内番(へし燭SSS・ワンドロお題)

「「へし切!(長谷部さん!)内番変わって!!!」」
「・・・は?」
声をそろえて告げられた言葉に長谷部は一言、嫌そうなそれを返した。
見上げるのは赤と青、いつもの加州清光と大和守安定だ。
「・・・。・・・理由を言ってみろ」
「今日はお祭りだそうだよ?」
はあと溜息を吐き出す長谷部に言ったのは安定でもなければ清光でもなく、後ろから歩いてきた燭台切光忠であった。
「祭り?」
「そう。出店祭り。それに行きたいんだって」
くすりと光忠が笑う。
だからって何故、と言いかけ彼らの真剣な表情に思わず固まった。
助けを求める様に光忠を見る。
「僕らだって変わってもらったんだろう?」
笑うそれに長谷部はうぐ、と詰まった。
以前に光忠と花火が見たいと安定(と清光)に内番を変わってもらったことがあったからである。
「お前ら」
「燭台切さんはいーって言った」
「光忠さんは僕らの味方なんで」
清光と安定が交互に言い、光忠の腕に縋りついた。
はあ、と溜息を吐き、長谷部は後ろを向く。
「へし切!」
「長谷部さん!」
「・・・長谷部君」
「・・・。・・・来い、燭台切。着替えるぞ」
抗議の声と咎めるようなそれに長谷部は振り返りもせず言った。
「え?」
「汚れるだろう。早く来い」
そう言えば嬉しそうな二人の声が耳に入る。
「無駄遣いしないようにね」と小さく笑いながら言う光忠とそれに返事をする二人の声を聞き乍ら長谷部は自室に戻った。





「お前は良かったのか」
「え?」
長谷部の問いに光忠が不思議そうに首を傾げた。
「祭り。お前は行かなくて良かったのか?」
「ああ。だって長谷部君は行かないだろう?」
こてりと首を傾ける彼。
それに長谷部も頷いた。
「?ああ」
「なら行ったって仕方がないよ」
にこと笑う光忠。
・・・何を言ったか分かっているのだろうか。
思わず顔を手で覆った。
「?どうしたんだい長谷部君。暑い?」
「・・・いや」
「そう?・・・あ、虫がついてる」
よく分からないといった様子だったがすぐに傍の野菜に目を向ける。
どうやら大切に育てていたものに虫がついていたようだ。
嫌そうな様子で虫を取り除いている。
上から覗けば彼の白い肌が内番衣装から隠れずに惜しげもなく見えた。
「虫がついては困る」
「は?」
きょとりと光忠が此方を見る。
「わ、ちょ、なに、ん・・・!」
ぐいと肩を引き寄せて開いた胸元に痕を付けた。
白に映える紅。
長谷部の所有物だという証拠。
「・・・。・・・君ねぇ」
「文句あるのか」
「・・・ないけど」
さらりと聞けば光忠はぶすくれながら前を合わせた。
格好悪いと言いながら閉められ、痕が見えなくなる。
「長谷部君、水」
その様子をぼうっと眺めていれば立ち上がった光忠に上から言われた。
ん、と差し出された手を掴み、立ち上がる。
「かければいいのか?」
「野菜にね!!」
如雨露を突きつけ他に行く彼の後姿にくっくと笑った。
たまには内番も良いかもしれないと、長谷部は水道へ向かう。
日暮れとはいえ、今日も暑い。


それからしばらく、長谷部が水をやり光忠が収穫するという作業を続け。
「・・・よし、こんなものかな」
光忠の嬉しそうな声が響き、長谷部も顔を上げた。
「収穫したら、料理してあげようか」
「料理されるのはお前じゃないのか」
「へっ?うわ、何!!」
籠を抱える光忠ごとひょいと持ち上げる。
暴れる光忠を黙らせ籠の中を覗き込んだ。
「茄子、胡瓜・・・ああ、小さいとまとも食べごろだったか」
「ちょ、っと・・・君」
ぞっとしたように見上げる光忠に長谷部は笑顔を向ける。
「君がそうやって笑う時はろくな事がない」と光忠が溜息を吐いた。
それでも抵抗らしい抵抗をして見せないのはもう諦めているのかそれとも。
目を覗き込めば綺麗な金が溶ける様に眇んだ。
「どの様にして喰べて欲しいんだ?」
「・・・。・・・どうぞ君のお好きなように!」



収穫したら料理するまでが一括り。

これも内番のお仕事。

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