大太刀長谷部をドロップしました(刀らぶSSS・へし燭

「燭台切さん、たっだいまー!」
元気な加州清光の声に光忠は作業していた手を止めて振り返る。
「お帰り、清光君。お疲れ様」
「ぜーんぜん!あいつのレベルに合わせてたら疲れもしな…いてっ!」
得意げに話す清光が後頭部を抑えて蹲った。
よく見れば地面に石が転がっている。
「…っにすんだ!」
「お前が変な事言うからだろ!」
「うっせ、事実じゃん!!」
「もう、喧嘩しないの」
石を投げたのは大和守安定であったようで二人はいつものように言い争いを始めた。
それを仲がいいなあと思いながら止めようと声をかけたところで、安定が、あ、と声を上げる。
「お前と言い争ってる場合じゃなかった」
「何その言い方ムカつく。…まあいいや。長谷部さーん」
安定のそれに清光もぶすくれながら手を振る。
彼がそう呼ぶとは珍しいなとそちらへ目を向けたところで…光忠は、思わず固まった。
榛色の髪、紫色の眸。
まぎれもなく彼と同じで、それでもどこか違う。
「久しぶりだな、光忠」
低く響く声にやはり違うと首を振った。
見上げれば紫の目が細く眇められる。
…彼は自分と同じ目の高さであったはずで。
(だから違うと分かっているのに)
「…長谷部、くん…?」
それでも、と震える声で光忠は聞く。
ニヤリと彼が笑った。
「光忠さん、この人はね」
安定が口を開く。
彼の[長い]髪が風に靡いた。
「国重さん。長谷部国重さん…大太刀だよ」
「え?」
安定のそれに思わずぽかんとする。
今…何と言っただろうか?
「そー言うことだから。燭台切さん、後よろしくな!」
「僕たち、主に報告してくるね」
「…え、ちょ、まっ…!!!」
手を振り主の元へ駆けていく二人に慌てて手を伸ばす。
それを掴んだのは国重だった。
「俺と二人きりは怖いか」
「…」
そう問われて黙りこむ。
怖くはない、ただどう対処すればいいか分からなかったのだ。
曲なりに彼はあの[長谷部国重]なのだから。
「国重、さん」
「雰囲気が柔らかになったな、光忠よ」
するりと頬を撫でられる。
あ、と思う間もなく眼帯を外された。
弱視を伴った目と合わさって視界がぶれる。
「な、に…。…!」
「此方の方がずっと好みだ」
笑う国重。
それだって彼に良く似ているのに違うと思うのは何故だろう。
「国重さ…。…っ?!」
言いかけ、見上げた途端だった。
ぐいと後ろに引っ張られ、眼帯を外された方を再び隠される。
「…貴様、何をしている」
低い声が耳をくすぐった。
嗚呼、この声は。
「…。何、ただの挨拶だ」
「挨拶ならもっと他にするべき相手がいるんじゃないのか」
戻る視界に安堵しつつ、彼の言い様に小さく笑う。
やはり彼だ。
「…行くぞ、燭台切」
「あ、え、ちょ…!」
引っ張られて光忠は声を上げる。
今日は驚かされてばかりだ。
慌てて振り向けば国重がひらひらと手を振っていた。
彼に…へし切長谷部に引きずられるまま歩を進めれば物陰に押し込められる。
壁に押し付けられ、痛いと思う間もなく紫の瞳に射ぬかれた。
同じ高さのそれにどきりとしながらも、思わず笑ってしまう。
「…おい」
「ふふ、だって」
咎めるようなそれに光忠はくすくすと笑った。
榛色の髪、紫の瞳に低い声。
こんなにも同じなのに安心する。
「…長谷部くんは格好良いね」
「は?」
「何でもない」
不思議そうな彼ににこりと笑いかけた。
変な奴、と言う長谷部にまた小さく笑う。
歪む世界でもこんなに安心するのだな、なんて思った。

(だって、こんなに格好良く助けてくれるのは他でもない、打刀のへし切長谷部だけだろう?)

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