可愛いって言わないで(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

「燭台切さんかーわいーー!」
「・・・もう、やめてよ」
きゃあ!と飛びつく初期刀、清光を受け止めながら光忠が珍しく怒った声を出した。
「可愛いって言わないで」
頬を膨らせながら光忠が言う。
普段から仲の良い彼女に、こう強く言うのも珍しかった。
こてりと清光が首を傾げる。
「なんでー?燭台切さん可愛いのに」
「僕は可愛くないよ。それに可愛いなんて嫌だ」
「どうして嫌なの?」
「どうしてって・・・」
清光に聞かれて困った顔で光忠が考え込み、暫くしてもう一度口を開いた。
「だって僕は刀だよ?清光くんは本当に可愛いから兎も角」
「ありがと。・・・でも燭台切さんだって可愛いのになー。俺だって刀だけど可愛いって言われたら嬉しいよ?」
「僕は大きいし、可愛いなんて柄じゃないしね。・・・それに可愛いより格好良いって言われたい」
「そりゃそうかもしれないけど。可愛い、は女の子の特権だよ?」
「そう?僕からすれば安定君や長谷部君は可愛いよ?」
「・・・。・・・それ、すっごい怒られると思う」
うわあ、と清光が言う。
「安定は兎も角、へし切は可愛くないってー」
「そう?可愛いところもあるんだよ?」
「えー??」
きゃっきゃと話している彼女らを離れて見ているのはいつも通りの二人で。
「可愛いですって、僕ら」
「心外だな」
安定のそれに長谷部は彼女を見ながら答えた。
自分が可愛いと言われたのも心外だが、彼女自身を可愛くないとはどういうつもりだろう。
あんなに可愛いものは存在しないだろうに。
「少し分からせなくては」
可愛らしく笑う光忠を見ながら長谷部は口角を上げる。
小さく呟いたそれは安定の耳には入ったようで、引いた表情で見上げてきた。
「うわあ、長谷部さん悪い顔してる」
呆れたような、面白がるようなそれを無視し、光忠に近付く。
「おい、燭台切」
「ん?なあに、長谷部く・・・うわあ?!」
無防備な彼女を抱き上げた。
あーあ、という清光の声。
「ちょ、ちょっと??」
「五月蠅い、黙っていろ」
急に横抱きにされ連れ出されても膨れ面をするだけでそれ以上何も言って来ない。
大方「清光と話していて嫉妬したのかな、長谷部くん可愛い」くらい思ってるんだろうか。
無駄に腹が立つ。
誰も近付かない倉庫の扉を足で開けた。
ぽすりとそこに降ろし、顔を近付ける。
薄暗い倉庫だが、こんな場所に連れて来られてもきょとんとしているのは長谷部が性的なことをしないと信じ切っているのかそもそも興味がないのか。
あるいは自分が色気を振りまいていることに無自覚なのか。
・・・そこは無自覚なんだろうと思う。
長谷部の邪な思いにも気づいていないようだし。
「何、長谷部く・・・」
「可愛い」
「?!」
ぼそりと囁くと光忠が大仰に目を見開いた。
「な、な・・・」
「可愛いな、お前は。俺に可愛いと言われて驚いてる顔も、俺が何もしないだろうと思っているその思考も、何もかも」
「・・・に、言ってるの・・・ひゃんっ?!」
おろ、と初めて狼狽を見せる光忠の耳に口を寄せる。
「可愛い声」
「や、何・・・」
「涙目なのも可愛らしいな」
「は、長谷部くん・・・?」
「お前は可愛い。誰よりもだ。世界や宇宙等と愚かなもので括るつもりはない。俺の中で、お前は最上だ。愛らしく、美しい・・・俺の唯一」
金色の目に涙をため、長谷部を見上げる光忠にぞくぞくした。
そういえば前も言葉責めをした際に狼狽していたっけと思う。
意外に純情だと思いながら長谷部は距離を詰めた。
「可愛いぞ、光忠。愛おしい俺の一振り。その目も髪も心も全てが可愛らしい」
彼女の両手を覆う。
逸らそうと頑張っていたが観念したように口を開いた。
「か、わいぃって・・・言わないで・・・」
「何故?」
「・・・って、はずか、しい・・・」
うぅ、と顔を紅くする光忠を抱きしめる。
本当に愛らしい刀だ。
「は、長谷部くん?!」
「俺は刀である前に男性型だ」
「え、あ、うん??」
「男を煽るとどうなるか・・・分かるな?」
少し離れ、にいと笑う。
「あ、煽ってな・・・ひゃぅ?!」
あわあわと焦った声の光忠の、たゆんとした胸に手を伸ばした。
「や、やぅ、長谷部くん、や、だあ!」
「嫌がる声も愛らしいぞ?」
「可愛いって、言っちゃだめだって、ば・・・っ、ふゃ、あ・・・!」
嫌々と首を振り、否定の言葉を紡ぐたびに可愛い可愛いと囁く。
立ち回りが良く、何でも出来、男性型よりも強い・・・光忠の唯一の弱点は。

(本丸のお姉さんは可愛いに弱い)

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