デート(へし燭SSS・ワンドロお題)

花火と言うものがあるらしい。
実際見たのは遠くから1度だけ、まだ前の主に仕えていた時。
その時はまだ実体化されていなかったから、最初は敵襲かと思った。
パラパラと弾ける色とりどりの光。
それを・・・今度はこの姿で見たいと思った。



花火大会と言うものがあるらしい。
短刀たちが皆で行こうと楽しそうに言っているのを、長谷部は聞いた。
「花火大会、か」
小さく呟けばいつの間にか隣にいた大和守安定がひょこりと顔を出し、「意外ですね」と言う。
「うん?」
「そういうの、興味ないかと思いました」
「まあな。・・・お前は興味ないのか」
「あるといえばありますけど。・・・本丸からでも見えますし」
にこりと安定が笑った。
そうしてやおら手を差し出す。
「なんだ」
「代わりますよ、今日の内番」
「・・・ちゃっかりしているな」
すぐに手の意味を理解し長谷部は息を吐いた。
綺麗な笑顔で言う安定の頭をぐしゃりと撫でる。
「中身は」
「卵焼きとから揚げで」
「善処しよう」
笑う安定に手をひらりと挙げた。


「はい、長谷部君。お弁当」
「ああ、すまん」
にこ、と笑って差し出されたそれを受け取る。
光忠は黒の着流しを着ていた。
普段、家事をやる際には内番服なので本当に珍しい。
もう休むところだったのを慌てて作ってくれたのだろう。
有難いとともに申し訳なくなる。
「おい、大和守」
「あ、ありがとうございます」
「・・・え?」
案の定、安定に弁当を渡せば彼は目を見開いた。
「え?何、燭台切さんのお弁当あんの?」
「だからそう言ってるだろ。・・・ほら、行くよ」
「だーからってこんな遅くから内番やることなくない?」
「もーいいから」
ぶすくれるのは加州清光で、そういえば彼も花火大会に行くのだと楽しみにしていたことを思い出す。
「浴衣作ってもらったのにー」
「・・・え?誰に?」
「主に決まってんじゃん。・・・あ、燭台切さん、お弁当ありがとー」
「あの人本当に器用だね、無駄に。・・・ありがとうございます、光忠さん」
「・・・あ、うん」
ぽかんとしながらも手を振る二人に彼が手を振り返した。
それを見送ってから長谷部は光忠の手を取る。
「行くぞ」
「・・・え?え??」
戸惑う彼を引っ張れば、光忠は「長谷部君!」と声を荒げた。
「長谷部君は言葉が足りなさすぎるよ!お弁当だって君の為に作ったのに!」
「それは悪かった」
文句を言いながら引っ張られる光忠に、長谷部は向き直る。
嫌ならばついてこないという選択肢もあるだろうに。
不安そうな彼に、長谷部はぽつりと言葉を溢した。
「前の主の時に花火と言うものを見た」
「・・・?う、ん」
「今日も花火と言うものがあるらしい」
「そう、だね」
「花火は空を彩る一つの世界の様だった」
「そう、なんだ?」
「俺はあれをもう一度見たい。・・・出来るなら、お前と」
「・・・長谷部、くん?」
「・・・だから」
手を差し出す。
目を見開く彼に、小さく微笑んで。
長谷部は告げた。
「俺と逢引きしないか」
その言葉にきょとんとした光忠はくすくすと笑い出す。
「長谷部君、あれだよね」
「なんだ」
可笑しそうにふわふわと髪を揺らす彼にぶすくれつつ問いかける。
「古風っていうのかな?・・・ふふ、逢引きって、君」
「古臭くて悪かったな」
「僕は長谷部君のそういうところは良いと思うよ」
金の眼を眇める彼に、長谷部は息を吐いた。
そう言われては怒れない。
「で?何と言うんだ。・・・その、今の言葉では」
「でぃとだよ」
「でぃと、だと?」
「そう。でぃと」
彼の着流しの帯がふわりと揺れる。
嗚呼、綺麗だと思った。
「では行くか、そのでぃととやらに」
手を差し出せば笑いながら光忠がその手を取る。
そのまま引き寄せて腰を抱いた。
踊る様に足を踏み出し、二人でくすくすと笑う。
「僕を君の見た世界に連れて行ってくれるかい?」
「無論」

さあ二人で逝きましょう。



誰もいない、二人しか知らないそのセカイへ。

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