君に伝えるI love you/へし燭編

その昔・・・自分たちが『存在』したその後の時代。
ある作家は西洋の愛の言葉を『月がキレイですね』と訳したという。
また違う作家はそれを『わたし、死んでもいいわ』と訳したという。



「お前なら何と訳す」
「・・・僕ですか?」
長谷部のそれにきょとんと言うのは大和守安定であった。
遠征の帰り、ふと昨夜読んだ書物の内容を思い出し聞いただけであったが安定は意外にも、ああでもない、こうでもないと真剣に悩む。
「・・・。・・・少し時間を下さい」
「本当にいう訳でもないだろう」
「考えるなら本当に言いたいじゃないですか」
呆れたように言う長谷部にくすりと笑う安定。
その目線の先には畑当番を終わらせたらしい加州清光と燭台切光忠が手を振っていた。




遠征部隊を認めたらしい清光がパタパタと近づいてくる。
「おっかえり。なーお土産は?」
「お前に渡すのなんてないですぅー」
いつも通りのやり取りが隣で始まった。
遠征で一緒だった仲間はまたかと笑って本丸に先に帰っていく。
長谷部もそれに続こうとしたが、安定の「あ」と言う声に振り返った。
「長谷部さんは、なんて訳すんですか?」
「うん?」
「だから。『I LOVE YOU』をなんて訳すんですか?」
「俺か?」
「はい」
にこりと安定が笑う。
何の話?と首を傾げる清光の後ろから、ひょこりと野菜籠を持った光忠が顔を出した。
「お帰り、安定君。長谷部君。・・・どうかしたかい?」
「おい、燭台切」
にこやかに言う光忠に、長谷部は手招きして呼び寄せる。
にやりと口角を上げる長谷部にあーあーと安定が苦笑した。
「え?何?長谷・・・んんぅ?!!!」
何の疑いもなく近づいてきた光忠をぐいと引っ張って口吸いを施す。
ぽかんと見つめる清光と、見せつけちゃってまあと笑う安定の対比が面白い。
「ん、はぁ・・・。・・・ちょ、っと何!!!」
口を離すと、直後はとろんとしていた光忠がすぐ長谷部を睨む。
「光忠」
「へ?あ、はい?!」
低い声で名を呼べばきつい目がすぐに溶け、びくりと背が跳ねた。
抱き寄せ、戸惑う彼に囁く。
「どうか俺の手によって眠って欲しい」
「・・・え?」
きょとんと光忠が目を瞬かせた。
「何それ、下手な告白のつもり?」
「つもりではなく告白だが」
清光のそれにあっさりと長谷部は言う。
「俺なりの愛の言葉だ」
「・・・なるほど、長谷部さんらしいですね」
安定が笑い、清光が不満そうにする中、言われた当の本人はぼんやりと佇んでいた。
「それで、返事は?」
「・・・。・・・もう」
長谷部の言葉に、漸く言われたそれを理解したらしい光忠が溜息を吐き・・・柔らかく微笑む。
その顔は・・・本当に綺麗だった。



「僕を、君の手で眠らせてください」





生きるも死ぬのも自分の傍でと願うそれを愛と呼んでいいのなら。



どうか、どうか。

死ぬときは誰かの手ではなくこの自分の手で。


綺麗な命を終わらせて。


決して独りで死なせない。



戦う為に生まれたお前よ。


さあこの手を取って。



同じ戦場で逝きましょう?




(死なせない、殺さない、それが出来ないならせめて)

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