ、って、いった・・・!!!」
しゃくり上げる光忠の耳に息を吹きかけ耳朶を噛む。
もう片方の肩甲骨にも同じように酒を注ぎ呑み干した。
ぴちゃぴちゃと音をたて舐め啜る。
空いた手で腰を撫で乳首をこねくりまわした。
どの愛撫にも可哀想なほどに躰を跳ねさせ彼は喘ぐ。
酒が入っているからか何時もより堕ちるのは早かった。
「も、もうやめよ・・・?ね、はしぇべくん・・・も、むりぃ・・・!」
怯えた声で懇願し、長谷部に限界を訴える光忠。
だが。
「・・・。・・・だからァ?」
そんな事は長谷部には関係のない事案だった。
低い声から逃げる様にもがく腰を押さえ、長谷部は徳利を振る。
とぷんと音を立てるそれに光忠が恐怖の目で振り仰いだ。
途端、はらりと眼帯が落ちる。
現れた紫の目ににやりと笑ってから目尻に浮かんだ涙を舐め取ってやる。
引きつったような小さな悲鳴。
月に照らされた光忠の肌はほんのりと赤く、とても綺麗だった。
「夜は長いぞ、・・・なァ、光忠?」
震える光忠にそう囁き、長谷部は彼の躰へと徳利を傾ける。

月が綺麗な夜だった。
紅く赤く、燃えるような月が二人を照らしていた。

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