交換(へし燭SSS・ワンドロお題)

ほんの少しの違和感。
それを感じた長谷部は小さく首を傾げた。
「おい」
「はい?」
違和感の原因である、一緒に内番をしていた大和守安定に声をかけると彼は不思議そうに振り向く。
ふわりと・・・首元の「黒い」布が揺れた。
「お前のそれは・・・その色だったか?」
「いえ?僕のは白ですよ」
にこ、と安定が笑う。
「?しかし」
「これは清光のです」
「うん?」
「交換したんですよ」
ふわ、とそれを持ち上げて安定は言った。
なるほど、これが違和感かと思う。
「ちょっと、安定?!」
「あ」
怒ったような声に振り返れば背後で安定が小さなそれを上げた。
向こうから来るのは件の加州清光と・・・燭台切光忠である。
今日は一緒の内番であったようだ。
「お前ね、俺の返せよな!」
「えーやだーー」
手を伸ばす清光にけらけら笑いながら安定が逃げる。
どうやら交換と思っていたのは安定だけであったらしい。
それを微笑ましく見つめている光忠の方に寄った。
「燭台切」
「あ、長谷部くんも内番終わり?」
「まあな。・・・あれはなんだ」
「ふふ。仲良いよね」
くすくすと光忠が笑う。
あれは仲が良いと言うのか?とも思ったが幸せそうなので黙っておいた。
「俺たちも何か交換するか?」
「え?」
わーわーと追いかけっこをしている二人を見つめながら言えば、きょとんと光忠が此方を見る。
「交、換?・・・僕と長谷部君の?」
「ああ」
光忠の言葉に頷いたものの、彼らの様に共通するものがなかった。
服の交換・・・とも思ったが肩幅が違うので窮屈に感じるだろう。
・・・そう思うのが長谷部ではなく光忠であることは何とも悔しいところだ。
太刀である光忠と打刀である長谷部では異なるところがあるのは仕方のない事なのだが。
ふと光忠の手に目線が行った。
白い手を包む、黒い・・・手袋。
「・・・ああ」
小さく呟いて長谷部は笑う。
共通するものが・・・あるではないか。
「へ?ちょ、長谷部君?!」
ぐいと光忠の手を引く。
びくんっと背を跳ねさせる彼の手を自分の口元に寄せた。
「な、何・・・んっ」
戸惑う光忠の手首に舌を這わせ、黒い手袋を口で取る。
するりと手から抜き取る時には光忠は涙目になっていた。
「・・・長谷部、くんっ」
「ああ、すまん」
彼が手を見せたがらないのは知っていたから内番服に入れっぱなしになっていた自分の白い手袋を取り出し嵌めてやる。
もう片方の手も同じように口で外し、自分のと取り換えた。
呆けている光忠を後目に長谷部は彼の黒い手袋を付ける。
自分のとは違って馴染んでいないのがまた良いと思った。
これが光忠の物かと思うと口元が緩む。
「・・・あのさあ」
下から聞こえる呆れた声にその方へ向けば、取り返すのを諦めたらしい清光が白いそれを首元ではためかせながら長谷部を嫌そうな目で見ていた。
「なんだ。加州清光」
「早く逃げた方がいーんじゃない?」
「は?」
清光のそれに首を傾げたところで。
ふおん・・・と首元に微かな風を感じ、振り返る。
そこには何処にあったのか、どこぞの馬より大きな岩を持ち上げる光忠が、いた。
「ま、待て、落ち着け燭台切!!!」
「・・・長谷部君の、馬鹿!!!!」
涙目で叫んだかと思えばぶんとそれが振り投げられる。
爆風と共に木が砕けた。
・・・彼が投石の経験がなくて本当に良かった。
そう心底思ったのも束の間、二石目を彼が持ち上げる。
「おい、お前、俺を殺す気か!!」
「いきなりそういう事するなって僕いつも言ってるよね?!!長谷部君は馬鹿なのかな?!ねえ!!!!」

「・・・へし切のばーか」
「わ、光忠さんすっごい」
呆れたような清光の声とあははと笑う安定の声が、光忠と長谷部のそれでかき消される。



お前の付けていたものをこの身に感じたいと思って何が悪い?


(言葉が足りないって言ってるんだよ、僕は!)

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